高松市の中心部、玉藻公園の一角に静かにたたずむ艮櫓は、往時の高松城の面影を今日に伝える貴重な歴史的建造物です。瀬戸内海に面した海城ならではの風情と、四百年以上の歴史が凝縮されたこの場所は、訪れる人の心に深い印象を刻みます。
海に浮かぶ城と艮櫓の歴史
高松城は、天正16年(1588年)に生駒親正によって築かれた平城です。瀬戸内海の波打ち際に直接建てられたという日本でも珍しい「海城」として知られており、城の堀には海水が引き込まれていました。最盛期には満潮時に船で城内に直接乗り入れることができたとも伝えられ、瀬戸内の海上交通を掌握するうえで重要な軍事的・政治的拠点としての役割を果たしていました。
艮櫓という名称は、城郭における方角の呼称に由来しています。「艮(うしとら)」とは、十二支でいう丑寅の方角、すなわち北東を指す言葉です。日本の伝統的な方位観念において、北東は「鬼門」と呼ばれる不吉な方角とされており、城郭の設計においては特にこの方向の守りを固めることが重視されました。艮櫓はまさにその北東の守りとして機能した隅櫓であり、城の防御において重要な役割を担っていました。
江戸時代に入ると、高松藩は松平氏(水戸徳川家の分家)の領地となり、城はさらに整備・拡充されました。明治維新後、廃城令によって全国の城が次々と取り壊されるなか、高松城もその例外ではなく、天守をはじめ多くの建造物が失われました。しかし艮櫓はその後も保存され、現在は国の重要文化財に指定されています。
艮櫓の建築的特徴と見どころ
艮櫓は、二重二階の構造を持つ隅櫓です。城郭建築として典型的な特徴を備えながら、細部には桃山時代から江戸時代初期にかけての建築技術の粋が込められています。白漆喰の壁と黒瓦の組み合わせは、海辺の光を受けて清廉な美しさを放ちます。
建物の外壁には狭間(さま)と呼ばれる銃眼や矢穴が設けられており、実戦を想定した防衛施設としての性格がうかがえます。一方で、屋根の軒の反りや組物(斗栱)の意匠などには、武骨な機能性の中にも格式と美意識を追求した当時の職人の仕事が見て取れます。近くで建物を眺めると、木材と漆喰が長い年月を経て醸し出す独特の質感と色合いに、歴史の重みを感じることができます。
玉藻公園内には艮櫓のほか、月見櫓・水手御門・渡櫓なども現存しており、これらは一体的に国の重要文化財に指定されています。城跡全体を歩きながら、それぞれの建造物を比較して観察するのも、建築好きや歴史ファンには格別の楽しみです。
玉藻公園での散策
艮櫓が位置する玉藻公園は、高松城の本丸・二の丸跡を整備した歴史公園です。広大な敷地には内堀が残り、その水面には松や石垣が映り込んで、独特の静謐な景観を作り出しています。堀にはコイや鯛(まだい)が泳いでおり、訪問者が手を伸ばすと寄ってくることもあります。かつて海と直結していたこの堀で鯛が泳いでいる光景は、高松城を象徴するユニークな名物として親しまれています。
公園内には旧松平家の石造りの灯籠や庭石なども点在しており、藩政時代の面影を随所に感じることができます。天守跡には石垣が積み上げられており、往時の壮大さを想像しながら眺めると、城の規模の大きさに改めて驚かされます。
散策コースとしては、正門から入ってまず石垣や内堀沿いを歩き、艮櫓方面へと進むルートが一般的です。公園全体を一周しても1時間程度で巡ることができるため、観光の合間に気軽に立ち寄れるのも魅力のひとつです。
季節ごとの楽しみ方
玉藻公園は季節ごとに異なる表情を見せ、一年を通じて楽しむことができます。
**春(3月下旬〜4月)** は桜の季節です。公園内の桜が一斉に咲き誇り、石垣や艮櫓との組み合わせは絵画のような美しさを見せます。毎年多くの花見客が訪れ、城跡全体が華やいだ雰囲気に包まれます。
**夏(7月〜8月)** は緑が濃くなり、堀の水面が太陽の光を反射して輝きます。木陰が多く、比較的涼しく散策を楽しめます。瀬戸内海に近い立地から、夕方には海風が吹き込み、心地よいひとときを過ごせます。
**秋(10月〜11月)** は紅葉が公園内を彩ります。赤や黄色に染まった葉と白い漆喰壁のコントラストが美しく、写真撮影に訪れる人も多い時期です。
**冬(12月〜2月)** は訪問者が少なく、静かに城跡の雰囲気を堪能したい人に向いています。冬の澄んだ空気の中、石垣の苔や木々の枯れた姿が独特の侘び寂びの美を演出します。
アクセスと周辺情報
艮櫓へのアクセスは非常に便利です。JR高松駅から徒歩約5分という好立地にあり、駅を降りてすぐに向かうことができます。高松駅周辺はことでん(高松琴平電気鉄道)の琴平線・長尾線・志度線の起点でもあり、県内各地からのアクセスも容易です。
玉藻公園の入園料は大人200円(2024年時点)と手頃な価格設定で、気軽に訪問できます。開園時間は季節によって異なるため、訪問前に高松市公式サイト等で最新情報を確認することをおすすめします。
周辺には観光スポットが充実しています。徒歩圏内には、日本三大庭園のひとつとして名高い栗林公園(高松駅から琴電で約10分)があります。また、高松港からはフェリーで小豆島や直島などの離島へのアクセスも便利で、アートと自然を楽しむ旅のベースとしても最適です。高松市内にはうどん店も数多く点在しており、讃岐うどんを堪能しながら城跡めぐりを楽しむプランも人気があります。
歴史と自然と食文化が交差する玉藻公園の艮櫓は、四国・高松を訪れた際にぜひ立ち寄りたい、深みある観光スポットです。
Access
高松駅から徒歩圏内
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