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横浜の深夜グルメと夜食文化|野毛のせんべろ〆・家系ラーメン・サンマーメン
グルメ
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横浜の深夜グルメと夜食文化|野毛のせんべろ〆・家系ラーメン・サンマーメン

港町の夜は「野毛」で更けていく

横浜の夜と聞くと、みなとみらいの観覧車や赤レンガ倉庫を思い浮かべる人が多いのですが、深夜まで人の絶えない「夜食の街」はその裏側にあります。中心は桜木町(さくらぎちょう)駅の西側に広がる飲み屋街・野毛(のげ)。線路を一本またいだだけで、夜景のきらめきから昭和の路地裏へと一気に景色が変わります。JR根岸線と横浜市営地下鉄ブルーラインの桜木町駅、その隣の関内(かんない)駅を起点に、野毛・伊勢佐木町・横浜中華街が徒歩圏でつながっており、一晩で「飲む街」と「食べる街」をはしごできるのが横浜の夜の構造です。観光を終えてから繰り出しても遅すぎない、むしろ夜が更けてからが本番という街並みです。

せんべろと路地のハシゴ酒

野毛は、およそ600軒の酒場がひしめくと言われる横浜随一の飲み屋街で、その密度と猥雑さから「横浜の黄金街(ゴールデン街)」とも呼ばれます。碁盤の目のように交差する細い小路に、戦後すぐから続く焼き鳥・もつ焼きの煙やおでんの湯気が立ちこめ、立ち飲みや一杯飲み屋が軒を連ね、チャージ(席料)を取らない店も多いのが特徴。1,000円ほどで酒と肴が楽しめる「せんべろ」文化の本場で、一軒で長居せず数百円ずつ飲み歩くのが野毛流です。桜木町駅から続く地下通路「野毛ちかみち」を抜けてすぐ、大岡川(おおおかがわ)沿いには昭和39年(1964年)開業の細長い飲食店ビル・都橋(みやこばし)商店街があり、川面に灯りが映る独特の夜景が広がります。一杯目は立ち飲みで軽く、二軒目は小箱のカウンターで——そうやって深夜へ向かって体を温めていくのが、横浜の夜食・〆の一杯への助走になります。

〆の王様・横浜家系ラーメン

飲んだあとの〆として横浜が全国に誇るのが、家系(いえけい)ラーメンです。豚骨醤油のこってりしたスープに鶏油(チーユ)を浮かべ、酒井製麺に代表される太いストレート麺を合わせ、海苔とほうれん草を乗せる——この様式は1974年に横浜で生まれ、いまや全国区になりました。発祥の店は「家系総本山」として今も敬われていますが、横浜の家系の本質は、長距離ドライバーや夜勤明けの腹を満たすために深夜まで、店によっては24時間も灯りをともし続ける庶民性にあります。一杯の目安は800〜1,000円前後で、卓上の無料ライスにスープを吸わせて頬張るのが定番の食べ方。麺の硬さ・味の濃さ・脂の量を好みで頼める「お好み」も家系ならではで、酔った体に塩気と脂がしみる、横浜の夜の決定打です。

とろみで温まる夜食・サンマーメン

家系が「攻め」の〆なら、もう一杯の横浜名物・サンマーメンは体をいたわる夜食です。醤油味の澄んだスープに細めの中華麺、その上に炒めたもやしや白菜、豚肉をとろみのあるあんで覆ったあんかけ麺で、最後の一口まで熱々が続くのが身上。これも横浜発祥のご当地麺で、戦後まもない頃に横浜港で働く労働者向けに、安くて食べ応えがあり冷めにくい一杯として広まったと伝わります。2022年には文化庁の「100年フード」にも認定されました。野毛や伊勢佐木町、関内の路地に点在する昔ながらの「町中華」が深夜まで開けていることが多く、餃子と瓶ビールを添えれば、家系とはまた違う、ほっと温まる横浜の夜食になります。ひと皿あたり七百円台から千円ほどというのがおおよその水準です。

中華街の点心、夜のつまみ方

関内駅やみなとみらい線・元町中華街駅の側に広がる横浜中華街は、夜が更けても灯りの落ちない一角です。多くの店が早めに閉まる一方、深夜近くまで営業を続ける店もあり、肉まんや小籠包、焼売(シュウマイ)といった点心を遅い時間のつまみにできます。店先の蒸籠(せいろ)から立ちのぼる湯気は中華街の夜の風物詩で、ほかほかの肉まんは一個数百円程度が相場。ただし近年は歩きながらの飲食は控えるよう求められているため、買ったその場やカウンターで頬張るのが街への作法です。点心をつまんでから野毛で本格的に飲む、あるいは飲んだあとに肉まんで小腹を埋める——中華街は横浜の夜の「前後」どちらにも効く、便利な寄り道です。

伊勢佐木町・関内の遅い時間

野毛と中華街にはさまれた伊勢佐木町(いせざきちょう)は、寄席や映画館から育った横浜きっての歓楽・繁華街です。関内駅側の1・2丁目は歩行者天国「イセザキモール」となり、3丁目から先は1km以上続く商店街。昼の買い物の街が、夜にはアジア各国の料理店やバー、深夜営業の食堂が灯りをともす多国籍な顔へと変わります。中華・韓国・東南アジアの店が混在し、家系でもサンマーメンでもない「もう一つの横浜の夜食」を探すならこのあたり。関内は野毛・伊勢佐木町・中華街のちょうど結節点にあたるので、終電まで時間が読みづらい夜は、この駅を軸に動線を組むと迷いません。

深夜の歩き方メモ

桜木町・関内ともに終電はおおむね深夜0時前後。逃しても繁華街にはタクシーが流しており、横浜駅周辺のホテルまでなら短距離で収まります。24時間や朝方まで営業する家系ラーメン店が点在するのが横浜の強みで、終電を諦めて始発まで〆をはしごする、という選択肢すら成立します。野毛でせんべろ、中華街で点心、そして家系かサンマーメンで締める——みなとみらいの夜景だけでは見えない港町のもう一つの夜を、ぜひ自分の足で歩いてみてください。

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Written by

石井 龍之介

歴史文化研究家

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