観光・体験
山形さんぽ ― 城下町の水路と大正建築をめぐる散策コース
城下町・山形を「歩いて」読み解く
山形市は、馬見ヶ崎川(まみがさきがわ)がつくった扇状地の上に開けた城下町です。扇のかなめにあたる西端に山形城が築かれ、その東側を南北に走る羽州街道に沿って、七日町(なのかまち)・八日町・十日町・旅篭町(はたごまち)といった商人町や宿場町が連なりました。町名に市の立つ日や宿場の名残が刻まれているのが、城下町らしいところです。
歩いてうれしいのは、見どころが中心部にまとまっていること。JR山形駅の西口を出ればすぐ目の前が城跡で、駅の東側へ十数分も歩けば、四百年前から流れる水路や大正期の洋館にたどり着きます。山寺や蔵王といった山あいの名所は郊外になりますが、それも含めて、山形は「歩く」と「ひと足延ばす」を組み合わせて楽しむ街です。
霞城公園 ― 駅のすぐ西に広がる山形城跡
散策の起点に選びたいのが、山形駅西口のすぐ西側に広がる霞城公園(かじょうこうえん)。最上家十一代・最上義光(もがみよしあき)が今の縄張りを整えた山形城の、本丸・二の丸跡を約三十六ヘクタールの公園にしたもので、国の史跡に指定され、日本百名城にも数えられています。
園内に入ってまず目を引くのが、堂々とした二の丸東大手門。櫓(やぐら)門と土塀が連なる姿は平成に入って復元されたもので、本丸側では一文字門の石垣や橋も整えられています。本丸広場には、関ヶ原と同時期の長谷堂合戦へ向かう最上義光の騎馬像が立ち、馬上で采配を振るう姿に、城下を束ねた武将の気概がしのばれます。お濠の内側をぐるりと歩けば、土塁や石垣の上から町並みを見渡す視点も得られます。
霞城公園は山形随一の桜の名所でもあります。ソメイヨシノを中心におよそ千五百本が植えられ、見頃の四月中旬から下旬には、お濠端が薄紅色に染まります。公園のまわりには郷土館や県立博物館、美術館、最上義光歴史館などが点在し、雨の日や、歴史をもう少し深く知りたいときの寄り道にも事欠きません。
七日町と御殿堰 ― 城下を潤した四百年の水路
城跡から東へ、商店街の七日町をめざして歩きます。徒歩でおよそ十五分から二十分、街路樹の下をのんびり進むと、やがて足元に澄んだ水の流れが現れます。これが御殿堰(ごてんぜき)。山形の中心部には、笹堰・御殿堰・八ヶ郷堰・宮町堰・双月堰という五つの堰(山形五堰)が網の目のように引かれていて、その総延長は百キロを超えます。
堰の歴史は古く、城下を何度も悩ませた馬見ヶ崎川の氾濫を抑えるため、義光のあとに城主となった鳥居忠政が、今からおよそ四百年前に川の流れを付け替える大工事を行ったのが始まりと伝わります。城のお濠の水源、町の生活用水、そして西の農村への農業用水を一手に担った水路が、今も商店街の真ん中を流れているのです。
七日町では、この御殿堰に沿って蔵造り風の町屋が整えられ、石積みの水路と柳、軒を連ねる店々がしっとりとした一画をつくっています。古い建物を生かしながら新しい店が入る「街の作り直し」が進む通りでもあり、歩くだけで城下町の骨格と現代の暮らしが重なって見えてきます。クランク状に折れる路地に、敵の侵入を防いだ城下町の名残を探すのも一興です。
文翔館 ― 大正の県庁舎を歩く
七日町から旅篭町へ抜けると、通りの正面に、時計塔を頂いた重厚な石造りの建物が見えてきます。山形県郷土館「文翔館」(ぶんしょうかん)。大正五年(一九一六年)に建てられた英国近世復興様式の旧県庁舎で、昭和五十年まで実際に県政の舞台として使われ、現在は国の重要文化財に指定されています。
正面の時計塔は、現役で時を刻む塔時計としては札幌の時計台に次いで国内で二番目に古いとされ、文字盤が四方に顔を出す姿はこの街のランドマークです。館内は無料で見学でき、復元された貴賓室や議場、漆喰や石づくりの内装が往時のまま残されています。前庭から建物を見上げ、中庭を抜けて回廊を歩けば、大正という時代の気分そのものを散策しているような感覚になります。開館はおおむね九時から十六時半ごろまでで、月の第一・第三月曜が休みなので、訪ねる日には少し気をつけたいところです。
馬見ヶ崎の河原 ― 桜のトンネルと芋煮の風景
街なかの散策に少し体を伸ばしたくなったら、北東の馬見ヶ崎川へ。堤防沿いには「馬見ヶ崎さくらライン」と呼ばれる桜並木が約二・三キロにわたって続き、見頃の四月上旬から中旬には、川沿いの道に桜のトンネルがかかります。夜にはライトアップされる区間もあり、水音を聞きながらの夜桜散歩は格別です。霞城公園よりやや早く咲き始めるので、街なかと河原で見頃の波を二度楽しめる年もあります。
この河川敷は、秋になると山形の名物行事の舞台に変わります。九月に開かれる「日本一の芋煮会フェスティバル」では、双月橋付近の河原に直径六メートルもの山形鋳物の大鍋が据えられ、重機まで使って里芋と牛肉を醤油仕立てで煮込んだ芋煮が、数万食分も振る舞われます。里芋・牛肉・醤油という村山地方の芋煮は、味噌仕立ての流儀とは別物。河原に出てこその郷土料理で、屋台では醤油で煮含めた玉こんにゃくの香りも漂います。広い河川敷は、ふだんは犬の散歩やジョギングにも気持ちのよい場所です。
郊外へ ― 山寺と蔵王はひと足延ばして
山形を訪ねたら外せないのが、市の北東の山あいにある山寺(宝珠山立石寺)。山形駅からJR仙山線でおよそ二十分、山寺駅で降りて参道入口まで歩いても十分ほどで、街なかから手軽にひと足延ばせます。岩肌に堂宇が張りつく境内は、奥之院まで千段を超える石段が続く登りの行。松尾芭蕉が『奥の細道』の旅で立ち寄り、「閑(しず)かさや岩にしみ入る蝉の声」と詠んだ地としても知られ、息を切らして登りきった先の眺めは忘れがたいものです。中心部の城下町散策とは趣がまるで違うので、別の半日や別の日に組むのがおすすめです。
もう少し遠出をするなら、市の南東、蔵王連峰の西麓に湧く蔵王温泉へ。山形駅前からバスでおよそ四十分と郊外になりますが、強い酸性の白濁湯と、冬の樹氷で知られる山岳リゾートです。街歩きとは時間の使い方が大きく変わるので、温泉や山を目当てに丸一日を充てると満足度が高いでしょう。
散策のコツと季節のこと
中心部の見どころは徒歩圏にまとまっているので、霞城公園から七日町・御殿堰、文翔館へと北東へ向かう一筆書きが歩きやすい順路です。城跡で歴史を、水路で城下の暮らしを、洋館で近代を――一本の道に時代の層が重なります。距離はいずれも目安なので、足の向くまま路地に寄り道するくらいがちょうどよい街です。
季節でいえば、桜の四月中旬から下旬が街全体の華やぎ時。初夏にはさくらんぼが実り、山形ならではの果物の楽しみが加わります。夏は刻んだ夏野菜を醤油だれで和える「だし」や、冷たいつゆでいただく鶏肉のそばが涼を運び、秋は芋煮の季節。冬は雪が深く冷え込みますから、足元と防寒の備えをしっかりと。城下町の町割りと、街を流れる堰の水音を道しるべに、自分のペースで山形の時間を歩いてみてください。
RELATED SPOTS
山形県の観光・体験スポット
銀山温泉
山寺(立石寺)
蔵王の樹氷
山居倉庫
山形花笠まつり
この記事のエリアで観光・体験を探す
RELATED COLUMNS
関連するコラム
日本刀×日本文化体験
観光スポットと刀剣文化をつなぐ多言語展開。




