グルメ
長崎市B級グルメ食べ歩き — ちゃんぽん発祥地で味わう中華・洋食・甘味
港町・長崎が育てた「混血」の食文化
長崎市のB級グルメを語るうえで欠かせないのが、この街が約200年にわたって日本で唯一、出島を通じて外国に開かれていた港町だったという事実です。中国・ポルトガル・オランダの食材と調理法が長崎の台所で混ざり合い、やがて庶民の一皿へと姿を変えていきました。ちゃんぽんも、皿うどんも、トルコライスも、ハトシも、もとをたどれば異国の料理。それを長崎の人が自分たちの味に仕立て直したのが、今のご当地グルメです。食べ歩きの舞台も、路面電車で結ばれた新地中華街・浜町(はまのまち)アーケード・中通り商店街・思案橋(しあんばし)周辺にぎゅっとまとまっており、半日もあれば中華・洋食・甘味を一通り巡れます。まずはこの街の成り立ちを頭の片隅に置いてから、一皿ずつ味わっていくのがおすすめです。
ちゃんぽんと皿うどん — すべては四海樓から始まった
長崎名物の代名詞といえば、やはりちゃんぽんです。豚肉・かまぼこ・きくらげ・もやし・キャベツといった具材を炒め、豚骨と鶏ガラベースの白濁スープで太麺を煮込んだ一杯は、栄養満点でボリュームたっぷり。実はこのちゃんぽん、中国生まれではなく、1899年(明治32年)に長崎で誕生した料理です。中国・福建省から長崎へ渡ってきた陳平順(ちんへいじゅん)が、経済的に困窮していた華僑や中国人留学生のために、福建料理の「湯肉絲麺(とんにいしいめん)」をアレンジして安くて滋養のある「支那うどん」として考案したのが始まりとされます。
皿うどんも同じ陳平順が生み出したちゃんぽんのバリエーションです。麺を一度焼いてから具材と炒め、少なめのスープを麺にしみ込ませ、汁なしで平皿に盛ったことから「皿うどん」と名づけられました。現在では、ちゃんぽん麺を使う「太麺(もちもち系)」と、パリパリに揚げた「細麺(揚げ麺)」の二種類があり、好みで選べます。新地中華街や思案橋周辺の中華の店で味わえ、価格は店や麺の太さによりますが、おおむね1食700〜1,200円前後が目安。ウスターソースをひと回しして味変を楽しむのが長崎流という人も多く、テーブルに当たり前のようにソースが置かれているのも、この街ならではの光景です。
長崎が生んだ謎多きご当地洋食・トルコライス
中華とならんで長崎市民のソウルフードと言えるのが、トルコライスです。一皿にピラフ(またはバターライス)・ナポリタン風スパゲッティ・トンカツをワンプレートに盛り合わせた、いわば「大人のお子様ランチ」。1950年代に長崎の洋食店で生まれたとされる、れっきとした長崎発祥のご当地洋食です。
おもしろいのは、トルコ料理とは無関係なのに「トルコ」を名乗っている点で、名前の由来には諸説あります。多文化が共生するトルコのように一皿に多国籍の料理が同居しているからという説、スパゲッティをイタリア・ピラフを中国(米食文化)に見立て、その地理的な中間にあるトルコが「架け橋」だからという説、神戸の米軍施設で働いた人物がトルコのピラウに似せて「トルコ風ライス」と呼んだ説などが伝わりますが、どれも確証はありません。店ごとにカツがエビフライや生姜焼きに替わったり、ソースがドミグラスかカレーかで違ったりと個性が出るのも魅力で、思案橋・銅座(どうざ)周辺の老舗洋食店や喫茶店で味わえます。ボリューム満点で、価格は1皿1,000〜1,500円程度を見ておくとよいでしょう。
卓袱料理から生まれた庶民の味・ハトシ
もう一つ、長崎ならではの揚げ物がハトシです。エビのすり身を食パンで挟んで油で揚げた料理で、外はサクサク、中はぷりっとした食感。中国語で蝦(エビ)を多士(食パン)で挟む「蝦多士(ハートーシー)」がなまった名前と言われ、明治時代に清国から長崎へ伝わりました。
もともとは円卓を囲んで大皿料理を取り分ける卓袱(しっぽく)料理の一品でした。卓袱料理は、江戸時代に長崎で唐人(中国人)が行っていた食事のかたちをルーツに、中国・西洋・日本の要素が溶け合って発展した、まさに長崎らしいコース料理です。かつては料亭で味わうものだったハトシが、いつしか家庭や街の店でも作られるようになり、今では新地中華街や出島周辺で揚げたてを手づかみで頬張れる、気軽な食べ歩きグルメになりました。1個あたり数百円程度から買えるので、中華街を歩きながらの小腹満たしにうってつけです。
食べ歩きの王道・角煮まんじゅうと中華街の点心
長崎の食べ歩きの代名詞といえば、角煮まんじゅうを外すわけにはいきません。とろとろになるまで煮込んだ豚の角煮を、ふわふわの蒸しパン(割包・くわっぱお)に挟んだもので、卓袱料理の人気メニュー「東坡肉(トンポーロー)」がルーツとされます。脂の甘みと醤油だれの照りがしみ込んだ角煮を、湯気の立つ蒸したてで頬張る幸福感は格別です。浜町アーケード周辺には蒸したてを店頭販売する専門店があり、片手で食べられる手軽さも相まって、観光客にも地元の人にも親しまれています。1個300〜500円前後が相場の目安です。
新地中華街は、横浜・神戸とならぶ日本三大中華街のひとつ。約100メートル四方の十字路に30軒ほどの中華料理店や雑貨店が軒を連ね、肉まん・中国菓子・点心などを店先で買ってつまみながら散策できます。規模はコンパクトながら密度が濃く、ちゃんぽんから角煮まん、ハトシ、デザートまで長崎の食が凝縮されているので、食べ歩きの起点にすると効率よく回れます。
カステラと「食べる」ミルクセーキで締めくくる
甘味の主役は、なんといってもカステラです。ふんわりした生地の底にザラメのシャリッとした食感が残るカステラは、もとをたどればポルトガルから伝わった「南蛮菓子」。1543年の鉄砲伝来をきっかけに始まった南蛮貿易のなかで、宣教師たちが「パン・デ・ロー」と呼ばれる焼き菓子を長崎にもたらし、それが日本独自に改良されて今のカステラになったと言われます。南蛮貿易の窓口だった長崎が本場とされるゆえんです。思案橋エリアには福砂屋(ふくさや)をはじめとする老舗が本店を構え、切り落としや一切れ単位で買える店もあるので、食べ歩きの締めに一切れ味わうのも乙です。
そして長崎を語るうえで欠かせないのがミルクセーキ。一般的なミルクセーキは飲み物ですが、長崎では卵と練乳に砕いた氷を合わせ、シャーベット状に凍らせてスプーンですくって食べる「食べるミルクセーキ」が定番です。蒸し暑い長崎の夏をしのぐ氷菓として根づいたもので、シャリシャリの食感とやさしい甘さがクセになります。中通り商店街や浜町周辺の喫茶店・甘味処で味わえ、食べ歩きで火照った体をクールダウンさせるのにぴったり。中華・洋食・揚げ物・甘味と一通り巡って、最後に冷たい一杯で締めくくる——それが長崎市らしいB級グルメの楽しみ方です。
食べ歩きの実用メモ
長崎市内の食べ歩きスポットは、路面電車(長崎電気軌道)の「新地中華街」「思案橋」「観光通」の各停留場周辺に集中しており、いずれも徒歩圏内でつながっています。浜町(浜んまち)アーケードは約120店が連なる中心商店街で、そこから北東へ伸びる中通り商店街は約400メートルの歴史ある通り。揚げ物や蒲鉾、惣菜などを売る店が並び、揚げたてが店頭に出る昼前や夕方は特に活気があります。一皿のボリュームが大きい料理が多いので、ちゃんぽんやトルコライスは数人でシェアし、ハトシや角煮まんじゅうなど片手で食べられるものを買い歩く——そんな組み立てにすると、限られた胃袋で長崎の多彩な味を効率よく回れます。
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