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奈良・大和の旬を味わう食材カレンダー|柿・大和野菜・大和茶と盆地の四季
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奈良・大和の旬を味わう食材カレンダー|柿・大和野菜・大和茶と盆地の四季

海に面さない奈良の「旬」は山と盆地が決める

奈良は全国でも数少ない、海に面しない内陸県です。だからこそ旬の主役は新鮮な海の魚ではなく、盆地と山里が育てる野菜・果物・茶、そして魚を山里まで運ぶために生まれた保存食文化にあります。

奈良盆地は東を笠置山地、南を竜門山地、西を生駒・金剛山地に囲まれた地溝盆地で、典型的な内陸性気候を示します。夏は山に熱がこもって蒸し暑く、冬は大阪や京都よりも冷え込みが厳しい——この一年を通じた大きな寒暖差が、奈良の食材に独特の甘みと締まりを与えます。葉物が霜に当たって甘くなり、山間部の茶葉が昼夜の温度差で旨味をためこむのは、まさにこの地形ゆえです。海産物の旬カレンダーをそのまま当てはめても、奈良の食の本当の姿は見えてきません。

秋から冬へ──全国2位を誇る奈良の柿

奈良の秋といえば、まずです。奈良県は柿の生産量が全国第2位で、なかでも県南西部の五條市・西吉野一帯は「柿のまち」として知られ、最盛期には一日に200トン規模が出荷されます。

柿は一品種で長く出回るわけではなく、リレーのように主役が移っていくのが面白いところです。9月下旬から10月にかけては種なしの刀根早生(とねわせ)平核無(ひらたねなし)といった渋柿を渋抜きしたものが出回り、11月から年末にかけては完全甘柿の富有柿(ふゆうがき)が最盛期を迎えます。富有柿は果肉が緻密でとろりと柔らかく、果汁が多いのが持ち味で、奈良が全国一の産地です。

ここで一つ補足を。柿の名産地である五條・西吉野や、後述する柿の葉寿司の本場である吉野は、いずれも奈良市から見れば県南部にあたります。同じ奈良の旬でも、産地は盆地の市街地ではなく山あいに広がっている——この地理感覚を持っておくと、奈良の食はぐっと立体的に見えてきます。

「柿の葉寿司」が語る、海なし県の知恵

柿が実る土地で生まれた郷土料理が、奈良を代表する柿の葉寿司です。一口大の酢飯に鯖や鮭の切り身をのせ、抗菌作用のある柿の葉で包んで押しをかけたもので、奈良県郷土料理として農林水産省にも選定されています。

その由来には諸説ありますが、よく語られるのが、紀州(和歌山)の漁師が熊野灘で獲れた夏鯖を塩で締め、峠を越えて吉野川沿いの村々へ売り歩いたという話です。ちょうど村の夏祭りの時期と重なり、ごちそうとして広まったと伝わります。海から遠い山里では、塩でしっかり締めた鯖を柿の葉で包むことが、魚を日持ちさせる知恵そのものでした。古くは鯖だけでしたが、明治以降に鮭も定番となり、今では鯖と鮭の食べ比べが楽しみのひとつになっています。海なし県だからこそ生まれた保存食という背景を知ると、一切れの味わいが変わってきます。

冬から春──盆地の寒さが甘くする大和野菜といちご

奈良には県が認定する大和野菜というブランドがあり、伝統野菜とこだわり野菜を合わせて20品目以上が登録されています。その多くが、盆地の冷え込みが本領を発揮する冬に旬を迎えます。

代表格が大和まな(大和真菜)。古くから奈良で食べ継がれてきた葉物で、霜が降りる頃に甘みと旨味が増します。秋から春まで長く収穫できますが、寒さの厳しい真冬のものが特に柔らかく、煮浸しや汁の実にすると滋味があります。山の芋の一種である大和いもも冬が旬で、すりおろすと箸で持ち上がるほどの強い粘りが特徴。とろろにして麦飯にかけるのが定番です。

そして冬から春にかけての楽しみがいちごです。奈良は県をあげていちご育成に力を入れており、奈良県生まれの古都華(ことか)は香りが強く、糖度・酸度ともに高い濃厚な味わいで人気を集めています。古都華は12月頃から5月下旬まで出回りますが、特に甘さがのるのは1〜3月。明日香村を中心に育てられるあすかルビーも、みずみずしくさわやかな酸味で知られる奈良ならではの品種です。いちご狩りの最盛期はやはり冬から早春で、寒い時期ほど果実が甘く締まるのは、ここでも盆地の気候が効いています。

夏──ひもとうがらしと、冷たいそうめん

夏の大和野菜の主役はひもとうがらし。紐のように細長い形をした唐辛子の仲間で、辛みがほとんどなく、肉厚で甘いのが特徴です。6月から9月頃が旬で、さっと炒めたり、じゃこと煮たりと家庭料理で重宝されます。同じ夏野菜では、丸くつやのある大和丸なすも奈良の食卓を彩ります。

暑い盆地の夏に欠かせないのが、桜井市三輪が発祥とされる三輪そうめんです。1200年以上の歴史を持つ手延べそうめんで、細いながらコシが強いのが身上。夏は季節の具をのせた冷やしそうめんで、冬は温かいだしで食べるにゅうめんとして、大和地方では一年を通じて親しまれています。冷たいそうめんが夏の風物詩である一方、にゅうめんが冬の体を温める——一つの食材が季節で表情を変えるのも、奈良らしい旬の感じ方です。

年間を通じて──千年の歴史を抱く大和茶

季節の食材とは少し性格が異なりますが、奈良の食を語るうえで外せないのが大和茶です。その起こりは1200年以上前、弘法大師(空海)が唐から持ち帰った茶の種子を宇陀に植えたことに由来すると伝わり、日本の茶文化のごく初期にまでさかのぼります。室町時代には奈良出身の村田珠光が「わび茶」の精神を生み、茶の湯の源流ともなりました。

産地は、奈良市東部の月ヶ瀬・田原をはじめとする大和高原一帯。標高200〜600mの山間冷涼地で、昼夜の温度差が大きいため、葉に糖や旨味がよくのります。この冷涼さゆえに新茶の摘採は全国の茶どころより遅く、一番茶の収穫が5月下旬から6月にずれ込むこともあり、月ヶ瀬は日本でもっとも茶摘みが遅い地域のひとつとして知られています。新茶の季節に大和高原を訪ねれば、奈良の旬がいかに山の気候と結びついているかを、舌と目の両方で実感できるはずです。

月ヶ瀬は梅の名所でもあり、早春には渓谷沿いに梅が咲き、初夏には梅の実が旬を迎えます。茶も梅も、奈良市の市街地ではなく東の山里が育む味——海を持たない奈良の旬は、こうして盆地と山あいの両方に静かに息づいています。

奈良の旬を味わうための実用メモ

奈良で旬の食材に出会いたいなら、直売所や産地の道の駅をのぞくのが近道です。大和野菜やその時季の柿・いちごは、市街地のスーパーより産地直送の売り場のほうが品ぞろえも鮮度も豊かです。柿の葉寿司は奈良の専門店や駅の売店で通年手に入りますが、夏鯖に由来する料理だけに、夏のものは格別の趣があります。価格はいずれも時季や品質で動くため、本稿では具体的な値段は記しません。旬のピークと出回りの目安だけ頭に入れて、あとはその日の売り場で出会った旬を選ぶ——海のない県ならではの、山と盆地が育てた味を、季節とともに楽しんでみてください。

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Written by

小林 拓也

サイクリスト・旅人

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