観光・体験
奈良市の花の名所と見頃カレンダー|馬酔木・梅から桜・砂ずりの藤・紫陽花・コスモスまで
万葉のころから花を詠んできた街・奈良
奈良市は奈良盆地の北東部に位置し、東に春日山・若草山、市街を西へ佐保川が流れる、社寺と緑が一体になった街です。緯度は北緯およそ34度半ば。同じ「桜の満開」でも5月上旬の札幌とはひと月以上ずれ、奈良市内ではソメイヨシノが例年3月下旬から4月上旬にピークを迎えます。
この街の花の見どころは整備された公園だけではありません。万葉集に詠まれた花がいまも境内や河畔に咲き継がれ、奈良でしか見られない固有種まである——それが古都の花めぐりの厚みです。以下、奈良市に実在する花の名所を「馬酔木→梅→桜→藤→紫陽花→萩→コスモス→紅葉」と咲く順にたどります。
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2〜4月:鹿も食べない花・馬酔木(アセビ)から
奈良の花暦を語るうえで外せないのが、奈良公園のアセビ(馬酔木)です。壺形の小花が房になって枝先に垂れる常緑樹で、白からほんのり紅を帯びたものまで、例年2月から4月にかけて公園のあちこちで咲きます。
なぜ奈良でアセビなのか。アセビには神経を麻痺させる毒成分が含まれ、鹿はそれを知っていて口にしません(「馬酔木」も、馬が葉を食べると酔ったようになる木の意)。鹿が好む草木を食べ尽くした奈良公園では、鹿が避けるアセビばかりが残って群落をつくりました。万葉集にも詠まれた古い花で、東大寺や興福寺の境内、春日大社へ続くささやきの小径沿いなどで目に留まります。鹿と花の関係がそのまま景観になった、奈良ならではの早春の主役です。
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2〜3月:梅は市東部の月ヶ瀬と公園の片岡梅林で
アセビと相前後して咲くのが梅です。奈良市の梅といえば、市東部の山あいにある国の名勝月ヶ瀬梅渓(つきがせばいけい)。名張川(五月川)がつくる渓谷の斜面に約1万本の紅梅・白梅が植わり、例年2月中旬から3月にかけて谷一面が梅香に包まれます。渓谷を見下ろす梅と川の眺めは関西屈指のスケールで、梅まつりの時期はとりわけ賑わいます。
もっと手軽に楽しむなら、奈良公園・浅茅ヶ原(あさじがはら)の一角にある片岡梅林へ。約250本の梅が例年2月中旬に咲き始め、2月下旬から3月中旬が見頃。鹿の歩く芝地のすぐそばで梅を眺められます。梅は桜より寒さに強く、底冷えする盆地の奈良でも一足早く春を運んでくれます。
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3月下旬〜4月:桜は「リレー咲き」で長く楽しめる
桜の少し前、椿も古都の春を彩ります。高円山の麓・白毫寺(びゃくごうじ)の五色椿(ごしきつばき)は、一本の木に紅・白・絞りの花を咲かせる樹齢約400年の古木で、東大寺開山堂の「糊こぼし」、伝香寺の「散り椿」とあわせて“奈良三名椿”と呼ばれます。見頃は例年3月下旬から4月上旬です。
奈良市の桜は、品種の違いで見頃が一か月近くリレーするのが特徴。核となる奈良公園には、ソメイヨシノ・ヤマザクラ・シダレザクラに加えて後述の奈良固有種まで、約1,700本の桜が植わっています。早咲きの彼岸桜が3月下旬から4月上旬、ヤマザクラとソメイヨシノが4月上旬と順に咲き継ぎ、東に若草山、北西に東大寺大仏殿を望む春日野園地では、芝に憩う鹿と桜並木が同じ画面に収まります。社寺と鹿と桜を一度に楽しめるのは奈良公園ならではの贅沢です。
街なかの花見なら佐保川の桜並木が圧巻です。市中心部を流れる佐保川沿いに、法蓮町あたりから大和郡山市境まで約5kmにわたって約1,000本のソメイヨシノが続き、県内屈指の桜トンネルをつくります。見頃は例年3月下旬から4月上旬。この並木の礎を築いたのは、幕末に奈良奉行を務めた川路聖謨(かわじとしあきら)で、植樹を進めたと伝わる古木は「川路桜」と呼ばれ大切に守られています。奈良県立図書情報館周辺は川と桜並木を一望できるビューポイントで、奈良県の景観資産にも選ばれています。
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4月中旬〜下旬:奈良だけの桜・ナラノヤエザクラ
他都市にはない奈良固有の桜が、ナラノヤエザクラ(奈良八重桜)です。蕾は濃い紅色、開くと小ぶりの花が幾重にも重なって淡い紅から白へ色を変える八重桜で、「いにしへの奈良の都の八重桜」と詠まれた古都の象徴です。
その原木は東大寺の塔頭・知足院(ちそくいん)にあり、大正時代に国の天然記念物「知足院ナラノヤエザクラ」に指定されました。原木は一度枯れたものの再生事業で蘇り、ここから殖やされた木が東大寺・奈良公園・興福寺の一帯に植えられています。ソメイヨシノが散ったあと、例年4月中旬から下旬(年により5月初めごろ)に咲くため、「奈良の桜は遅咲きまで長い」と言われる立役者。ソメイヨシノの花見を逃しても、奈良ならこの固有種でもう一度春を味わえます。
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4月下旬〜5月:春日大社の「砂ずりの藤」
ゴールデンウィークの奈良を彩るのが藤です。藤は春日大社の社紋にもなった花で、その代表が御本社・林檎の庭の砂ずりの藤(すなずりのふじ)。樹齢700年以上と伝わる棚仕立ての古藤で、花房が1m以上に伸び、地面の砂にすれるほど長く垂れることからこの名がつきました。見頃は例年4月下旬から5月初め、ちょうど大型連休のころです。
あわせて訪れたいのが、参道脇の春日大社神苑 萬葉植物園。約20品種・200本もの藤が植わる「藤の園」では、見上げる藤棚ではなく目の高さで花を観賞できる“立ち木造(たちきづくり)”という独特の仕立てが見もので、見頃は例年4月中旬から5月中旬と長く続きます。万葉集の草花を集めた園だけに、藤以外の万葉植物も楽しめます。
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5月下旬〜7月:コスモス寺・般若寺の紫陽花
梅雨どきの奈良を救うのが紫陽花です。市北部の般若寺(はんにゃじ)は、秋のコスモスで「コスモス寺」として知られますが、初夏には境内が紫陽花でも彩られます。見頃は例年5月下旬から7月上旬で、ピークは6月上旬から中旬ごろ。色とりどりの紫陽花をガラスの器に浮かべた「アジサイガラスボール」が境内に並ぶ演出も名物で、観光地の喧噪とは違うしっとりした奈良の表情に出会えます。
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9〜10月:白毫寺の萩と般若寺の秋桜(コスモス)
秋のはじめ、奈良の寺はふたたび花の季節を迎えます。白毫寺では本堂へ続く石段の両側に萩(ハギ)が咲きこぼれ、例年9月下旬から10月上旬が見頃。萩は万葉集でもっとも多く詠まれた花で、古都にふさわしい風情の花散歩が楽しめます。
そして秋の主役が般若寺のコスモス。境内には約15万本ものコスモスが植えられ、秋咲きの株は例年9月ごろから咲き始め、十三重石宝塔を背にゆれる花畑が「コスモス寺」の名にふさわしい光景をつくります。寺と花の取り合わせは奈良ならではの秋景色です。
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10月下旬〜12月上旬:奈良公園を染める紅葉
奈良の花めぐりの締めくくりは紅葉です。奈良公園はナンキンハゼ・イチョウ・モミジなど色づく木の種類が多く、樹種ごとに時期がずれるため、見頃が10月下旬から12月上旬と長く続きます。低地のモミジは例年11月中旬から12月初旬、世界遺産・春日大社周辺のモミジも11月中旬ごろからが見頃です。
とりわけ人気なのが、鷺池(さぎいけ)に浮かぶ浮見堂(うきみどう)。六角の御堂を囲む木々が色づき、水面に映る紅葉と御堂の取り合わせが美しい撮影スポットです。広い芝地を鹿が歩く奈良公園では紅葉と鹿を一緒に眺められるのも古都ならでは。社寺の甍と錦の山並みを背に、奈良の一年の花暦を静かに締めくくれます。
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訪ねる前の実用メモ
見頃はいずれも「例年」の目安で、その年の気候で前後します。とくに桜やコスモス、紅葉は数日で見頃が移ろうため、各名所や奈良市観光協会の開花・色づき情報をこまめに確認するのが失敗しないコツです。般若寺の紫陽花・コスモス期など花期に特別拝観・拝観料が設定される寺社もあり、月ヶ瀬梅渓のように市中心部から離れた名所は交通の便を事前に調べておくと安心。奈良公園一帯は近鉄奈良駅・JR奈良駅から徒歩や市内バスで巡れますが、鹿のいる芝地では花も鹿も静かに見守るのが古都のマナーです。咲く順を追えば、奈良では早春の馬酔木から初冬の紅葉まで、ほぼ一年じゅう花に出会えます。
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