グルメ
高松・瀬戸内の旬を食べる食材カレンダー|サワラ・オリーブハマチ・牡蠣から小原紅まで
まず知っておきたい、瀬戸内ならではの「旬」の事情
高松の食材を理解する出発点は、瀬戸内海という穏やかな内海と、温暖で雨の少ない讃岐の気候です。外海のように荒れない瀬戸内は潮の流れが複雑で、栄養に富んだ海域に魚介が集まります。一方で雨が少なく日照に恵まれた平野は、糖度の高い柑橘やサトウキビ、野菜を育ててきました。「海の幸」と「畑の幸」が至近距離で同居しているのが、高松の食卓の最大の特徴です。
ここでは観光ガイドにありがちな「春夏秋冬を四つに割って一品ずつ」という並べ方ではなく、瀬戸内の魚が旬を回していく流れに沿って、高松で実際に味わえる旬の食材を追っていきます。なお具体的な店名や値段の断定は避け、相場の目安として記しています。
---
春は「サワラ」で始まる
瀬戸内の春を告げる魚といえば、まずサワラ(鰆)です。産卵のため4〜5月ごろに瀬戸内海へ入ってくるサワラは、この時季ならではの脂と、白子・真子(卵)の両方が楽しめるのが魅力。身はやわらかく癖のない上品な味わいで、刺身はもちろん、押し寿司や「かんかん寿司」といった郷土の食べ方も伝わります。「鰆」という字が示すとおり、香川では文字どおり春の魚です。
春にはもう一つ、イイダコ(飯蛸)が出回ります。体長5〜20cmほどの小さなタコで、頭の中にぎっしり詰まった卵が米粒のように見えることからこの名がつきました。地元では丸ごと煮た「いいだこおでん」や、里芋と炊き合わせる「いもたこ」、ぬたなどで親しまれています。同じく春先には、釘煮や釜揚げで食べるイカナゴも食卓に上ります。サワラ・イイダコ・イカナゴは、いずれも瀬戸内が暖む頃の風物詩です。
---
夏は白身の高級魚と、瀬戸の地ダコ
夏の瀬戸内を代表するのが、マナガツオ(真名鰹)です。平たい銀白色の高級白身魚で、刺身や西京焼きで珍重されます。「西国にサケなく、東国にマナガツオなし」と言われ、瀬戸内が本場として知られてきた魚。淡白ながら上品な脂があり、夏の祝い膳や贈答にも使われてきました。
タコも夏が本番です。潮流の速い瀬戸内で育つマダコは身がしまり、吸盤の力強さからも鍛えられた身質がうかがえます。タコ飯(たこめし)や、里芋と炊く「いもたこ」など、家庭でも親しまれる存在。暑い時季には酢の物や刺身でさっぱりと食べるのも瀬戸内らしい楽しみ方です。
もう一つ、夏に味わいたいのが瀬戸内の穴子(アナゴ)です。穴子の旬は脂ののり方で好みが分かれ、6〜8月の夏穴子は「梅雨穴子」とも呼ばれ、脂が控えめで淡泊・さっぱりとした味わいが身上。穏やかな潮と豊富な餌で育つ瀬戸内の天然穴子は身の締まりがよく、刺身(お造り)・白焼き・煮穴子、押し寿司と、調理法を選ばずおいしく食べられます。高松市内には瓦町など中心部に穴子を専門に扱う店もあり、季節ごとに上質なものを仕入れて出しています。
畑では、三豊(みとよ)市の在来種「三豊なす」がこの季節の主役。一般的なナスより大ぶりで皮がやわらかく、焼きナスや漬物に向くと地元で愛されています。三豊は高松市内ではなく県西部の市ですが、夏の讃岐を語るうえで欠かせない一品です。
---
秋から冬へ──「ハマチ三兄弟」と牡蠣の季節
香川は、ハマチ養殖発祥の地です。昭和3年、東かがわ市・引田の「安戸池」で野網和三郎が日本初のハマチ養殖事業化に成功した歴史を持ち、いまも県を代表するブランド魚を生み出しています。秋が深まると、脂ののったブランドハマチが旬を迎えます。地元で「ハマチ三兄弟」と呼ばれるのが、引田のひけた鰤(ぶり)、直島育ちの直島ハマチ、そして小豆島生まれのオリーブハマチです。
なかでもオリーブハマチは、小豆島特産のオリーブの葉の粉末を加えた餌で育てた香川独自のブランド。葉に含まれるポリフェノール(オレウロペイン)の働きで身が酸化・変色しにくく、後味のさっぱりした上品な脂が特徴です。例年9月中旬ごろに解禁され、年明けにかけて出回る期間限定の味。オリーブは小豆島、ハマチ養殖は引田、と土地ごとの個性が重なって生まれる一皿です。引田の「ひけた鰤」は水温が下がる冬に向けて脂をのせ、真冬までに出荷を終えるため、寒い時季ほど価値が高まります。
冬の海のもう一つの主役が牡蠣です。香川は全国でも有数の生産地で、志度湾(さぬき市)や高松市牟礼(むれ)、多度津、詫間(たくま)などで養殖されています。栄養豊富な瀬戸内で育つため成長が早く、味が濃いのが持ち味。浜の牡蠣小屋で殻ごと焼いて食べるのが冬の定番の楽しみ方です。ほかにも冬は、初摘みの香りが立つ瀬戸内の海苔(11〜12月が摘み取り期)や、おでんに丸ごと入れるイイダコも旬を迎えます。
---
冬の畑──真っ赤な「小原紅早生」みかん
温暖少雨の讃岐は、柑橘づくりにも適した土地です。冬の高松周辺で外せないのが、香川生まれのみかん「小原紅早生(おばらべにわせ)」。1973年に坂出市の園地で発見された枝変わりから生まれた香川オリジナル品種で、国産の温州みかんおよそ100種のなかでも果皮がとびきり濃い紅色をしているのが特徴です。見た目の鮮やかさだけでなく、甘みと酸味のバランスがよく濃厚な味わいで、地理的表示(GI)にも登録されています。
冬の食卓に並ぶ青ねぎなど、讃岐平野で育つ野菜も合わせて、瀬戸内の冬は海と畑の両方が豊かになる季節です。寒い時季にこそ、この地の食の懐の深さが際立ちます。
---
通年で味わいたい、讃岐の甘味「和三盆」
季節の食材とは別に、高松を訪れたらぜひ味わいたいのが讃岐の伝統的な砂糖「和三盆(わさんぼん)」です。温暖な気候と「和泉砂岩」由来の水はけのよい砂質土壌がサトウキビ栽培に適し、江戸時代から香川(東かがわ市・さぬき市津田など)と隣接する徳島で作られてきました。きめが細かく口どけがよい上品な甘さで、茶席の干菓子に欠かせない存在です。和三盆は香川と徳島の両県にまたがる産物で、高松はその文化圏の中心の一つにあたります。
---
高松の旬を楽しむためのメモ
旬の魚介を狙うなら、高松市中央卸売市場周辺や、市内の鮮魚を扱う飲食店が頼りになります。サワラなら春、オリーブハマチなら秋から冬、牡蠣なら厳冬期、と季節を合わせて訪れると満足度が高まります。価格は時季や水揚げで大きく動くため、ここでは具体的な金額は記していません。市場や直売所で「今日のおすすめ」を聞くのが、瀬戸内の旬に近づく一番の近道です。
注意したいのは産地の帰属です。オリーブハマチやオリーブ牛のオリーブは小豆島、三豊なすは三豊市、と高松市そのものではなく香川県内の各地から集まる食材も多く含まれます。高松はそれらが流通し、味わえる瀬戸内の食の玄関口だと考えると、この街の食卓の豊かさがより立体的に見えてくるはずです。
この記事のエリアでグルメを探す
RELATED COLUMNS
関連するコラム





