五島列島の世界遺産教会群
長崎県の西海に浮かぶ五島列島は、世界遺産「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」の構成資産を複数擁する、信仰と自然が交差する特別な島々です。250年以上にわたって禁教下で密かに信仰を守り続けた人々の歴史が、今も静かにこの地に息づいています。
潜伏キリシタンの歴史と世界遺産登録の背景
16世紀、ポルトガル船の来航とともにキリスト教が日本に伝わると、五島列島にも多くの信者が生まれました。しかし江戸幕府による厳しい禁教政策が敷かれると、信者たちは表向きは仏教徒を装いながら、密かに信仰を守り続けました。仏壇の引き出しに隠されたメダイ、マリア観音と呼ばれる聖母像に見立てた仏像——彼らは巧みに信仰の証を日常の中に紛れ込ませ、約250年にわたって命がけで祈り続けました。
1873年(明治6年)にキリスト教が解禁されると、各地の潜伏キリシタンたちは次々と信仰を公言し、教会の建設が始まりました。こうして五島列島各地に建てられた教会群は、2018年にユネスコ世界文化遺産として登録されます。登録名は「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」。五島列島からは頭ヶ島の集落、野崎島の集落跡、久賀島の集落、奈留島の江上集落の4つが構成資産に含まれています。
石造りの異彩——頭ヶ島天主堂
五島列島の教会群のなかでも特に知名度が高いのが、上五島にある頭ヶ島天主堂です。1919年に完成したこの教会は、全国でも非常に珍しい石造りの建築で、すぐ近くの海岸から切り出された砂岩が使われています。地元の信者たちが自ら石を切り出し、長年かけて建設したという経緯があり、その外観は年月を経て独特の風格を帯びています。
堂内に入ると、淡い光が漆喰と石の壁に柔らかく反射し、厳かな静寂が広がります。天井や柱には繊細な草花文様の装飾が施されており、ゴシック様式の佇まいのなかに日本らしいぬくもりを感じることができます。周囲には椿の木が茂り、春には花が咲き誇ります。訪問の際は事前に五島市観光協会または教会への連絡が必要で、団体での見学にはガイドの案内が推奨されています。
離島の奥地に佇む——江上天主堂と旧五輪教会堂
奈留島の山間にひっそりと建つ江上天主堂は、1918年竣工のコロニアル・ゴシック様式の木造建築です。青と白のパステルカラーの外観が周囲の緑と調和し、多くの写真家やデザイナーからも注目を集めています。集落から離れた丘の上に立つ姿は、まるで絵本の中の一場面のよう。礼拝堂内部の色ガラスから差し込む柔らかな光は、訪れる者の心を静かに揺さぶります。
一方、久賀島に移築保存されている旧五輪教会堂は、1881年に建てられた現存する最古級の木造教会のひとつです。もともとは別の場所に建てられていたものを解体・移築したもので、明治初期の素朴な木造建築の様式をそのまま今に伝えています。周囲には五輪の集落跡が残り、かつての潜伏キリシタンの生活の営みを想像しながら歩くことができます。船でしかアクセスできない立地が、この場所に特別な孤高の美しさを与えています。
季節ごとの楽しみ方
春(3〜5月)は、椿や菜の花が咲き乱れる中で教会巡りを楽しめる最良の季節です。頭ヶ島天主堂周辺の椿の林は特に美しく、緑と赤のコントラストが石造りの外壁と相まって印象的な景観を作り出します。
夏(6〜8月)は五島列島の海が最も輝く季節。透明度の高いエメラルドグリーンの海でのシュノーケリングやダイビングと組み合わせた旅程が人気です。教会巡りと海水浴を一度に楽しめるのは、五島ならではの醍醐味です。
秋(9〜11月)は観光客が落ち着き、比較的ゆっくりと教会を見学できる穴場の時期。秋晴れの日に澄んだ空気の中で眺める教会の姿は格別です。
冬(12〜2月)は五島列島の椿が見頃を迎えます。島のいたるところで咲き誇る椿を愛でながら、静寂の中で祈りの歴史に想いを馳せる旅は、喧騒を離れたい旅人に特におすすめです。
アクセスと周辺情報
五島列島へのアクセスは、長崎港からのフェリーまたは高速船が主要な手段です。福江島(五島市)へは長崎港から高速船で約1時間30分、フェリーで約3時間30分。上五島(新上五島町)へは長崎港から高速船で約1時間40分ほどかかります。また、長崎空港から福江空港への飛行機(約30分)も就航しており、時間を節約したい方に便利です。
島内の移動はレンタカーが最も効率的です。各島に複数のレンタカー会社があり、港近くで借りることができます。ただし久賀島や野崎島など離島の教会へはさらに船での移動が必要なため、事前に各島へのフェリー時刻を確認しておくことが重要です。
宿泊は福江島に旅館・民宿・ホテルが集中しており、新鮮な魚介料理を楽しめる宿が揃っています。五島うどんや五島牛など、島ならではのグルメも旅の楽しみのひとつ。教会巡りの前後には、ぜひ地元の食文化にも触れてみてください。
教会を訪れる際は、現役の礼拝施設であることを忘れないことが大切です。見学時間や立入制限は教会ごとに異なり、ミサの時間帯は見学不可となる場合があります。五島市観光協会のウェブサイトや現地の案内に従い、信者の方々への敬意を忘れずに訪問しましょう。
アクセス
長崎港からジェットフォイルで約85分
営業時間
見学は要事前連絡
料金目安
フェリー往復6,000円〜
施設の特徴
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