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札幌で心を整える静養リトリート——庭園・杜・渓谷でめぐる静かな一日
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札幌で心を整える静養リトリート——庭園・杜・渓谷でめぐる静かな一日

「禅寺」ではなく「庭と森」で整える街

京都や鎌倉のように古刹が軒を連ねる街と違い、開拓とともに生まれた札幌には、何百年も続く禅寺の数はそう多くありません。けれどもこの街の静けさは、別のかたちで深く息づいています。明治の人々が都心に造った日本庭園、手つかずのまま守られてきた原始林、谷あいに湯が湧く渓谷の温泉——広い大地に抱かれた「自然と庭の静けさ」こそ、開拓の街・札幌ならではの整え方です。本記事では、座って心を鎮める庭、歩いて呼吸を深める森、そして湯にこもって体をゆるめる渓谷を、地下鉄やバスで訪ねられる範囲からたどります。なお座禅会やヨガ教室、茶室での呈茶(ていちゃ)といった体験プログラムの日程・料金・予約方法は、主催者や施設によって異なり変わることもあるため、出かける前に公式の案内で確かめておきましょう。

中島公園の日本庭園と茶室・八窓庵で「座る」

都心の南、地下鉄南北線の中島公園駅を出てすぐに広がる中島公園は、明治期の造園家・長岡安平(ながおか やすへい)が手がけた札幌を代表する都市公園です。園の一角には池泉回遊式の日本庭園が静かに横たわり、菖蒲池(しょうぶいけ)のほとりを園路がゆるやかにめぐります。その庭にたたずむのが、国の重要文化財に指定された茶室・八窓庵(はっそうあん)。もとは江戸初期の茶人・小堀遠州(こぼり えんしゅう)ゆかりの茶室で、近江(現在の滋賀県)にあったものが大正期に札幌へ移され、昭和46年(1971年)に中島公園へと移築されました。二畳の小さな席に八つの窓が切られた名席で、にじり口の前に立つだけで、茶の湯が大切にしてきた「静」の感覚が伝わってきます。

庭をひと回りしながら水面に映る木々を眺め、ベンチに腰かけてただ池を見つめる——足を運ぶ静かな時間が、いつのまにか呼吸を深くしてくれます。ただし日本庭園と八窓庵は積雪期に閉鎖され、公開は春から秋にかけてが中心です。公開期間や時間、呈茶・茶会の有無は年によって変わるので、訪ねる前に公式情報で確かめておくと安心です。

北海道神宮の杜——円山原始林に抱かれた静寂

札幌で最も濃い静けさをまとう場所のひとつが、中央区の北海道神宮です。1869年(明治2年)に北海道の開拓を見守る神々をまつって創建され、約18万平方メートルという広大な杜に包まれています。地下鉄東西線の円山公園駅から参道を歩くと、街の音が次第に遠のき、玉砂利を踏む足音と木々のざわめきだけが残ります。

神宮の背後には、大正10年(1921年)に国の天然記念物へ指定された円山原始林が広がります。樹齢150年を超えるカツラやシナノキが空を覆い、目を凝らせばエゾリスや野鳥の姿も見つかります。参拝を終えてから隣接する円山公園へ抜け、原始林の縁を歩くだけで、市街地のすぐ隣とは思えない森の空気に浸れます。狙い目は人の少ない早朝。雪の積もった冬の境内はいっそう静まり返り、枝に降りた雪が音を吸い込むような独特の静けさに出会えます。

平岸・天神山緑地の小さな庭で詫び寂びにふれる

観光のにぎわいから完全に離れたいなら、豊平区平岸の天神山緑地へ。地下鉄南北線の澄川(すみかわ)駅や南平岸駅から歩いて十数分、小高い丘の上に広がる緑地で、その一角に小さいながら滝の流れる日本庭園がしつらえられています。四季折々の詫び寂びを伝えるこの庭は、世界中から芸術家が滞在する「さっぽろ天神山アートスタジオ」に隣り合い、スタジオの一部は緑地の無料休憩所として開放されています(開館時間・休館日は施設の案内で確認を)。

規模は中島公園に及びませんが、訪れる人もまばらで、丘の上のベンチに座って庭を眺める時間は格別です。秋には木々が色づき、紅葉の隠れた名所としても地元に親しまれています。地下鉄でふらりと来られる「街なかの静かな庭」として、心を静めたい午後にぴったりの場所です。

藻岩山の原始林で森林浴

人の手が入った庭ではなく、ありのままの森に身を置きたいなら、市街地の南西にそびえる藻岩山(もいわやま/標高531メートル)へ。山腹を覆う藻岩原始林は国の天然記念物で、針葉樹と広葉樹が入り混じる豊かな森にエゾリスやキタキツネ、野鳥がすみます。山頂へはロープウェイでも上がれますが、森林浴を味わうなら徒歩が断然おすすめ。最も歩かれているのが慈啓会病院前(じけいかいびょういんまえ)コースで、登り約1時間半・下り約1時間と初心者にも歩きやすく、登山口にはトイレや水場も整っています。

木漏れ日の下、土と落ち葉を踏みしめながら一歩ずつ高度を上げていくと、頭の中のざわめきが自然とほどけていきます。山頂からは札幌の街と石狩平野が一望。なお原始林の散策路は天候や季節で状況が変わり、ヒグマの出没情報が出ることもあるため、出かける前に最新情報を確認し、熊鈴など基本の備えをして歩きましょう。

定山渓——札幌の奥座敷で湯にこもる

静養といえば、やはり温泉です。札幌中心部から車で約1時間、支笏洞爺国立公園のなかに湧く定山渓(じょうざんけい)温泉は、「札幌の奥座敷」「湯の杜」と呼ばれる渓谷の湯どころ。豊平川がえぐった谷あいに宿が連なり、湯に身を沈めながら渓谷の緑や紅葉を眺められます。

温泉街のシンボルが、豊平川にかかる赤い二見吊橋(ふたみつりばし)。橋の上からは、岩肌を木々が覆う「かっぱ淵」を見下ろせます。橋を渡った先には散策路が続き、渓流のせせらぎと野鳥の声を聞きながらゆっくり歩けるのが定山渓の魅力です。温泉街にはユーモラスな河童の像が点在し、この地に伝わる河童伝説が旅情を添えます。日帰り入浴を受け付ける宿や、気軽に立ち寄れる足湯もあり(営業時間や受け入れは各施設で要確認)、紅葉の見頃を迎える秋は格別です。湯にこもり、谷を歩く——一日かけて心身を休めるのにふさわしい場所です。

滝野すずらん丘陵公園の渓流と滝

もうひとつ、水の音に身をゆだねたい人へ。市街地の南、車で40分ほどの南区に広がる国営滝野すずらん丘陵公園は、北海道で唯一の国営公園です。約400ヘクタールの園内は中心ゾーンや渓谷ゾーン、滝野の森ゾーンなどに分かれ、なかでも渓谷ゾーンには四つの滝が連なります。落差26メートルのアシリベツの滝は札幌最大級で、「日本の滝百選」にも選ばれた名瀑。緑の木立を割って落ちる水しぶきと轟音を浴びていると、余計な思考が洗い流されていくようです。

春はチューリップ、夏は新緑、秋はコスモスと、約800種の花が季節を彩り、冬は一帯がスノーパークに変わります。遊具のにぎわう中心ゾーンから渓谷ゾーンへ少し歩けば、人影もまばらに。滝の音だけが響く木陰のベンチは、自然のなかで静かに自分と向き合う特等席です(開園期間や時間は季節で変わるため公式情報で確認を)。

静かに過ごすための実用メモ

今回めぐった場所は、季節で表情も装備も大きく変わります。中島公園の日本庭園・八窓庵や滝野公園は冬期に閉鎖・営業形態が変わる一方、北海道神宮や定山渓温泉は雪のなかにこそ深い静けさが宿ります。冬に屋外を歩くなら、滑りにくい靴と防寒は欠かせません。藻岩山や定山渓の山道に入るなら、熊鈴を携え、ヒグマの出没情報を事前に確かめてから歩きましょう。

そして、座禅・ヨガ・呈茶といった「整える体験」の日程や料金、予約の要否は主催者ごとに違い、変更もあります。本記事の記述はあくまで目安として、申し込み前に必ず公式で確認してください。庭園や境内では、声をひそめ、撮影できる場所の表示に従うのが、その場の静けさを分け合うための作法です。広い自然と、人の手が積み重ねてきた庭——その両方を市街地のそばに持つのが、開拓の街・札幌の懐の深さです。にぎやかな一日を過ごした翌朝こそ、人のいない庭や杜に出かけて、深い呼吸をひとつ、してみてください。

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Written by

高橋 大地

アグリツーリズム推進者

日本刀×日本文化体験

観光スポットと刀剣文化をつなぐ多言語展開。