熱海の街を歩いていると、路地の石畳のあいだから白い湯気がゆらりと立ち上がる光景に出合うことがある。それが「熱海七湯」だ。数ある七湯のなかでも、圧倒的な存在感を誇るのが「大湯間歇泉」である。
熱海七湯とは何か
熱海は古くから良質な温泉の湧出地として知られ、江戸時代には徳川将軍家にも愛された「天下の名湯」として栄えた。その熱海の街なかに点在する七か所の源泉を総称して「熱海七湯」と呼ぶ。河原湯・佐治郎の湯・清左衛門の湯・風呂の湯・大湯・小沢の湯・野中の湯の七つがそれにあたり、いずれも街の路傍や坂道のわきに今も存在している。
七湯めぐりは熱海観光の定番コースのひとつで、各源泉のそばに立つ説明看板を読みながら歩くだけでも、熱海の長い温泉の歴史を肌で感じることができる。温泉街としての風情を色濃く残すこの七湯は、観光スポットとしてだけでなく、地域の文化遺産としても大切に守られている。なかでも大湯間歇泉は七湯の象徴とも言うべき存在で、かつて世界にその名を轟かせた自噴泉の面影を今に伝えている。
世界的に名を知られた自噴泉の歴史
大湯間歇泉は、かつて世界的にも有名な間歇泉として知られていた。間歇泉とは、一定の周期を置いて地下から熱湯や蒸気が間欠的に噴き出す温泉のことで、アイスランドのゲイシール、アメリカのオールド・フェイスフルとともに世界三大間歇泉に数えられていたほどの規模を誇っていたとも伝えられる。
全盛期の大湯は、昼夜合わせて一日に六回の噴出を繰り返し、その都度、熱湯と蒸気が交互に激しい勢いで吹き上がり、まるで地面そのものが揺れるほどの迫力があったという。地元の人々はもちろん、遠方からの旅人もこの壮観な噴湯を一目見ようと熱海を訪れたと伝えられており、江戸・明治の時代における熱海の一大名物として広く知られていた。
現地に立つ「オールコックの碑」はその歴史の証人ともいえる存在だ。初代駐日英国総領事ラザフォード・オールコックは1860年代に熱海を訪れ、大湯の噴出を目の当たりにしてその壮大さを記録に残している。外国の外交官がわざわざ足を運んで記録するほどの現象であったことが、この碑からも伝わってくる。
噴出停止から文化財保存へ
江戸から明治にかけて旅人を驚かせ続けた大湯の噴出も、明治中頃を境に徐々に勢いを失っていった。温泉の開発が進んだことや地下水脈の変化などが影響したと考えられており、かつての圧倒的な噴出力は次第に弱まっていった。そして1923年(大正12年)、大湯はついに自然噴出を止めてしまう。
ただし歴史の皮肉というべきか、大地震が発生した際には一時的に再び噴出することもあったという。大地の力の不思議さを感じさせるエピソードだが、その後は自然な状態での噴出は戻ることなく長い眠りについた。こうした経緯を経て、1962年(昭和37年)に熱海市は大湯間歇泉を市の文化財として指定し、その保存と活用に乗り出した。現在は約5分おきに人工的に湯を噴出させることで、かつての大湯の壮観を観光客に体感してもらえるよう整備されている。
現在の見どころと周辺の魅力
今日の大湯間歇泉は、熱海駅から徒歩約20分、あるいは「湯~遊~バス」を利用してバス停「大湯間歇泉」から徒歩約3分ほどの場所にある。上宿町の静かな一角に整備されたスペースで、約5分ごとに力強く湯が噴き上がる様子を間近で眺めることができる。白い湯気と熱湯が吹き上がる瞬間はなかなかの迫力で、訪れた人が思わずカメラを向けたくなる光景だ。
また、敷地内には歴史を伝える説明看板とともに、オールコックの来訪を記念した碑も設置されている。さらに目を引くのが「日本初の電話ボックスの復元」だ。熱海は日本で初めて公衆電話ボックスが設置された地とされており、その復元モデルも大湯間歇泉のそばに展示されている。温泉の歴史だけでなく、近代日本のインフラ史にも触れられる意外な見どころである。
なお、大湯間歇泉はあくまで観覧スポットであり、入浴施設ではない点に注意が必要だ。駐車場も設けられていないため、熱海駅からのバスや徒歩での訪問が基本となる。
七湯めぐりのモデルコース
大湯間歇泉を起点に、熱海七湯を順番に歩いて回る「七湯めぐり」は、温泉情緒と歴史散歩を同時に楽しめる人気の過ごし方だ。以前は押印帳が配布されており、各源泉のそばにあるスタンプを集める楽しみもあったが、現物の在庫は終了しており、現在は公式サイトからPDFをダウンロードして利用する形になっている。
七湯はそれぞれ個性が異なり、路地の細い曲がり角に突然現れるものや、商店街のすぐそばに存在するものなど、街歩きのなかで出合う驚きが連続する。熱海の地形は坂道が多く、湯気が漂う坂道を歩くだけで温泉地らしいムードが高まる。近くには湯前神社や銀座商店街など立ち寄りスポットも多く、半日から一日かけてのんびり散策するのにちょうどよいコースとなっている。
大湯間歇泉はその七湯のなかでも特に見応えのあるスポットであり、熱海を訪れた際にはぜひ足を運んでほしい場所のひとつだ。江戸から現代へと続く温泉の歴史を、噴き上がる湯とともに体感してみてほしい。
Access
JR熱海駅より徒歩約20分 JR熱海駅より湯~遊~バス利用約20分→大湯間歇泉下車→徒歩約3分
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Budget
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