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神戸の旬の食材カレンダー — 明石海峡の魚から六甲の里山、灘の酒まで
海と山が近い街・神戸の「旬の地図」
神戸の食材を語るとき、機械的に「春・夏・秋・冬」と区切るとかえって実態を見失います。神戸の南には潮流の速い明石海峡と播磨灘が広がり、北には西区・北区の農村と六甲山系の里山があります。海の幸と山の幸、そして街なかに連なる灘(なだ)の酒蔵——この三つの顔をたどると、神戸の旬がぐっと立体的に見えてきます。気候は瀬戸内式で温暖、雪に閉ざされる土地ではありません。だからこそ通年で何かしらの旬が動いており、「いつ来ても何かが美味しい」のが神戸の強みです。ここでは海・里山・酒の三つの軸で、時期ごとの味を案内します。
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明石海峡と播磨灘の魚介 — 速い潮が育てる味
神戸の魚介の主役は、明石海峡周辺から播磨灘にかけての速い潮の中で育ったものです。激しい潮流にもまれて身が締まり、味が濃いのが特徴です。
春を告げるイカナゴと桜鯛
春先、神戸・明石の沿岸が一年でいちばんざわつくのがイカナゴのシンコ(稚魚)漁です。醤油・砂糖・みりんで甘辛く炊いたくぎ煮は、各家庭が炊いて配り合う神戸〜阪神間のソウルフードで、3月になると街じゅうに甘辛い湯気が漂う、と言われてきた春の風物詩です。
ただし近年のイカナゴは深刻な不漁が続いています。兵庫県の漁獲量は1970〜1990年代には毎年1万〜3万トン規模で推移していましたが、2000年以降は1万トンを割り込み、2017〜2019年には1千トン台にまで落ち込みました。解禁からわずか数日で終漁となった年や、店頭で高値がついた年もあります。背景には、海の栄養塩が減る「貧栄養化」でエサとなる動物プランクトンが減り、イカナゴの肥満度や卵数が下がったことが指摘されています。つまり、くぎ煮は今や「当たり前に作れるもの」ではなく、出会えたら旬を噛みしめたい貴重な味になっています。
同じ春、明石海峡を回遊して産卵期を迎える真鯛は、体色の鮮やかさから桜鯛と呼ばれ珍重されます。これらは行政区分では明石市が本場として知られますが、漁場である明石海峡・播磨灘は神戸の目の前に広がる同じ海です。神戸の鮮魚店や寿司店でも、春は桜鯛が並びます。
初夏の鱧、夏の明石だこ
梅雨どきから夏にかけては鱧(ハモ)の季節です。瀬戸内の鱧は「梅雨の水を飲んでうまくなる」と言われ、6〜7月に産卵を控えた個体が脂を蓄えます。兵庫の鱧の漁獲は全国でも上位で、湯引きや落とし、鱧鍋として夏の食卓に上ります。
夏の主役は明石だこ(マダコ)。梅雨明けの7〜8月が最盛期で、年間漁獲のおよそ半分がこの時期に集中します。産卵に向けてエサを活発にとる時期のタコは「麦わらだこ」と呼ばれ、歯ごたえがありながら柔らかく、噛むほどに甘みが出ます。明石海峡の海底は岩場と砂地が入り組み、速い潮に流されまいと踏ん張るため「足が太く短い」のが明石産の証とされます。こちらも本場は明石市ですが、神戸の魚の棚(うおんたな)に近い文化圏として、神戸でも夏のタコ飯やたこの刺身が親しまれます。
秋の太刀魚・秋鰆・紅葉鯛
秋の播磨灘は魚種が豊かになります。太刀魚(タチウオ)は秋が旬で、銀色に輝く身は塩焼きや刺身で映えます。サワラ(鰆)は字面から春の魚と思われがちですが、瀬戸内では脂がのる晩秋から冬の「秋鰆」が濃厚でうまいとされ、神戸の酒蔵界隈でも11月の肴として知られます。そして春に産卵を終えた鯛が、夏から秋にエビ・カニ・イカナゴを食べて肥え、体色に赤みを増したものが紅葉鯛(もみじ鯛)。脂がのり、桜鯛とはまた違うこってりした味わいが楽しめます。
(※高知などで知られる「戻り鰹」は太平洋・土佐沖の味で、神戸・播磨灘の旬ではありません。神戸の秋の魚は上記の瀬戸内の魚種が中心です。)
冬の海苔と冬の魚
冬の神戸の海でいちばん神戸らしいのが須磨海苔(すまのり)です。東須磨・須磨浦・塩屋・東垂水の沖で養殖され、12月から4月にかけて「潜り船」で摘み取られます。大阪湾の豊かな栄養と明石海峡の潮で育つため、黒く色が濃く、肉厚で香りが強いのが身上。2007年に神戸市漁業協同組合が地域ブランドとして登録した、れっきとした神戸産です。冬は魚もハマチ(ツバス)などが脂をのせ、鍋や照り焼きの主役になります。
なお、相生・室津・坂越(赤穂)といった西播磨の冬の養殖牡蠣も兵庫を代表する味ですが、これらは神戸から西へ数十キロ離れた播磨灘西部の産地です。神戸の食卓にも上りますが、神戸産ではなく西播磨産として味わうのが正確です。
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六甲の里山が育てる山の幸
海のイメージが強い神戸ですが、市域でいちばん広い北区と二番目に広い西区には、六甲山系の北側を中心に農村地帯が広がっています。都市の近郊型農業が盛んで、海産物とはまったく別の旬がここにあります。
- 冬〜春のキャベツ:神戸市西区は県内トップクラスのキャベツ産地です。10月下旬〜3月中旬が甘みののった冬キャベツ、3月〜6月下旬がやわらかい春キャベツの旬で、直売所では採れたてが手に入ります。
- 春のいちご:北区の有野町二郎周辺で育つ「二郎(にろう)いちご」は地元で人気のブランド。いちご狩りのできる観光農園も点在し、シーズンは冬から春先にかけてです。
- 夏〜初秋のぶどう・神戸ワイン:西区ではピオーネやベリーA、シャインマスカットなどが7月下旬〜9月下旬に実ります。さらにシャルドネやメルロー、カベルネ・ソーヴィニヨンといったワイン用品種も栽培され、神戸ワインとして醸されます。西区のワイナリー(農業公園)は地域の食と里山を体験できる場として親しまれてきました。
直売所をのぞけば、季節ごとの神戸産野菜が並び、観光で訪れても「神戸=海と洋食」だけではない素顔に出会えます。
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通年の主役・神戸牛
季節を問わず神戸を代表する食材といえば、やはり神戸牛(神戸ビーフ)です。兵庫県産の但馬牛(但馬牛=たじまうし)の血統から、厳格な格付け基準を満たした個体だけが神戸ビーフを名乗れます。きめ細かなサシと、とろけるような口当たりが世界的に評価され、こちらは旬という概念のない通年の味。ステーキや鉄板焼きはもちろん、にぎり寿司やすき焼きでも楽しめます。観光の一食奮発するなら、相場は店の格によって幅が大きいので、ランチのステーキコースなど予算に合わせた選び方をするとよいでしょう。
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街なかに息づく灘の酒
神戸の食を語る最後の軸が酒です。東灘区から西宮にかけての海沿いには、日本最大の酒どころ灘五郷(なだごごう)が連なり、全国の日本酒のおよそ3割を生み出してきたとされます。
その味を支えるのが、ミネラル豊富な六甲山系の伏流水(西宮の「宮水」が有名)と、兵庫が全国生産の大半を占める酒米山田錦(やまだにしき)です。山田錦は1923年に兵庫県の農事試験場で「山田穂」と「短稈渡船」を交配して生まれ、1936年に命名されました。北区や三木など内陸の粘土質の土壌で育てられてきた酒米です。大粒で中心に「心白」がはっきり入り、麹づくりがしやすいため、すっきりと力強い灘の酒になります。つまり、北区の里山で育った米が、海沿いの酒蔵で六甲の水と出会って一杯になる——神戸の地形そのものが、灘の酒の味の理由です。酒蔵が点在する御影・魚崎エリアでは見学や試飲のできる蔵もあり、明石海峡の魚や須磨海苔を肴に、地元の酒を合わせるのが神戸らしい食の楽しみ方です。
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旬を逃さないための覚え書き
神戸は温暖な瀬戸内式気候で、雪に食材が閉ざされることはありません。海の旬は南の明石海峡・播磨灘、山の旬は北の西区・北区、そして街なかに灘の酒——この三つの方角を意識すると、いつ訪れても旬の一皿に出会えます。春のくぎ煮は不漁で年により値も入荷も大きく揺れるので、確実に味わいたいなら時期と相場を事前に確かめてから。明石海峡の魚や須磨海苔は地元の鮮魚店や市場で、神戸産の野菜・果物は直売所で探すのが、観光地の表通りよりも旬に近づく近道です。
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