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広島の旬カレンダー|瀬戸内の海と山が運ぶ季節の食材
瀬戸内が育てる広島の「旬」
広島の食材を語るとき、まず外せないのが穏やかな瀬戸内海の存在です。大小の島々が複雑な潮の流れをつくり、栄養豊富な汽水域が小魚から牡蠣まで多彩な海の幸を育てます。広島市の食卓に並ぶ魚介の多くは、西区草津港にある広島市中央卸売市場を経由して届きます。一方で、レモンや柑橘は呉市や尾道市・生口島といった島しょ部、牡蠣の名産地としては廿日市市や呉といった周辺地域の名が挙がります。広島市そのものの旬と、瀬戸内一帯の旬は重なりつつも産地が異なる——この違いを知っておくと、市場や鮮魚店で食材を選ぶ目がぐっと深まります。ここでは季節を追いながら、広島ならではの旬の食材を産地の帰属とともに整理していきます。
冬の主役は牡蠣(かき)
広島の冬といえば、なんといっても牡蠣です。広島県の牡蠣(むき身)生産量は全国のおよそ6割を占め、長年にわたって日本一の座を守り続けています。養殖されるのはそのほとんどがマガキ(真牡蠣)で、室町時代末期に始まったとされる養殖の歴史は400年以上。江戸時代には「かき船」を仕立てて大阪などへ売りに出る商いも生まれ、牡蠣は古くから広島の経済と食文化を支えてきました。
水揚げが始まるのは10月から3月ごろ。最も身がふっくらと太り、旨みが乗るのは寒さの厳しい12月から2月にかけてです。牡蠣を出す店では、殻付きを炭火で焼く焼き牡蠣、衣をまとった牡蠣フライ、土手鍋など調理法もさまざま。加熱用と生食用では育てられる海域の指定が違うため、生で味わいたいときは「生食用」と明記されたものを選ぶのが安心です。なお、廿日市市の大野瀬戸や呉なども県内有数の産地で、広島市内で口にする牡蠣はこうした周辺海域から運ばれてくることも多いと覚えておくとよいでしょう。
冬の食卓を彩る広島菜
海だけでなく、冬は野菜の旬でもあります。広島市安佐南区の川内(かわうち)地区を本場とする広島菜は、高菜・野沢菜と並ぶ「日本三大漬菜」のひとつ。白菜の仲間にあたる大ぶりの葉物で、暑さに弱いため秋に種をまき、11月中旬から1月末にかけて収穫の盛りを迎えます。寒さが増すほど葉に風味が乗るのが特徴です。
生のまま食べることはほとんどなく、もっぱら塩漬けにした「広島菜漬」として親しまれています。荒漬けであくを抜いてから二度漬け、本漬けと手間をかけて仕上げる本格的なものは、ピリッとした辛みと爽やかな香りが身上。炊きたてのご飯に巻いて食べる広島の冬の定番です。年末年始のおみやげとしても定着しており、市内のスーパーや市場でこの時期に最も多く出回ります。
春は瀬戸内の小魚が目覚める
3月から5月にかけて、瀬戸内海はにわかに賑やかになります。代表格は「春告魚(はるつげうお)」とも呼ばれるメバル。くせのない淡白な白身で、煮付けにすると骨離れもよく、ほどよく脂が乗っています。春は産卵を控えて瀬戸内へ回遊してくるサワラ(鰆)や鯛が旬を迎える時期でもあり、桜の頃に揚がる鯛は「桜鯛」として珍重されます。
釣り好きにとっての春の楽しみがコウイカです。瀬戸内の複雑な潮流に乗って岸近くに寄ってくるため、春先のエギングの好機。もっちりとした厚みのある身は刺身でも煮ても旨みが濃く、地元の鮮魚店にも並びます。ほかにも、脂が少なく上品な白身のサヨリ(細魚)が3〜5月に旬を迎え、春らしい一皿を演出します。チダイの幼魚を「春子(はるこ)」と呼んで寿司ネタにするのも、瀬戸内ならではの春の味わいです。
夏を象徴する小イワシと穴子
広島の夏の風物詩といえば、小イワシです。正体はカタクチイワシで、広島では古くから「小いわし」の名で親しまれてきました。旬は6月から8月。漁が解禁されると、スーパーや鮮魚店に新鮮な小イワシがずらりと並びます。
何より特筆すべきは、これを刺身で食べる文化が広島ならではだという点です。傷みが早く鮮度が命のため、産地でなければ生食はまず難しい魚。地元には「鰯(いわし)七度洗えば鯛の味」という言い回しがあり、丁寧に水洗いを繰り返すことで臭みが抜け、鯛にも引けを取らない上品な味になると言われます。おろししょうがと醤油でいただくのが定番で、天ぷらにしても美味。これぞ「県外不出」と呼びたくなる広島の夏の味です。
もうひとつの夏の楽しみが穴子(あなご)。脂が乗って美味とされる時期は夏と冬で、ふっくらと焼き上げてご飯にのせる「あなごめし」は広島を代表する一品です。ただしあなごめしの発祥は宮島の玄関口である廿日市市の宮島口で、明治期に駅弁として売り出されたのが始まり。潮流の速い大野瀬戸でとれる「瀬戸のあなご」は脂とやわらかさに定評があります。広島市内で味わうあなごも、こうした瀬戸内の恵みであることを知っておくと一層おいしく感じられるはずです。
秋から冬へ、深まる旨み
夏の盛りが過ぎると、瀬戸内の魚は再び脂を蓄え始めます。秋の代表がコノシロ。魚へんに冬と書く「鮗」の字が示す通り、秋から脂が乗っておいしくなる魚で、酢じめにして寿司や郷土料理に用いられます。同じ頃、ウマヅラハギ(広島では「ハゲ」とも)は肝が大きく育ち、肝醤油で食べる刺身が珍味として喜ばれます。
さらに寒くなると、カサゴ(広島ではメバルと並ぶ冬の煮魚の定番)やヒラメが本格的な旬に。1〜2月の「寒ビラメ」は身がしまって最上とされます。柑橘では、瀬戸内が国内有数の産地であるレモンが秋から動き出します。広島県のレモン生産量は全国一で、全国シェアのおよそ半分を占めるほど。10〜11月には香り高い緑色のグリーンレモンが、年末から春にかけては馴染みのある黄色いレモンが出回ります。主産地は尾道市の生口島(瀬戸田)や呉市、大崎上島などの島しょ部で、温暖で雨が少なく台風の被害も少ない瀬戸内の気候がレモン栽培に向いているのです。広島の海鮮に瀬戸内レモンを搾る——それだけで、季節がぐっと近づいてきます。
旬を楽しむための実用メモ
季節の食材を確実に味わうなら、広島市中央卸売市場(西区草津港)の流れを意識すると失敗が少なくなります。牡蠣は12〜2月、小イワシは6〜8月、広島菜漬は11〜1月、メバルやコウイカ・桜鯛は春——とおおまかな目安を頭に入れておけば、市場や鮮魚店、地元の居酒屋で「今いちばんの旬」に出会いやすくなります。価格は時期や水揚げ量で大きく動くため、店頭で相場を確かめながら選ぶのがおすすめです。生食用と加熱用、産地(広島市近海なのか、廿日市・呉・尾道の島しょ部なのか)といった表示にも目を向ければ、瀬戸内の旬をより深く味わえるはずです。海と山の幸が季節ごとに表情を変える広島で、ぜひ「今だけ」の一皿を探してみてください。
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