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山形市の旬カレンダー — 盆地の寒暖差が育てる果樹王国の味
盆地の寒暖差が「果樹王国」をつくった
山形市は奥羽山脈と出羽山地に挟まれた山形盆地の中心にあり、海から離れた内陸性の気候が特徴です。夏は驚くほど暑く、1933年7月25日には山形地方気象台で40.8℃を記録。これは2007年まで74年間も日本一の暑さとして残った数字で、新潟側から飯豊山地を越えて吹き下りる風がフェーン現象で乾いた熱風となり、盆地に溜まったことが原因とされています。一方で冬は雪が積もり、底冷えします。
この激しい寒暖差こそ、山形を「果樹王国」に押し上げた立役者です。昼に光合成で蓄えた糖が、気温の下がる夜にしっかり実に残るため、果実が甘く色づく。さくらんぼ(おうとう)とラ・フランスを含む西洋なしはいずれも全国生産量の約7割を占めて日本一、ぶどうも全国3位(デラウェアは日本一)という、果物のラインナップが一年の旬の柱になります。山形市を旅するなら、果樹の実る時期に合わせて訪れるのが一番の贅沢です。
初夏(6月) — 佐藤錦が街を赤く染める
山形の旬を語るなら、まずは6月のさくらんぼから。なかでも代表品種の佐藤錦は、東根市の佐藤栄助が16年の歳月をかけて育成し、1928年に名づけられた山形生まれの品種で、県内栽培面積の大半を占めます。黄色地に鮮やかな紅がさす一粒7〜8gの実は、甘みと酸味のバランスが絶妙。山形市周辺では6月中旬から下旬が最盛期で、近郊の観光果樹園ではさくらんぼ狩りが楽しめます。
佐藤錦は雨に当たると実が割れてしまうデリケートな果実で、ハウス物の早採りは5月から出回りますが、味が乗るのはやはり露地物が熟す6月。近年は「紅秀峰」や、大玉の新品種「やまがた紅王」なども店頭に並びます。この時期は山形市内の直売所や青果店にも地元産が大量に出るので、観光客でも手頃に旬の盛りを味わえます。冷やしすぎず常温に近い状態で食べると、香りが立って一番おいしいと言われます。
盛夏(7〜8月) — 紅花の畑とぶどうの始まり
7月に入ると、山形を象徴するもう一つの旬が訪れます。県の花でもある紅花(べにばな)です。山形市西部の高瀬地区は、スタジオジブリ映画『おもひでぽろぽろ』の舞台のモデルになった紅花畑の名所で、7月上旬から中旬にかけて黄から紅へと色を変える花が一面に広がります。この時期には「山形紅花まつり」が高瀬を会場に開かれ、見る・染める・食べるを通じて紅花文化に触れられます。
かつて「金の十倍、米の百倍」とまで言われた最上紅花は、染料や食用として珍重され、最上川流域の生産・染色システムは日本農業遺産にも認定されています。乾燥させた花弁は食用にもなり、酢の物やお茶として楽しまれます。
食材の旬としては、7月からぶどうの季節が始まります。山形は江戸初期からのぶどう産地で、まず7〜8月に種なしのデラウェアが出回り、こちらは全国一の生産量。盆地の昼夜の寒暖差が色づきと甘みを引き出します。暑い盛りには冷やした地元産のぶどうや、最盛期を迎える西瓜が街の青果店をにぎわせます。
仲秋(9〜10月) — 芋煮、新米、ぶどうの実り
秋の山形市を語るのに欠かせないのが芋煮(いもに)です。芋煮は里芋の収穫期にあわせて河原で鍋を囲む山形の秋の風物詩で、最上川舟運の船頭が河原で鍋を楽しんだのが起源と伝わります。重要なのは地域による味の違い。日本海側の庄内地方が豚肉・味噌仕立てなのに対し、山形市を含む内陸(村山地方)は牛肉・醤油仕立てが定番で、ここを混同すると地元の人に笑われます。里芋・牛肉・こんにゃく・ねぎを甘辛い醤油だしで煮るのが内陸スタイルです。
毎年9月には山形市の馬見ヶ崎川(まみがさきがわ)河川敷で「日本一の芋煮会フェスティバル」が開かれ、直径6mを超える大鍋でつくられる数万食の芋煮が街の名物になっています。家族や仲間で河原に鍋を持ち込む「芋煮会」は、山形では新年会・忘年会と並ぶ年間行事です。
同じ頃、山形の食卓には新米が並びます。県を代表するブランド米「つや姫」は秋に新米が出回り、つやのある白さとふっくらした粒が、牛肉醤油の芋煮や漬物とよく合います。果樹園では9月から10月にかけてシャインマスカットや巨峰などの大粒ぶどう、そしてりんごが最盛期を迎え、果樹王国らしい実りのピークが続きます。
晩秋〜初冬(10〜12月) — ラ・フランスの本番
山形の秋の主役、それがラ・フランスです。山形は西洋なしの生産量が全国一で、なかでもラ・フランスは全国の大半を山形が占めます。果樹園での収穫は10月上旬〜中旬ですが、面白いのは「収穫したてはまだ食べ頃ではない」こと。収穫後に2〜5℃ほどの冷蔵で予冷してから追熟させるため、旬として店頭やギフトに出回るのは10月中旬から12月。とろけるような舌触りと芳醇な香りが出るまで、農家が追熟のタイミングを見極めて送り出します。
旅行で訪れたら、表面が少しべたつき、軸の周りを押すとわずかに弾力が出た頃が食べ頃の合図。すぐ食べられる「食べ頃」表示の品を選ぶか、数日室温で寝かせて香りが立つのを待ちましょう。10月から12月の山形市は、ラ・フランスと晩生のりんご、そして秋の味覚が一年で最も豊かに揃う季節です。
厳冬(12〜2月) — 雪の下の漬物文化
雪に閉ざされる冬、山形の食卓を支えてきたのが漬物です。山形を代表するのは青菜漬(せいさいづけ)。雪が積もる前の10月から12月に旬を迎える山形青菜を塩漬けし、醤油・鰹節・昆布の特製だれに漬け込んだもので、ピリッとした辛みと旨みが熱いご飯に合います。青菜に大根や人参を刻んで合わせるおみ漬も、冬の常備菜として山形市の家庭に根づいています。
さらに山形には、雪国ならではの希少な冬野菜があります。米沢市上長井地区だけで栽培される雪菜(ゆきな)は、雪の中で育つ軟白野菜で、米沢藩主・上杉鷹山が冬の野菜確保のために栽培を奨励したと伝わります(産地は山形市ではなく米沢)。ふすべ漬けにして正月の冷や汁の具にする伝統が今も残ります。冬の山形市では、こうした漬物と、温かい芋煮や鍋で底冷えをしのぐのが暮らしの知恵です。
山形市で旬を味わうなら
何をどこで買えばいいか迷ったら、まず山形駅から徒歩圏の山形まるごと館 紅の蔵を覗いてみてください。築約100年の蔵を活かした複合施設で、伝統野菜を含む農産物の直売所や土産処があり、季節ごとの旬の食材と県内特産品が一か所に揃います。観光案内も兼ねているので、その時期の果樹園情報を聞く拠点にもなります。
山形市は玉こんにゃく(玉こん)でも知られます。3cmほどの球状のこんにゃくを甘辛い醤油だしで煮込み、串に刺して売る山形ならではの食べ物で、市内の山寺(立石寺)周辺では、1015段の石段を登る前に食べる「力こんにゃく」として親しまれています。観光地や催事の屋台で1串ワンコイン前後の手頃な目安で楽しめる、街歩きの定番です。
なお、山形を代表する米沢牛やだだちゃ豆は、それぞれ置賜地方(米沢)・庄内地方(鶴岡)の特産で、山形市そのものの旬ではありませんが、県内のブランドとして市内の飲食店や物産店でも味わえます。盆地の寒暖差が育てた果実を軸に、芋煮や漬物といった季節の郷土料理を組み合わせれば、山形市ならではの旬の食卓が見えてきます。
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