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五島の海が育む珍しい食材|離島だからこそ味わえる、季節の恵みを巡る旅
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五島の海が育む珍しい食材|離島だからこそ味わえる、季節の恵みを巡る旅

長崎県の北西部、玄界灘の荒波にもまれた五島列島は、約100の島々からなる離島地域です。福江島・久賀島・奈留島・若松島・中通島の「五島」を中心に広がるこの群島は、古くから漁業が盛んで、複雑なリアス式海岸と強い海流が生み出す豊かな漁場が、他の産地では得られない独特の旨みを持つ食材を育み続けています。本記事では、五島を訪れたからこそ出会える食材と、それを活かした食文化の魅力を季節ごとにご紹介します。

玄界灘の恵み 五島が誇る高級魚たち

五島の漁港に並ぶ鮮魚の中でも、特に注目すべきは「クエ」の存在です。別名「幻の高級魚」と呼ばれるクエは、岩礁地帯に棲む大型の白身魚で、成魚になるまでに10年以上を要することもある希少種。五島近海のクエは、強い潮流の中で育つため筋肉質でありながら、適度な脂のりが特徴です。刺身にすると繊細な旨みが口の中でゆっくりと広がり、薄造りにして軽くポン酢をつけるだけで、素材の本来の味を堪能できます。冬から春にかけてが旬で、地元の食堂や旅館では一皿3,000円〜5,000円程度で提供されますが、朝に獲れた魚がその日の昼には食卓に並ぶ離島ならではの鮮度は、価格以上の価値があります。

また、五島近海は「五島マグロ」の水揚げ地としても全国的に知られています。対馬海流の影響を受けた冷たくて栄養豊富な海域で育つマグロは、赤身の旨みが濃く、脂の甘みとのバランスが絶妙。築地や豊洲に出回る前に地元で食べるマグロには、市場流通品とは一線を画す鮮度と味わいがあります。夏場には肉厚のカツオも揚がり、藁焼きタタキにすると、薫香と魚の旨みが一体となった格別の味が楽しめます。冬の寒い時期に水揚げされる寒ブリも見逃せない一品で、脂が抜けることなく旨みが凝縮されたこの季節のブリは、刺身でも煮付けでも絶品です。

五島の郷土料理 世代から世代へ受け継がれる味

五島の食文化を知るうえで郷土料理は欠かせません。なかでも「島寿司」は、江戸時代から伝わる五島独自の押し寿司です。塩漬けにした魚をすし飯の上に載せて型で押したもので、長期保存が可能な漁師飯として発達しました。酢飯の酸味と塩魚の旨みが重なる独特の味わいは、現代でも地元の食卓や祭りの席に欠かせない一品で、使う魚の種類によって風味が変わるため、訪れる季節によって異なる島寿司に出会えるのも魅力です。

もう一つの代表格が「かんころもち」。サツマイモを薄切りにして天日干しした「かんころ」を餅米と一緒に搗いて作るこのお餅は、五島の農家が冬の保存食として大切にしてきた庶民の味です。ほんのりとした甘さと素朴な食感が懐かしさを呼び起こし、島を訪れた観光客にも幅広い世代から支持されています。地元の製菓店や道の駅では1個100円〜200円ほどで購入でき、お土産にも最適です。

さらに近年、全国的な注目を集めているのが「五島うどん」です。五島列島に自生する椿から採れた椿油を使って手延べされるこのうどんは、なめらかでコシが強く、のどごしの良さが際立ちます。地元では「地獄炊き」と呼ばれる釜揚げスタイルでいただくのが伝統的な食べ方で、生卵や薬味をすし合わせながら熱々のまま食べる贅沢は格別です。五島列島近海で漁獲されるトビウオ(アゴ)からとった「あごだし」との組み合わせが絶品で、シンプルながら奥深い旨みのスープが麺の風味を引き立てます。

朝市で出会う季節の贈り物

五島を訪れるなら、漁村の朝市は外せないスポットです。福江島の中心部にある市場では、早朝5時頃から前夜に揚がったばかりの魚介類が並びます。並ぶ品は天候や潮の具合によって毎日変わり、それが朝市の醍醐味でもあります。地元漁師が笑顔で「今日は何が良かったか」を教えてくれる場に飛び込むことで、旅行ガイドには載っていない生きた食の情報を得ることができます。

朝市では、観光客向けの土産品だけでなく、地元民が日常的に買う食材も豊富に揃います。小魚の一夜干し、採れたての若布、地元産のひじき、手作りの練り物など、スーパーでは出会えない品々が手頃な価格で入手できます。予算2,000円〜3,000円もあれば、かなり充実した買い物ができるでしょう。営業は概ね早朝5時〜8時が目安で、早起きが必須ですが、その手間を補って余りある体験がそこには待っています。島内を巡る際には、自転車や原付きレンタルを利用しながら複数の漁港の朝市をはしごするのもおすすめです。

季節ごとに変わる食卓 五島の四季を味わう

五島の食の魅力は、季節によって顔ぶれが大きく変わることにあります。春先は真鯛とイサキが最盛期を迎え、桜鯛とも呼ばれる春の真鯛は脂の乗りと旨みのバランスが年間を通じて最高潮に達します。初夏から夏にかけては五島近海で採れる「ムラサキウニ」と「バフンウニ」が旬を迎え、濃厚で甘い磯の香りはこの時期だけの贅沢です。旬は7〜8月の短い期間に限られるため、時期を合わせて訪れる価値は十分にあります。

秋から冬にかけては五島の食卓が最も充実します。クエやメバルなどの岩礁魚が脂を蓄え、旬を迎えるこの季節は、旅館の夕食も特に豪華になります。8,000円〜15,000円程度の宿泊プランでも、五島産の魚介を中心に据えた会席料理で島の食文化を存分に堪能できます。

また、近年では若い漁業者たちが「ヒオウギガイ」(カラフルな二枚貝)や「アワビ」の養殖・漁獲に力を入れており、島の食材ラインナップはさらに広がりつつあります。ヒオウギガイはその鮮やかな貝殻の色合いから「海のステンドグラス」とも呼ばれ、バター焼きや蒸し料理にすると濃厚な甘みが引き立ちます。こうした新しい名産品の誕生も、五島を何度でも訪れる理由のひとつになっています。

食を通じて深まる五島への理解

五島の食文化を巡る旅は、単に美味しいものを食べる体験にとどまりません。激しい潮流が育む豊かな漁場、海と共に生きてきた島民の歴史、そして何世代にもわたって受け継がれてきた食の知恵が、一皿の料理に凝縮されているのです。

地元漁師から直接話を聞く機会、島のお母さんが作る家庭料理に招かれる経験、朝市で顔なじみの店主と交わす会話——そうした触れ合いの中にこそ、どんなグルメ情報誌も伝えきれない五島の真髄があります。アクセスは長崎港からフェリーで約1時間30分〜3時間、または長崎空港から飛行機で約30分と、思いのほか身近な離島です。季節ごとに異なる顔を見せる五島の食卓を目当てに、何度でも足を運びたくなる。そんな奥深い魅力が、五島列島にはあふれています。

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Written by

中村 さくら

食文化ジャーナリスト

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