観光・体験
長崎市の花の名所と見頃カレンダー|冬の水仙・椿から春の桜・ツツジ、梅雨のおたくさまで
坂の街・長崎で花を追う前に
長崎市の花めぐりは、ほかの街と少し勝手が違います。九州西端の温暖な海洋性気候のため、桜前線は本州より早く三月下旬には満開を迎え、椿や水仙にいたっては真冬の一月が見頃です。そして長崎半島の先端・野母崎(のもざき)から、港を見下ろす南山手の丘、市街地の中島川沿いまで、花の名所は標高も海との距離もばらばらに散らばっています。同じ長崎市内でも、海辺の野母崎と中心部とでは咲く花も時期も異なる――この「縦に長い半島の街」という地形を頭に入れておくと、花の旅がぐっと組み立てやすくなります。ここでは冬から梅雨へと季節を追いながら、長崎市に実在する花の名所と、その見頃を紹介します。
冬(12月下旬〜2月)──水仙と椿が咲く、日本一西南の花畑
長崎の花の一年は、本州がまだ枯野の真冬に始まります。
野母崎・水仙の丘(のもざき水仙まつり) — 長崎半島の最南端、野母崎にある水仙の丘公園は、いくつかの小山の斜面に膨大な数の水仙が植えられた、長崎を代表する冬の花畑です。見頃は例年十二月下旬から一月中旬。展望所からは目の前の海に浮かぶ世界遺産・端島(軍艦島)を望むことができ、白い水仙の絨毯と無人島のシルエットという、長崎ならではの構図が撮れます。例年この時期に「のもざき水仙まつり」が開かれます。水仙の香りに包まれるこの一帯は、環境省の「かおり風景100選」に長崎県内で唯一選ばれており、視覚だけでなく香りでも冬を感じられるのが特徴です。
権現山展望公園の椿 — 同じ野母崎、標高約二百メートルの権現山(ごんげんやま)の山頂に広がる展望公園は、県内有数の椿の名所です。園内には二百種以上・三百本ほどの園芸品種の椿が植えられ、加えて山一帯には一万数千本のヤブツバキが自生しています。見頃は一月から三月と長く、水仙の季節とも重なるため、野母崎まで足を延ばせば水仙と椿を一日で楽しめます。展望台からは東に天草灘、西に五島灘、そして軍艦島を見渡せ、五島灘に沈む夕日も知られています。市街地からは少し距離があるため、車かバスで向かうのが現実的です。
春の主役・桜(3月下旬〜4月上旬)──本州より一足早く
長崎の桜は早い、というのを覚えておいてください。温暖なため、ソメイヨシノは三月下旬から四月上旬にかけて満開を迎えます。東京や仙台のつもりで四月半ばに訪れると、もう葉桜ということも珍しくありません。
立山公園 — 長崎市内随一の桜の名所がこの立山公園です。市内の公園の中でも桜の本数が多く、ソメイヨシノを中心に数種類、約七百本が植えられています。例年三月下旬から四月上旬が見頃で、この時期に合わせて立山公園桜まつりが開催され、夜にはライトアップ(日没から夜まで)で夜桜も楽しめます。高台にあるため、展望台から桜越しに長崎の街並みを見下ろせるのも魅力です。
長崎公園(諏訪の杜) — 長崎くんちで知られる諏訪神社に隣接する長崎公園は、長崎で最も古い公園とされ、神社の杜と一体になって「諏訪の杜」と呼ばれています。春は桜、続いてツツジが園内を彩ります。園内には無料の「動物ひろば」があり、サルやヤギ、クジャクなどとふれあえるため、家族連れの花見にも向いています。中心市街地から歩いて行ける立地で、観光の合間に立ち寄りやすいのも利点です。
グラバー園でも、旧グラバー住宅の前あたりでソメイヨシノが三月末から四月上旬に花をつけます。
桜のあとのツツジ(4月)──稲佐山を染める八万本
桜が散るころ、長崎の春の主役はツツジへと移ります。
稲佐山公園 — 夜景の名所として全国的に知られる稲佐山は、春にはツツジの名所としての顔を見せます。園内には約八万本ものツツジが植えられ、例年四月に「稲佐山つつじまつり」が開催されます。見頃は四月上旬から下旬で、ゴールデンウィークの頃まで楽しめる年もあります。赤やピンクの花が斜面を覆う光景は壮観で、まつり期間中はハタ(凧)揚げや音楽イベントなども行われます。山頂へはロープウェイやスロープカーで上れ、ツツジと長崎港のパノラマを一度に味わえます。動物とふれあえる広場やドッグランもあり、こちらも家族向けです。
グラバー園の花──季節を問わず花がある丘
長崎観光の定番、南山手の丘に建つグラバー園は、世界遺産・旧グラバー住宅を中心に明治期の洋館が並ぶスポットですが、実は園内のいたるところが花で彩られた、もう一つの「花の名所」でもあります。
旧グラバー住宅前には季節ごとに植え替えられる花壇があり、冬から早春にはパンジーやキンセンカなどが、三月にはチューリップが咲きます。旧グラバー住宅の温室では、創設者グラバーが持ち込んだとされる蘭(ラン)の子孫が、今も三月から四月にかけて花をつけるといいます。さらに後述する六月の紫陽花の頃には園内が紫陽花で飾られ、夜間開園が行われる年もあります。坂を上り下りしながら洋館と港の景色、そして足元の花々を同時に楽しめるのが、この丘ならではの体験です。
梅雨を彩る紫陽花「おたくさ」(6月)──シーボルトと長崎の物語
長崎の梅雨は、紫陽花とともにやってきます。とりわけ長崎では、紫陽花を「おたくさ」という独特の呼び名で親しんできました。
これは江戸時代後期、出島のオランダ商館付き医師として来日した博物学者シーボルトに由来します。彼は日本の紫陽花を学術的に記録し、ヨーロッパへ伝えた人物として知られ、その学名に妻とされる「お滝(おたき)さん」の名にちなんだ「オタクサ(Otaksa)」を用いたと伝えられています(この命名のいきさつには諸説あります)。長崎にとって紫陽花は、街の歴史と深く結びついた特別な花なのです。
ながさき紫陽花(おたくさ)まつり — 例年六月、市内各所を会場に開催される初夏の風物詩です。中島川周辺、出島、グラバー園、そしてシーボルト記念館などに数千株規模の紫陽花が彩りを添えます。眼鏡橋で知られる石造アーチ橋の連なる中島川沿いを、紫陽花を眺めながら歩くのは、この季節の長崎ならではの散歩です。シーボルト記念館では関連の企画展が行われる年もあり、花とあわせて長崎と西洋交流の歴史にも触れられます。雨に濡れた紫陽花と石畳や石橋の取り合わせは、坂と異国情緒の街・長崎によく似合います。
長崎で花を楽しむための実用メモ
長崎市の花めぐりで押さえておきたいのは、温暖ゆえに全体的に時期が早いという点です。桜は三月下旬がピーク、椿と水仙は真冬の一月が見頃、ツツジは四月と、本州の感覚より一テンポ早めに動くと考えてください。
もう一つは移動です。立山公園・長崎公園・稲佐山・グラバー園・中島川は市街地や近郊にあり、路面電車やバス、ロープウェイで回れますが、野母崎の水仙の丘と権現山は半島の先端にあり、市街地から距離があります。野母崎方面はバスの本数も限られるため、車での訪問か、時間に余裕を持った計画が安心です。なお、花菖蒲で有名な大村公園は長崎市ではなく隣接する大村市にありますので、行程を組む際は混同しないようご注意ください。海と坂、そして異国の歴史が同居する長崎で、季節それぞれの花を訪ね歩いてみてください。
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