グルメ
金沢の地酒と肴|天狗舞に合う石川県の絶品おつまみ
天狗舞とは――加賀の風土が育てた一杯
石川県白山市にある車多酒造が醸す「天狗舞」は、日本酒ファンならば一度は耳にしたことがある北陸を代表する銘柄です。能登杜氏の伝統技法を受け継ぎながら、山廃仕込みや生酛仕込みにこだわり続ける姿勢は、全国の酒通から高く評価されています。旨味の乗った濃醇辛口のスタイルは、加賀料理の繊細な出汁文化とも驚くほど相性がよく、「食中酒として飲み続けられる酒」として地元の料理人からも絶大な支持を集めています。
天狗舞の代表格である「山廃仕込 純米」は、乳酸の自然発酵から生まれる複雑な酸味と、炊いた米のような甘みがゆっくりと広がります。飲み口は決して軽くなく、常温やぬる燗にすることで旨味の輪郭がさらに鮮明になります。金沢の居酒屋や割烹では、ぬる燗で提供するのが定番。冷やしては飲めないほどではありませんが、燗にしてこそ天狗舞の真価が花開くと感じる地元の飲み手は多いです。
加賀の伝統料理「治部煮」との黄金ペアリング
天狗舞と組み合わせたい筆頭格が、金沢を代表する郷土料理の治部煮です。鴨肉やすだれ麩、季節の野菜をだしと醤油ベースのとろみのある汁で煮たこの一品は、甘辛いコクの中に上品な品格があります。天狗舞の酸味と旨味が、治部煮の濃いめの煮汁の甘さを受け止め、口の中で互いを高め合う感覚は格別です。
金沢市内の割烹や料理屋では、治部煮を一品料理として提供する店が多く、1,200円前後から楽しめます。近江町市場周辺には、観光客向けに手軽なランチコースを設けている店も多く、治部煮+地酒のセットを昼酒として楽しむのも金沢流の贅沢です。地元の料理人に言わせると「天狗舞はだしを邪魔しない酒」であり、加賀料理全般との相性の良さはまさにこの土地が生んだ必然と言えます。
海の幸との相性――のど黒・ばい貝・かに
日本海の恵みをふんだんに受ける石川県は、海の肴においても全国屈指の産地です。近年ブランド魚として一躍名高くなった「のど黒(アカムツ)」は、脂の乗りが異常なほど高く、塩焼き一枚で口の中が旨味に満たされます。天狗舞の山廃仕込みが持つ酸味は、この濃厚な脂と対話するように絡み、余韻をすっきりと引き締めます。
ばい貝の煮付けも、天狗舞との組み合わせとして地元の酒好きが好む定番つまみです。醤油と味醂で丁寧に炊いたばい貝は、磯の香りと甘みのバランスが絶妙で、燗酒と一緒に口に運ぶたびに箸が止まらなくなります。近江町市場の鮮魚店では、惣菜コーナーでばい貝の煮付けを100円〜150円程度で一粒から購入できます。
11月から3月の冬期にはズワイガニ(加能がに)が解禁となり、金沢の食卓は一気に賑やかになります。ゆで蟹をほぐしながら、燗にした天狗舞を一口。蟹の甘みと酒の旨味が共鳴するひとときは、この土地に来て初めて体験できる至福です。
発酵食品との意外な妙味――かぶら寿しと糠漬け
石川県には「かぶら寿し」という独特の発酵食品があります。かぶの間にブリを挟み、こうじで発酵させたこの郷土の保存食は、深い旨味とほのかな酸味、そして独特の発酵臭が特徴です。乳酸発酵で造られる天狗舞の山廃仕込みは、同じく発酵の産物であるかぶら寿しと底を流れる「発酵の旨味」を共有しており、両者を合わせると相乗効果が生まれます。初めて食べる方には個性的に感じるかもしれませんが、天狗舞と合わせることで酸味が整い、食べやすく感じられるという声も多いです。
加賀の糠漬けも忘れてはなりません。赤蕪や大根などの根菜を糠床に漬けたこの一品は、シンプルながら石川の食文化を象徴する存在です。価格も手頃で、市場の漬物店では100gあたり200〜400円程度で購入できます。日本酒の肴として、糠漬けの塩気と酸味は天狗舞の旨味を引き立てる理想的な箸休めとなります。
金沢で天狗舞を味わうおすすめスポット
天狗舞を産地で楽しむなら、地元の酒販店や角打ちを活用するのが一番です。近江町市場周辺には、昔ながらの角打ちを設けている酒屋があり、グラス一杯350〜500円で地元の銘酒が楽しめます。観光地価格でなく地元の日常価格で飲めるのが角打ちの魅力で、常連客との会話も旅の醍醐味になります。
片町や香林坊エリアには、石川の地酒を豊富に揃えた日本酒バーや居酒屋が点在しています。金沢おでんと天狗舞の組み合わせを提供する店も多く、車麩・大根・バイ貝などのおでん種を肴に、夜の金沢を楽しむことができます。金沢おでんは出汁の上品さが命で、天狗舞の旨味が出汁の深みとシンクロするのが特徴です。
車多酒造では事前予約制で蔵見学ツアーも実施しており、仕込み蔵の見学から試飲まで体験できます。蔵直営の売店では市販されていない蔵元限定酒も購入可能で、天狗舞を知り尽くした一本をお土産に持ち帰るのもよい記念になるでしょう。金沢の旅は、口から始まり口で終わる。そんな言葉が似合う食の都で、天狗舞と石川の肴が織りなす豊かな時間をぜひ味わってみてください。
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