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長崎市の旬の食材カレンダー|「さしみシティ」の海と茂木びわ、野母崎の伊勢海老
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長崎市の旬の食材カレンダー|「さしみシティ」の海と茂木びわ、野母崎の伊勢海老

「さしみシティ」長崎、旬は海から始まる

長崎市の食を語るうえで外せないのが、街のすぐ目の前に広がる豊かな海です。長崎県は東シナ海・五島灘・橘湾・大村湾と性格の違う海に囲まれ、市内の長崎魚市場(長崎市京泊)には実に250種以上の魚介が揚がります。これは魚種の多さで全国でも有数とされ、地元では刺身文化の厚さから長崎を「さしみシティ」と呼ぶほど。県全体ではアジの漁獲量が全国トップで、タイ類やイサキも上位の産地として知られ、一年を通して入れ替わり立ち替わり旬の魚が食卓にのぼります。

温暖な気候も長崎の食を特徴づけます。雪に閉ざされる土地とは違い、冬でも畑や海が動き続けるため、魚介だけでなく柑橘やびわといった果物の旬も豊か。ここでは、長崎市とその近海で味わえる旬を、季節ごとにたどっていきます。

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春 ― 桜鯛とアラカブ、磯の目覚め

海水がゆるみはじめる春は、産卵を控えたマダイが旨みをたっぷりまとう季節です。この時期のタイは体色が桜色に映えることから「桜鯛」と呼ばれ、刺身はもちろん、頭やアラを使った潮汁で骨までしゃぶりたくなる味わい。長崎はタイ類の産地としても知られ、春の食卓の主役格です。

岩礁帯で獲れるアラカブ(カサゴ)も春から初夏の楽しみ。地元では味噌汁や煮付けにして、身のしっかりした白身と濃い出汁を味わいます。ほかにも春のアマダイメバル、晩春のイシダイイサキ、磯のウチワエビといった、長崎の海ならではの顔ぶれが並びはじめるのが春です。お店でのお造りや煮魚は種類や時季によりますが、一品あたり数百円〜千円台前後が目安。市場や鮮魚店で旬の地魚を選び、自分で調理するのも長崎らしい春の過ごし方です。

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初夏 ― 茂木びわ、長崎市が生んだ果物

長崎市の旬を語るなら、初夏の茂木びわ(もぎびわ)を外すわけにはいきません。長崎市茂木地区の海沿いに広がるだんだん畑で育てられるびわで、その始まりは江戸時代後期にさかのぼります。茂木出身で長崎代官屋敷に奉公していた三浦シヲが、唐船からもたらされた「唐びわ」の種子を譲り受け、茂木の縁者に託して植えたのが起源と伝えられています。海からの潮風を受けて育つ実は、果汁が多くやさしい甘さが身上。長崎県はびわの生産量で全国を代表する産地であり、その発祥地が、ここ長崎市茂木なのです。

旬はおおむね、ハウス栽培が4〜5月、露地物が5月中旬から6月にかけて。市場に出回る期間が短い「初夏だけの果物」で、生で味わうほか、長崎の菓子店ではびわを使ったゼリーも親しまれています。地名がそのまま品種ブランドになっている果物は全国でも珍しく、まさに長崎市固有の旬の味です。

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夏 ― アジ、キビナゴ、トビウオ

夏は長崎が誇るアジの季節。長崎魚市にはアジが豊富に揚がり、刺身やたたき、定番のアジフライまで、地元で日常的に親しまれています。脂がのった夏のアジは、シンプルに塩焼きにするだけでも力強い旨み。同じく初夏から夏にかけてのイサキ、繊細な小魚のキビナゴは、手で開いて梅肉や酢味噌で食べる夏の晩酌の定番です。タチウオハモマダコ、夏のクルマエビもこの時季の楽しみ。

海面を滑空するトビウオが獲れはじめるのも初夏から夏。新鮮なものは刺身や塩焼きで、淡白ながら歯ごたえのある身が味わえます。長崎ではトビウオを「あご」と呼び、その加工文化が県を代表する食の名物になっているのですが――その本領が発揮されるのは、じつは秋です。

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秋 ― 野母崎の伊勢海老と、五島のあご漁

秋の主役は、なんといっても伊勢海老です。長崎市の南端、野母崎(のもざき)地区の近海は伊勢海老の好漁場として知られ、毎年9月には「長崎のもざき伊勢エビまつり」が開かれます。期間中は野母崎地区の飲食店が刺身や天丼、味噌汁など多彩な伊勢海老料理を提供し、地元の活魚流通センターでは新鮮な伊勢海老が並びます。軍艦島を望む海沿いをたどって長崎市中心部からアクセスでき、秋の味覚を楽しむ小旅行にうってつけです。

そしてこの季節、長崎の食文化を象徴するあご(トビウオ)が主役に躍り出ます。県北の平戸や五島列島では、秋に湾へ入ってくるトビウオを狙う「あご漁」が風物詩。獲れたあごを炭火で焼いて干した「焼きあご」から取る黄金色の上品な出汁は、雑煮やうどん、吸い物の土台になります。長崎では「だしといえばあご」と言われるほどで、長崎市内の食事処でも、あごだしを効かせた一杯に出会えるはずです。なお、あご漁やあごだし文化は平戸・五島を中心とした長崎県食文化で、長崎市内での水揚げを指すものではありません。

秋はほかにも、カマスイトヨリ、剣先イカ(ミズイカ)、そして脂がのりはじめるマサバと、食卓がにぎやかになる季節です。

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冬 ― 寒ブリ、クエ、寒ビラメの濃い旨み

温暖な長崎でも、冬の海はごちそうの宝庫です。南下する寒ブリは12月から2月ごろにかけて脂をたっぷり蓄え、刺身やぶりしゃぶ、照り焼きでその力強い旨みを堪能できます。

冬の長崎で特に名高いのが、地元で「アラ」とも呼ばれるクエ。九州ではクエ鍋が冬の高級料理として人気で、晩秋から冬が食べごろです。ぶつ切りを豆腐や野菜とともに炊き上げる鍋は、淡白に見えて滋味深く、締めの雑炊まで余すところがありません。同じく身の締まった寒ビラメ、磯の香り高いカンパチ、そして冬のトラフグもこの季節。長崎県はトラフグの産地としても知られ、冬の食卓に華を添えます。鍋や刺身は時価のことも多いので、相場を確かめてから注文するのが安心です。

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旬を味わうための実用メモ

長崎市で旬の食材に触れるなら、まず鮮魚を扱う市場や鮮魚店をのぞいてみてください。その日に揚がった地魚が並び、季節の移ろいがそのまま値札に表れます。飲食店では、黒板に書かれた「本日のお造り」や「旬の地魚」を選べば、ガイドブックには載らない長崎の海の奥行きに出会えます。価格は魚種・サイズ・時季で大きく動くため、本稿の目安はあくまで相場としてとらえ、現地で確かめるのが確実です。

春の桜鯛、初夏の茂木びわ、夏のアジ、秋の野母崎伊勢海老とあごだし、冬の寒ブリとクエ。長崎市の一年は、海と畑が描く旬のカレンダーそのものです。訪れる季節に合わせて、この街にしかない味を探してみてください。

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Written by

田中 花

和菓子研究家

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