グルメ
松本の夜食と深夜グルメ|信州の馬肉と〆そば、駅前の深夜ラーメン
北アルプスの城下町で、松本の夜食は「冷えた体を温める一杯」
松本の夜食を語るうえで欠かせないのが、この街の冷え込みです。松本は飛騨山脈(北アルプス)と美ヶ原に囲まれた松本盆地に開けた城下町で、典型的な内陸性の中央高地気候。晴天率が高いぶん夜は放射冷却で底冷えし、冬の市街地では氷点下近く、強く冷える朝晩には氷点下10度近くまで下がる日も珍しくありません。北アルプスが雪雲をさえぎるため積雪こそ少ないものの、空気の冷たさは沿岸の都市の比ではありません。だからこそ松本の夜遊びの締めくくりには、湯気の立つ温かい一杯が体に沁みます。深夜まで開く店はJR松本駅のお城口(東口)周辺にまとまっており、宿へ戻る動線を考えても、ここを夜食の起点にするのが合理的です。
〆の主役は、駅前の深夜ラーメン
飲んだあとの〆として、松本でいちばん層が厚いのが駅前のラーメンです。松本駅お城口から数分の範囲に、深夜まで暖簾を出すラーメン店が点在し、店によっては深夜2時、週末は3時近くまで営業しています。あっさりした醤油の中華そばから、こってりの豚骨醤油、にんにくと唐辛子を効かせたまぜそば系、真っ黒な見た目のブラック系まで、タイプはさまざま。スナックや居酒屋帰りの地元客に交じって、旅行者でもふらりと一杯すすれる気軽さがあります。近年は精肉店が手がける居酒屋が、肉のつまみからそのまま〆のラーメンまで一軒で出す業態も増え、酒のあとの動線が短くなりました。一杯あたり七百円から千円ほどを見ておけばよいでしょう。
はしご酒の延長で夜食を探すなら、松本駅から徒歩2分ほどのホテル1階にある飲み歩き横丁も便利です。信州名物から全国の郷土料理までを出す十数軒の小さな屋台が軒を連ね、一軒で軽く一杯やってから次へと「つなぐ」飲み方ができる新しいスポットで、地元客と観光客が入り混じって賑わいます。
信州の夜の肴、馬肉と冬の桜鍋
松本の居酒屋でひときわ存在感を放つのが馬肉です。長野県は馬肉の消費が全国でも上位の土地で、松本平には明治期から続く馬肉専門の老舗居酒屋もあり、「桜肉」と呼ばれる馬肉が古くから日常の食卓に根づいてきました。遅い時間の肴に向くのが、赤身を中心にタテガミ(コウネ)や霜降りを盛り合わせた馬刺し。生姜やにんにく醤油でいただく一皿は、相場1,000〜2,000円前後が目安です。
そして冷え込む松本の冬にこそ食べたいのが桜鍋。馬肉を割り下で煮るすき焼き風の鍋で、店によって大根おろしや卵、すりおろした林檎を添えるなど仕立てが分かれます。馬肉は脂が軽く、たっぷり食べても重くなりにくいため、深酒のあとでも体を芯から温め直す一鍋として向いています。馬肉の燻製や串焼きを出す店もあり、〆のラーメンや蕎麦の前に、信州ならではの一品で体を温めておくのも松本らしい夜の組み立てです。
揚げたての山賊焼きで、がっつり夜食
肉でしっかり腹を満たしたい夜に頼みたいのが山賊焼きです。鶏もも肉をにんにくの効いた醤油だれに漬け込み、片栗粉をまぶして一枚肉のまま豪快に揚げた、松本・塩尻を中心とする中信地方の名物。発祥は塩尻市の居酒屋とされ、店主の風貌が山賊に似ていたから、あるいは山賊が物を「取り上げる」を「鶏を揚げる」にかけたから、と名前の由来には諸説あります。揚げ物なのに「焼き」と呼ぶのは、油が貴重だった時代に少ない油で焼くように調理した名残とも言われ、いまも「山賊揚げ」と呼ぶ店があります。一枚700〜1,200円程度が相場で、ボリュームがあるので数人でつまむ〆の一皿にぴったり。ビールにも信州の地酒にも合う、松本の夜食の定番です。
冷えた夜に効く、温かい信州そばと「とうじそば」
蕎麦どころの松本では、〆を無理にラーメンで締めず、温かい蕎麦に流すのも粋な選択です。香り高い信州そばはざるで手繰るのが王道ですが、冷えた夜には温かいかけそばが体に沁みます。
なかでも松本ならではが、市の西部・標高1,200mほどの奈川(ながわ)地区に伝わる「とうじそば」。「とうじかご」と呼ばれる小さな竹かごにそばを入れ、鶏や鴨、きのこなどの出汁を張った鍋にさっとくぐらせて温め、つゆごといただく鍋仕立ての一品です。冷水で締めたそばを温めるので、煮込んでも麺がのびにくいのが持ち味。山あいの寒い土地で、旅人や祝い・法事の客の体を温めてもてなしてきた料理で、最後に残った出汁でおじやを作って締めれば、冷えた松本の夜に芯から温まります。専門に出す店は限られるため、味わいたい日は事前に確かめておくと安心です。
深夜に動くための実用メモ
松本の夜食エリアは、目的でゆるやかに分かれます。〆のラーメンや遅い時間の一杯は、店が密集する松本駅お城口周辺と飲み歩き横丁がいちばん動きやすいエリア。城の南東に広がる裏町(うらまち)はかつての花街の名残でスナックやバーが密集し、その帰りに駅前へ戻って〆る流れが定番です。女鳥羽川から松本城へ伸びる大名町通りや、川沿いのなわて通りは城下町情緒のある通りですが、夜は早じまいの店が多いので、夜食というより日没前の散策向きと割り切るとよいでしょう。
交通は、JR松本駅に中央本線・篠ノ井線・大糸線、アルピコ交通上高地線が乗り入れるターミナル。終電は路線・時期で異なりますが、おおむね深夜0時前後が目安で、安曇野方面など近郊へ帰るなら早めの確認が安心です。終電を逃しても駅周辺ではタクシーを拾え、市街地のホテルへの移動なら大きな負担になりません。冬は夜半の冷え込みが厳しいので、上着は一枚多めに。馬刺しや桜鍋で温まり、〆に深夜ラーメンか温かい信州そば——北アルプスの城下町らしい夜食の締めくくりを、ぜひ自分のペースで描いてみてください。
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