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岡山で心を整える——禅寺と庭園、里山でめぐる静寂の時間
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岡山で心を整える——禅寺と庭園、里山でめぐる静寂の時間

岡山は「静かに座る」ための町

岡山の旅は、にぎやかな観光名所をめぐるだけでなく、ただ静かに座って過ごす時間にもよく向いています。岡山藩を治めた池田家は、城下に日本三名園のひとつ後楽園を築き、その一族の菩提寺として禅寺・曹源寺を開き、東に連なる操山一帯を藩政期の山林として治めました。庭・禅・里山——心を鎮めるための場所が、池田家ゆかりの系譜でひとつの町にそろっているのが、岡山という土地の面白さです。全国的にも雨が少なく「晴れの国」と呼ばれるこの地は、朝の澄んだ光の下で静かな時間をとりやすいのも魅力。本稿では、座禅・写経・庭園での静観・里山での内省という視点で、にぎやかな観光散策とは逆方向の、岡山とその近郊の静けさを訪ねます。

曹源寺——国際的に知られる禅の修行道場

岡山市中心部の東、円山(まるやま)のふもとに建つ曹源寺(そうげんじ)は、臨済宗妙心寺派の禅寺で、山号を護国山といいます。岡山藩2代藩主・池田綱政が元禄11年(1698年)に一族の菩提を弔うために創建した、池田家ゆかりの寺です。「備前第一」とも称される堂々たる本堂、江戸中期に絶崖禅師と藩の郡代・津田永忠が手がけたと伝わる池泉庭園が、訪れる人を静かに迎えます。

特筆すべきは、ここが今も現役の禅の修行道場であること。国内外から雲水(修行僧)が参じる本格的な専門道場として国際的にも知られ、境内には観光地とは異なる、張りつめた静けさが満ちています。公式の案内では日曜の朝などに一般も参加できる坐禅会が開かれているとされますが、日程や受け入れの可否は時期によって変わるため、訪ねる前に必ず寺の公式情報で確認してください。坐禅そのものに加わらなくても、山門をくぐって境内の空気に身を置くだけで、心の速度が一段落ちていくのを感じられるはずです。

後楽園で「静観」する——早朝の借景と蓮

後楽園(こうらくえん)は、池田綱政が自らの安らぎの場として築かせた大名庭園で、金沢の兼六園・水戸の偕楽園と並ぶ日本三名園のひとつ。国の特別名勝に指定されています。観光名所として名高い庭ですが、ここは「歩いて見る」だけでなく「座って眺める」ためにこそ設計された場所でもあります。

おすすめは開園直後の早い時間帯です。人影のまばらな朝の園内は、広い芝生と曲水を渡る風の音だけが残り、にぎわう日中とはまるで別の場所になります。正門近くの延養亭まわりからは、園内の景色の向こうに岡山城や東の山並みを取り込んだ「借景」が広がり、視線が自然と遠くへ抜けていきます。曲水のほとりや木陰に腰を下ろし、ただ庭を眺める——それだけで十分に瞑想的な時間になります。

夏には、蓮の花がゆっくりとひらく様子を早朝に観賞する「観蓮節」と呼ばれる行事が催され、通常より早い時刻から開園することがあります。開園時間は季節で変わり、おおむね春から夏は朝7時半ごろ、秋から冬は朝8時ごろからとされますが、早朝の静けさを狙うなら、最新の開園時刻を公式サイトで確かめてから出かけると確実です。

操山——城下を見下ろす里山で、岩に腰かける

後楽園の借景となっている東の山並みが、操山(みさおやま)です。標高169メートルほどの低い里山で、藩政期には池田家が治めた山林でした。南の斜面は住宅地に変わりましたが、北側には果樹園や竹林、田畑の点在する里山の風景が今も残っています。

操山公園里山センターを起点に、尾根づたいに岡山県護国神社へ抜ける道は、片道1時間ほどの歩きやすいコースです。ただ、ここでの目的は「登る」ことよりも「座る」ことにあります。尾根の途中には八畳岩(はちじょういわ)と呼ばれる大きな岩があり、その上に腰を下ろすと、眼下に岡山の市街地と瀬戸内へ続く平野が静かに広がります。風の音と鳥の声のほかは何も聞こえない時間に身を置けば、頭の中の雑音が少しずつ静まっていくのが分かります。

操山一帯は、4〜7世紀の古墳が百基以上点在する「古墳の山」としても知られます。木立の中にひっそりと残る石室の前に立つと、千数百年という時間の長さの前で、日々の悩みがふっと小さく感じられます。観光というより、ひとりで静かに考えごとをしたい日にこそ向く山です。

吉備路へ——五重塔の田園と、雪舟の宝福寺(総社市)

もう少し足をのばせるなら、岡山市の西隣・総社市(そうじゃし)に広がる吉備路(きびじ)がおすすめです。古代吉備国の中心だったこの一帯は、田園のなかに史跡が点在する、時間のゆっくり流れる場所です。

そのシンボルが備中国分寺(びっちゅうこくぶんじ)の五重塔。岡山県内で唯一現存する五重塔で、江戸後期に建てられた高さおよそ34メートルの塔が、稲田やレンゲ畑の向こうにすっと立つ姿は、何度見ても背筋の伸びる思いがします。塔の周囲には散策路が整い、春はレンゲと菜の花、夏はひまわり、秋はコスモスと、田園が季節ごとに色を変えます。ベンチに腰かけて塔と空を眺めるだけの、目的のない時間がよく似合う場所です。

同じ総社市の井山宝福寺(いやまほうふくじ)は、臨済宗東福寺派の禅寺で、室町時代の画僧・雪舟が幼い日に修行した寺として知られます。柱に縛られた雪舟が、こぼした涙で床に描いた鼠があまりに見事だった——という逸話の舞台です。秋の紅葉が美しいことでも有名ですが、ここも現役の禅寺で、一般が参加できる定例の坐禅会が設けられているとされます。ただし開催日や対象・予約の要否は変わりうるため、参加を考えるなら事前に寺へ確認してください。

街なかで座る・書く——表町の坐禅と写経

本格的な専門道場は敷居が高い、という人には、市街地で気軽に試せる場もあります。岡山随一の繁華街・表町(おもてちょう)の界隈には、社会人が集う在家(一般の人)向けの坐禅道場があり、平日の夜や週末に、初めての人でも参加できる坐禅の会を開いているとされます。仕事帰りに静かに背筋を伸ばして座る時間は、旅行者にとっても新鮮な岡山体験になります。

手を動かしながら心を整えたいなら、写経もよい選択です。岡山市内の寺のなかには、写経の会を定期的に催すところがあります。一文字ずつ筆を進めるうちに呼吸が深くなり、坐禅とはまた違うかたちで雑念が遠のいていきます。いずれも、開催日時・参加方法・初穂料(料金)は場所ごとに異なり変わりやすいので、出かける前に必ず公式の案内で確かめておきましょう。

静かな時間を過ごすための心得

最後に、岡山で静けさを味わうための実用的なメモを。

  • 座禅会・写経の情報は必ず公式で確認を。 本稿で触れた坐禅や写経の会は、いずれも日程・対象・予約の要否・料金が変わることがあります。「いつでも・誰でも参加できる」と決めてかからず、訪問前に各寺・各施設の公式情報を確かめてください。修行道場は信仰と修行の場でもあるので、見学のマナーを守ることも大切です。
  • 静けさを狙うなら朝。 後楽園も操山も、人の少ない早朝ほど静けさが深まります。開園時刻や日の出の時間に合わせて、一日の早い時間に動くのがおすすめです。
  • 晴れの国の気候を味方に。 岡山は全国的にも雨の少ない地域で、青空の下で静かに過ごせる日が多いのが強み。とはいえ夏の盛りは暑さが厳しいので、屋外で過ごすなら朝夕の涼しい時間を選びましょう。
  • 音と光をひかえめに。 寺の境内でも庭園でも里山でも、静けさは皆で守るものです。会話や撮影は控えめにし、その場の静寂に自分も溶け込むつもりで過ごすと、岡山の「静かな時間」がいっそう深く心に残ります。

にぎやかな名所めぐりとは逆の、座って・眺めて・書いて心を整える岡山。次の旅では、予定をひとつ減らして、ただ静かに過ごす時間を組み込んでみてはいかがでしょうか。

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Written by

鈴木 一郎

グルメジャーナリスト

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