学び
高松の建築を巡る学び旅|香川県の名建築ガイド
高松は香川県の県都として、近代建築と伝統建築が共存する稀有な都市です。丹下健三が設計した香川県庁舎東館、江戸時代の大名庭園として名高い栗林公園、そして瀬戸内海に浮かぶ直島では安藤忠雄の傑作建築が訪問者を迎えます。建築を「学ぶ」という視点で高松を歩くと、日本の近代建築史そのものが眼前に広がってくる——そんな旅が高松ではできます。
高松空港からリムジンバスで市内まで約40分。瀬戸内式気候に恵まれ晴天が多いため、屋外での建築探訪にも好適な環境です。人口約42万人のこの都市が積み重ねてきた建築の歴史は、教科書を超えた深い学びを与えてくれます。
香川県庁舎東館——丹下健三が刻んだ近代建築の金字塔
高松の建築旅で最初に訪れるべき場所は、香川県庁舎東館(1958年竣工)です。設計した丹下健三は後に国家プロジェクトや東京オリンピック施設も手がけた日本を代表する建築家ですが、この香川県庁舎こそ彼の名声を世界に知らしめた初期の代表作のひとつです。
外観を一見すれば、日本の伝統的な寺社建築の意匠——特に法隆寺を思わせる垂直・水平のプロポーション——が鉄筋コンクリートで再解釈されていることに気づくでしょう。屋根の持ち出し、柱のリズム、全体的なプロポーションに、日本建築の「美」が現代の素材で昇華されています。
庁舎内部は通常の行政利用日であれば自由に見学でき、入場無料。吹き抜けのロビーや廊下のディテールを観察するだけで、建築家がいかに動線と空間体験を緻密に設計したかが伝わってきます。近くには香川県立ミュージアム(一般510円〜)もあり、セットで訪問すると高松の文化・建築史をより立体的に理解できます。
栗林公園——江戸大名庭園に見る空間デザインの極意
高松藩主松平家が約100年かけて完成させた栗林公園(国の特別名勝)は、「回遊式庭園」という建築的・造園的アプローチの最高峰と言われています。高松駅からバスで約15分、入場料一般410円とアクセスも良好です。
この庭園を「建築」として読む視点が学び旅の核心です。南湖・北湖を中心とした水面の配置、借景として取り込まれた紫雲山の稜線、茶室・掬月亭の位置関係——それぞれが計算し尽くされた「設計」の産物です。ガイド付きツアー(60分・1,000円〜)に参加すると、造園技術の背景にある歴史的文脈を専門家から学べます。
特に注目したいのは、歩くにつれて次々と異なる景色が現れる「景観の連続性」です。これは現代建築設計でも重視される「プロムナード効果」の概念と重なるもので、江戸時代の職人たちが経験的に体得していた空間操作の巧みさに驚かされます。
高松城跡(玉藻公園)——水城の構造から学ぶ防御建築
高松駅から徒歩数分の玉藻公園(入場200円)には、かつて讃岐高松藩の居城として栄えた高松城の跡が残ります。海水を直接引き込んだ「水城」として日本三大水城のひとつに数えられ、その独特の築城技法は建築・土木の両面から深く学べる対象です。
現在は天守台・石垣・堀の一部が往時の姿を留めており、石垣の積み方(野面積・打込接・切込接)の違いを観察するだけで城郭建築入門になります。海とつながる堀の仕組みや、石垣の角度と安定性の関係を考えながら歩くと、防御性と美観を両立させた先人の知恵が実感できます。
丸亀城——現存天守が語る木造建築の本質
高松から電車で約30分の丸亀市には、現存する12天守のひとつとして国の重要文化財に指定された丸亀城があります(天守入場200円)。三段に積み上げられた石垣の高さは総計60メートルを超え、「扇の勾配」と呼ばれる美しい曲線——下部ほど急勾配になる独特の反り上がり——が特徴です。
木造天守内部に入ると、差鴨居・大黒柱・貫などの伝統的な木造架構を間近で観察できます。建材の選定から接合部の工夫まで、現代の建築教育でも参照される技術が現役の建造物として残っている——これが高松エリアの建築旅の醍醐味です。
直島へ足を伸ばす——安藤忠雄と現代建築の聖地
高松港からフェリーで約50分、直島は現代建築の聖地として世界的な知名度を誇ります。安藤忠雄設計の地中美術館(入場2,100円)は地面に埋め込まれた異色の美術館で、自然光のみで内部を照らすという大胆なコンセプトで知られています。
地中美術館では、打放しコンクリートと自然光・季節・時間帯の関係を体験できます。同じく安藤設計のベネッセハウス周辺のパブリックエリアでは、建築と自然景観の対話が瀬戸内海を舞台に展開されます。「家プロジェクト」では古民家を現代アートの文脈で再生した事例も見られ、「建物の再利用」という現代的テーマについて考える機会にもなります。
日帰りも可能ですが、一泊してさまざまな光の条件で建築を体験することをおすすめします。
学び旅を深める実践的アドバイス
高松の建築学び旅を充実させるためのヒントをまとめます。
事前準備として、丹下健三・安藤忠雄の代表作品集を一冊読んでおくと、現地での発見が格段に増します。香川県立ミュージアムの公式サイトで企画展情報を確認し、建築関連の展示があれば優先的に訪問しましょう。
現地での観察ポイントは、素材・光・スケール・動線の4つです。これを意識して建物を歩くだけで、建築の読み方が身につきます。ノートとスケッチブックを持参し、印象的な空間や細部をドローイングするのも効果的です。写真だけでは捉えられない「スケール感」や「身体感覚」が、スケッチには宿ります。
モデルルートは、高松城跡(玉藻公園)→香川県庁舎東館→栗林公園の順が動線として自然です。翌日に直島を訪問するプランであれば、丸亀城と組み合わせた2泊3日のスケジュールが理想的です。
讃岐うどんの名店で昼食をとりながら、打放しコンクリートと木造とガラスが混在する高松の街並みを眺める——そんな時間も建築旅の一部です。知れば知るほど次の問いが生まれる、それが建築という学びの醍醐味であり、高松を何度でも訪れたくなる理由でもあります。
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