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湯治・温泉療法の科学|疾患別の泉質選びと全国の湯治宿で体を癒す方法
ヘルスケア
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湯治・温泉療法の科学|疾患別の泉質選びと全国の湯治宿で体を癒す方法

日本には3,000か所以上の温泉地があり、そのうち約30か所が環境省の「温泉療養のための温泉」として認定されています。単なるリラクゼーション施設ではなく、医学的に効果が認められた療養手段として温泉を活用する「湯治(とうじ)」の文化は、日本固有の健康文化です。温泉療法を専門とする医師の知見をもとに、泉質別の効果と科学的根拠、全国の名湯地を詳しく解説します。

温泉の医学的効果:温熱・浮力・水圧の三作用

温泉の健康効果は、大きく3つの物理作用に分類できます。

温熱作用: 38〜42度のお湯に浸かると、体表から体芯部への熱移行が起こり、血管拡張・血流改善・筋肉の弛緩が生まれます。副交感神経が優位になるため、ストレスホルモン(コルチゾール)の低下が確認されています。また、入浴による体の温まりが体調管理に役立つといわれ、健康維持の観点からも注目されています。

浮力作用: 水中では体重の約90%が軽減されるため、関節・脊椎への負荷が激減します。関節や腰への負担がやわらぐため、関節痛・腰痛・筋肉痛といった症状の緩和に役立つとされる理由のひとつがこれです。水中での軽い体操(温泉リハビリ)は整形外科でも処方されることがあり、陸上では困難な動作も水中なら無理なく行えます。

水圧作用: 水圧が足首から腹部にかけてかかることで、末梢から心臓への静脈還流が促進されます。むくみの改善・心肺機能の向上が期待できるほか、横隔膜への圧力が呼吸筋を鍛える効果もあります。慢性的なむくみや下肢静脈瘤の予防にも、定期的な入浴習慣が推奨されています。

泉質別の医学的効果と疾患別おすすめ

日本の温泉法では泉質を10種類に分類しており、それぞれに異なる適応症が定められています。

硫黄泉(草津・登別・蔵王): 肌を清潔に保つ働きがあるといわれ、肌の調子を整えたい方に選ばれることが多い泉質です。効果には個人差があります。独特の硫黄臭は好みが分かれますが、療養目的では最も実績がある泉質です。草津温泉は「湯もみ体験」で有名ですが、これは強酸性(pH2前後)の泉質を体に合う温度まで下げるための文化であり、地域の知恵が形になったものです。

炭酸水素塩泉(長野・大分・熊本): 「美人の湯」として知られ、肌の角質を柔らかくする作用があります。肌のくすみ・乾燥・かゆみの改善に効果的です。肌あたりがやわらかく、湯上がりの心地よさを感じやすいといわれます。長野県の松代温泉や熊本県の南小国温泉などが代表的です。

ナトリウム塩化物泉(食塩泉)(熱海・伊豆・下田): 保温力が高く、「温まりの湯」として冷え性・慢性関節炎・疲労回復に効果があります。入浴後に汗が出やすく、すっきりとした入浴感を得やすい泉質です。塩分が皮膚表面に薄い膜を形成することで熱の発散を抑え、入浴後も長時間温もりが続くのが特徴です。

放射能泉(ラジウム泉)(鳥取・三朝・兵庫): 「薬の湯」とも呼ばれ、低濃度のラドンに関する研究が古くから行われてきたといわれます。鳥取県の三朝(みささ)温泉はラジウム含有量が世界屈指で、放射能泉の療養に関する研究が報告されています。効果には個人差があります。

硫酸塩泉(草津・万座・下呂): 「傷の湯」「脳卒中の湯」とも称されます。硫酸カルシウムを多く含む泉質は、切り傷ややけどあとの肌の手当てに古くから用いられてきたといわれます。

全国の湯治の里と滞在型施設

秋田・玉川温泉: 強酸性(pH1.2)の日本最強クラスの酸性泉として知られ、岩盤浴(北投石の上に寝る)を目的に長期滞在で訪れる人も多くいます。長期滞在の湯治客向けに自炊型の宿泊棟が整備されており、1週間から1か月単位での滞在が可能です。冬季は積雪が深く、その中でも岩盤浴に通う湯治客の姿が見られます。

熊本・黒川温泉: 山間の風情ある温泉街で、多様な泉質の宿が集まっているため「はしご湯」で複数の泉質を一度に体験できます。3泊〜7泊の短期湯治を提供する旅館が増えており、温泉療法士が常駐して入浴プランを個別に提案してくれる施設もあります。

大分・別府温泉: 日本一の源泉数(2,800以上)を誇り、泉質の多様さは国内最高峰です。「別府八湯温泉道」という88か所の入浴手形制度があり、スタンプを集めながら様々な泉質を体験できます。市内には共同浴場が数多く存在し、地元住民に交じって100〜300円という低価格で本物の湯治体験ができます。

岩手・花巻温泉郷: 宮沢賢治の故郷としても知られるこの地域には、大沢温泉・鉛温泉・志戸平温泉など個性的な宿が点在します。特に大沢温泉の自炊部は江戸時代から続く湯治の伝統を色濃く残しており、食材を持ち込んで自炊しながら長期滞在する本格的な湯治が現代でも体験できます。

湯治の効果を高める入浴法

湯治の効果を最大化するためには、入浴の仕方にも工夫が必要です。

「分割浴」と呼ばれる入浴法では、1回あたり10〜15分の入浴を1日3〜4回に分けて行います。長時間の連続入浴よりも体への負担が少なく、温熱効果をより効率よく引き出せます。入浴前後の水分補給は欠かせません。温泉中は発汗により体重の1〜2%程度の水分が失われるため、入浴前後に常温の水(または温泉水)を200〜300ml飲むことが推奨されます。

入浴後の「湯冷まし」も重要な要素です。湯上がりすぐに外出せず、20〜30分横になって体を休ませることで、血圧や体温が安定し、温泉成分の吸収も促進されます。この習慣が伝統的な湯治の「休養」に相当します。

湯治を始める前の注意事項

温泉療法は適切に行えば高い効果が期待できますが、注意点もあります。

高血圧・心疾患がある方は42度以上の高温浴を避け、38〜40度のぬる湯で長時間入浴(20〜30分)を選んでください。急激な温度変化によるヒートショックは、特に冬季の脱衣所と浴室の温度差が10度以上になる場合に起こりやすく、毎年多くの事故が報告されています。

飲酒後の入浴は血圧低下・溺水のリスクがあり、絶対に避けるべきです。また、初めて強泉質(硫黄泉・酸性泉など)に入浴する際は「湯あたり」に注意が必要です。頭痛・倦怠感・下痢などの症状が出た場合は入浴を中止し、1〜2日休養してから再開してください。

持病がある方は、主治医に相談してから湯治プランを立てることが何より大切です。温泉療法専門医(日本温泉気候物理医学会認定)が在籍する施設では、個人の体質や疾患に合わせた処方入浴が受けられます。温泉地によっては保険診療の対象となる温泉療法を提供している医療機関もあるため、事前に調べておくと良いでしょう。

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Written by

藤井 健三

温泉療法医・ウェルネスライター

日本刀×日本文化体験

観光スポットと刀剣文化をつなぐ多言語展開。