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奈良市のB級グルメ案内 ― 茶粥・奈良漬・かき氷の聖地をめぐる食べ歩き
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奈良市のB級グルメ案内 ― 茶粥・奈良漬・かき氷の聖地をめぐる食べ歩き

奈良市の食は「古都の記憶」でできている

奈良市のグルメは、派手なご当地B級麺で売る街とは少し毛色が違います。ここの名物は、平城京や東大寺といった千三百年の歴史と地続きで、いまも日常の食卓や朝ごはんに生きているのが特徴です。煮出したほうじ茶で炊く茶粥、酒どころ奈良が生んだ奈良漬、そして「氷の聖地」だからこそ根づいたかき氷文化。観光の合間に味わうなら、こうした奈良市ならではの背景を知っておくと、一皿の重みがまるで違って感じられます。近鉄奈良駅・JR奈良駅を起点に、東大寺や興福寺を巡りつつ、東向商店街からならまちへと食べ歩くのが定番の動線です。

まずは「氷の聖地」奈良のかき氷から

奈良市を語るうえで外せないのが、いまや全国のかき氷ファンが巡礼に訪れるかき氷です。なぜ奈良なのか――その答えは、奈良公園のすぐそば、東大寺へ向かう国道沿いに鎮座する氷室神社にあります。和銅3年(710年)の平城京遷都に際して創建されたと伝わり、かつてはここから朝廷へ氷を献上していた、まさに氷の神様を祀る社です。清少納言の『枕草子』にも「削り氷にあまづら入れて」と記され、平安の昔から削った氷に甘葛をかけて涼をとっていたことが知られています。

この歴史を背負って、奈良市では夏になると街じゅうの和菓子店・喫茶店・カフェがこぞって個性的なかき氷を出します。県北東部・月ヶ瀬産のほうじ茶を使った香ばしい氷や、近畿有数の産地でもある地元産いちごのシロップ、葛(くず)を効かせたとろみのある一杯など、写真映えする創作系まで実に多彩です。価格は素材やトッピングによりますが、専門店の本格的な一杯で1,000〜2,000円前後が目安と考えておくとよいでしょう。毎年5月1日には氷室神社で氷柱を奉納する「献氷祭」が、また初夏には県内外の名店が集う「ひむろしらゆき祭」が開かれ、奈良が氷の街であることを実感できます。

「大和の朝は茶粥で明ける」― 奈良の朝食文化

奈良市を代表する郷土食が、茶粥(ちゃがゆ)です。地元では親しみを込めて「おかいさん」と呼ばれ、煮出したほうじ茶のなかに冷やごはんを入れてさらりと炊き上げます。米の粒がほどよく立った、あっさりとした口当たりが身上で、「大和の朝は茶粥で明ける」と言われたほど、長らく奈良の朝の定番でした。

そのルーツは驚くほど古く、東大寺で千二百年以上続く修二会(お水取り)の練行衆の献立にまで遡るとされます。大仏建立の際、限られた米を茶でのばして腹を満たしたのが始まりという説も伝わり、まさに古都・奈良市の歴史と一体の食です。いまも東大寺周辺やならまちには、茶粥を朝食や昼の御膳で出す宿・食事処が点在し、奈良漬や季節の小鉢を添えた「茶粥御膳」のスタイルで味わえます。胃にやさしく、観光初日の朝に体を整えるのにもうってつけ。価格帯は御膳仕立てで1,000円台が中心の目安です。

平城京から続く保存食、奈良漬

奈良の名を冠する漬物といえば奈良漬。白うり・きゅうり・すいか・しょうがなどを塩漬けにしたのち、酒粕に何度も漬けかえて長期間熟成させる、深い飴色とまろやかな香りが持ち味の粕漬けです。その歴史は古く、平城京跡の長屋王邸から出土した木簡に「加須津毛瓜(かすづけうり)」の文字が見え、奈良時代にはすでに粕漬けが食べられていたことがわかっています。

この漬物が「奈良漬」として名を広めたのは江戸時代。奈良の中筋町に住んだ漢方医・糸屋宗仙が白瓜の粕漬けを「奈良漬」として売り出し評判を得たと伝わります。背景には、奈良が清酒発祥の地のひとつとされ、良質な酒粕が手に入った土地柄があります。奈良市内には今も老舗の奈良漬店が点在し、店ごとに漬け込み年数や酒粕の配合が異なるため、薄塩のものから濃厚に熟成させたものまで食べ比べが楽しめます。土産として量り売りや小袋で買えるほか、酒の肴やお茶請けにもよく合う、奈良市らしい一品です。

柿の葉に包まれた、奈良の押し寿司

奈良の食卓と土産物を語るうえで欠かせないのが柿の葉寿司です。ひと口大に握った酢飯に、塩でしめた鯖(近年は鮭や鯛なども)をのせ、渋柿の葉でぴったりと包んだ押し寿司で、海の遠い大和ならではの保存の知恵が詰まっています。柿の葉に含まれるタンニンと酢の防腐効果で日持ちし、一晩おくと葉の清々しい香りと鯖の旨みが酢飯に移って味が一段とまろやかになります。

もともとは五條・吉野川流域で生まれた郷土料理で、紀州の漁師が運んだ塩鯖を、夏祭りのごちそうとして葉に包んだのが始まりと伝わります。発祥は南部の山あいですが、いまでは奈良を代表する味として、近鉄奈良駅・JR奈良駅周辺や三条通りの専門店・土産店で広く手に入ります。1個ずつ柿の葉に包まれているので、ならまち散策のあいまに数個つまむのにも手頃。価格は1個あたり百数十円前後が相場で、鯖・鮭の詰め合わせ折詰めなら手土産にも向きます。なお同じ柿の葉寿司でも店ごとに鯖のしめ加減や飯の固さが違うので、食べ比べてお気に入りを見つけるのも一興です。

ならまちと商店街で楽しむ食べ歩き

奈良市の食べ歩きの中心は、近鉄奈良駅前から南へ延びる東向商店街と、三条通りを挟んで続くもちいどのセンター街、そして江戸〜明治の町家が残るならまちの一帯です。もちいどのは現存する最古級の商店街のひとつといわれ、新旧あわせて百を超える店が軒を連ね、食事処からスイーツ、食べ歩きグルメまでが密集しています。

このエリアの名物のひとつが、もちいどの入口近くで実演される高速餅つきで知られる店のよもぎ餅です。蒸したてのもち米を目にもとまらぬ速さでつき上げ、つきたてのやわらかな餅にあんを包んだ一個から味わえます。価格はワンコイン以下が目安で、観光客が足を止める奈良市らしい名物景です。あわせて押さえたいのが葛(くず)スイーツ。吉野で生まれた吉野本葛を使った葛切りや葛餅は、ならまちや東大寺門前の専門店で味わえ、なかには注文を受けてから打つ、賞味期限のごく短い打ちたての葛切りを出す店もあります。透明でぷるりとした喉ごしは、暑い古都歩きのクールダウンに格別です。

古都・奈良市のB級グルメは、ご当地麺で押すタイプではなく、歴史に裏打ちされた素朴で滋味深い味が主役です。朝は茶粥で胃を整え、昼はならまちで柿の葉寿司やよもぎ餅をつまみ、午後は氷の聖地ならではのかき氷で涼をとり、土産に奈良漬を選ぶ――そんな一日を組み立てれば、観光名所を巡るだけでは見えてこない、奈良市の食の奥行きがきっと味わえるはずです。

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Written by

木村 さくら

アウトドアライター

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