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松山の旬の食材カレンダー|柑橘王国と瀬戸内の海の幸を味わう
柑橘と瀬戸内の海に恵まれた「松山の旬」
松山の食を語るうえで外せないのが、瀬戸内海の温暖少雨の気候です。年間を通して雨が少なく日照に恵まれるこの土地は、糖度の高い柑橘を育てる絶好の条件をそろえています。愛媛が「柑橘王国」と呼ばれるその中心が、松山を含む中予地域。さらに松山の沖合は、日本三大潮流のひとつに数えられる来島(くるしま)海峡の急潮に近く、潮にもまれて身の締まった魚介が水揚げされます。山の柑橘と海の魚介——この二本柱で旬が回っていくのが松山の食卓です。
四季を機械的に区切るより、ここでは松山の実りが盛り上がる順に、海と畑の旬を追いかけてみましょう。
春は「桜鯛」とサワラ、瀬戸内が一年でいちばん華やぐ季節
松山の春の主役は、なんといっても真鯛です。瀬戸内では産卵期を迎えた真鯛が体を桜色に染めることから、この時期のものを「桜鯛」と呼びます。来島海峡をはじめとする速い潮流にもまれて育った鯛は身がよく締まり、刺身でも煮ても旨みが濃いのが特徴。愛媛は養殖真鯛の生産量が全国でも上位を占める一大産地で、天然・養殖の双方が市場に並ぶため、春の松山では鯛をぐっと身近に味わえます。
もう一つ、春に瀬戸内へ群れで入ってくるのがサワラ(鰆)です。産卵期に内海へ寄せる春のサワラは脂がのり、刺身やたたきにすると格別。瀬戸内沿岸ではサワラを「春告げ魚」のように扱う土地もあり、松山でもこの時期の旬として親しまれています。淡白に見えて旨みの強い白身は、地酒との相性も上々です。
春先には新玉ねぎや春キャベツといった瀬戸内の畑の若い野菜も出回り始め、鯛・サワラの華やかさに季節の野菜が添えられるのが、松山の春の食卓です。
鯛を味わうなら松山ならではの「炊き」の鯛めしで
松山に来たら、鯛の食べ方そのものが旅の目的になります。愛媛の鯛めしは大きく分けて二系統あり、南予の宇和島は鯛の刺身を生卵入りのタレと一緒にご飯へのせる「活き」のスタイル。これに対し、松山(北条)を含む中予で受け継がれてきたのは、鯛を一尾まるごと土鍋や釜で米と炊き込む「炊き」の鯛めしです。同じ「鯛めし」でも別物と言ってよく、宇和島式と混同しやすいので食べ比べると違いがはっきりわかります。松山に根ざしているのは後者の炊き込みタイプ、と覚えておくと注文に迷いません。
さらに松山らしいのが、祝いの席で供されてきた鯛そうめん。一尾を姿煮にした鯛を大皿に据え、ゆでた素麺を煮汁とともにいただく豪快な郷土料理で、松山では色とりどりの「五色素麺」を使うことが多いのが地元流です。そして文豪ゆかりの一品が松山鮓(もぶり鮓)。瀬戸の小魚でとった出汁を効かせた甘めの酢飯に地魚をちりばめたばら寿司で、「混ぜる」を意味する松山の方言「もぶる」が名の由来。正岡子規や夏目漱石が愛したことで知られ、来客や祝い事のもてなしに作られてきた、松山の春らしい一皿です。
夏は太刀魚とハモ、瀬戸内の銀色を楽しむ
夏から秋にかけての瀬戸内で存在感を増すのが太刀魚(たちうお)です。愛媛は太刀魚の漁獲量が全国トップクラスを誇る産地で、銀色に輝く細長い魚体が夏の松山の食卓を彩ります。塩焼きにすれば皮はパリッと身はふっくら、天ぷらや刺身でもそのやさしい甘みが引き立ち、暑い時期でもさっぱりと食べられるのが魅力。居酒屋でも家庭でも調理法の幅が広く、松山では夏の定番として根づいています。
夏の高級魚として欠かせないのがハモ(鱧)。京都の夏の魚という印象が強いものの、その多くは瀬戸内で水揚げされ、愛媛も主要な産地のひとつです。骨切りを施して湯引きにし、梅肉でいただく落としは、蒸し暑い松山の夏にぴったりの涼味。地元では椀物や鍋でも親しまれています。
この時期は瀬戸内のマダコも身が締まり、刺身でも酢の物でも夏の食卓を引き締めてくれます。
秋から冬へ、海はブリ・温暖な畑は柑橘の季節へ
秋が深まると、瀬戸内の海は脂の時期を迎えます。冬にかけて脂がのるブリ(寒ブリ)は松山の冬の楽しみのひとつ。愛媛はブリ養殖が盛んな県でもあり、ここで面白いのが、柑橘の皮の成分を配合した飼料で育てる「みかんブリ」です。魚特有の臭みが抑えられ、ほのかに柑橘が香るのが特徴で、養殖大国・愛媛らしい発想から生まれた一品。同じ手法で育てた「みかん鯛」もあり、柑橘王国の畑と海がつながっていることを実感させてくれます。
そして秋から冬は、いよいよ松山が主役になる柑橘のシーズンです。一年の柑橘リレーがここから本番を迎えます。
- 温州みかん:早生(わせ)は11月ごろ、普通種は12月ごろが出回りのピーク。柑橘王国の屋台骨で、冬の松山ではどこでも手に入ります。
- 紅(べに)まどんな:愛媛が育成したブランド柑橘。11月下旬から12月にかけてが食べごろで、ゼリーのようになめらかな果肉と濃厚な甘みが人気です。
- 甘平(かんぺい):これも愛媛生まれの品種。1月から2月ごろが旬で、薄い内皮とぷりっとした果肉、強い甘みが身上です。
松山では沖合の中島をはじめとする島々が古くからの柑橘産地として知られ、瀬戸内の温暖少雨の気候が糖度の高い実を育てます。冬の松山を歩くと、街なかでも柑橘の香りが漂うのが、この土地ならではの季節感です。
冬の松山を締めくくる「伊予柑」と緋のかぶ
年が明けてからの松山の柑橘の顔が伊予柑(いよかん)です。栽培の中心は松山を含む中予地域で、松山は県内有数の伊予柑産地。1月から3月にかけてが旬で、「色よし・味よし・香りよし」と称される、甘さと程よい酸味のバランスが持ち味です。冬から春先まで長く出回るため、松山の冬の食卓には欠かせない存在になっています。
冬ならではの郷土の味としてもう一つ挙げたいのが、緋(ひ)のかぶ漬け。「伊予緋(ひ)かぶ」という松山の伝統野菜を、だいだいなどの柑橘酢で漬け込んだ鮮やかな赤紫色の漬物です。気温が下がらないと色がきれいに発色しないため、まさに冬の味覚。正岡子規も句に詠んだと伝わる、文学のまち・松山らしい食の一コマです。柑橘王国らしく、漬物にまで柑橘が顔を出すのが松山の冬と言えるでしょう。
帰属に注意したい愛媛の名物——じゃこ天は「南予」のもの
愛媛グルメとしてよく知られるじゃこ天ですが、これは厳密には松山の名物ではありません。じゃこ天は近海の小魚(ほたるじゃこ等)をすり身にして揚げた練り製品で、宇和海に面した宇和島・八幡浜を中心とする南予地方の特産品です。松山でも土産物店や居酒屋で広く扱われ味わえますが、「発祥・本場は南予」と知っておくと、愛媛の食の地理がぐっと立体的に見えてきます。
このように愛媛は地域ごとに食の顔が異なります。松山に軸足を置くなら、柑橘(温州みかん・紅まどんな・甘平・伊予柑)と瀬戸内の鯛・サワラ・太刀魚を中心に据えるのが、この街の旬の正しい楽しみ方です。
松山で旬を味わうためのちょっとした実用メモ
柑橘は品種ごとに出回りがずれていくので、訪れる季節に合わせて狙いを変えるのがコツです。秋なら温州みかんと紅まどんな、年明けなら甘平と伊予柑、と同じ「みかんの街」でも冬と早春で味わえるものが入れ替わります。海の幸も、桜鯛の春、太刀魚・ハモの夏、ブリの冬と季節がはっきりしているため、旬を狙えば鮮度のよいものに出会いやすくなります。鯛めしなどの郷土料理は専門店から大衆食堂まで価格に幅があり、市場や直売所をのぞけば旬の柑橘や鮮魚を手ごろに買えることも少なくありません。山の柑橘と瀬戸内の魚——その両方を一度に味わえる季節を選んで、松山を訪ねてみてください。
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