観光・体験
盛岡まち歩きガイド——城跡・中津川・町家をつなぐ城下町散歩
盛岡は「歩いて回れる城下町」
盛岡は、街の中心に城跡があり、その足元を清流が流れる、徒歩散策のために生まれたような街です。2023年、ニューヨーク・タイムズの「世界で行くべき52カ所」でロンドンに次ぐ2番目に選ばれた際の評価も、「東京から短時間で行け、人混みを避けて歩いて回れる」点にありました。
地形を頭に入れておくと歩きやすくなります。市街地の西を北上川が流れ、そこに南からの雫石川、東からの中津川が合流します。盛岡城跡はちょうど北上川と中津川に挟まれた丘陵に築かれており、晴れた日には街のあちこちから北に岩手山の姿を望めます。主な見どころは盛岡駅から徒歩圏に収まっているので、地下鉄もない街ですが、一日あれば自分の足で城跡・河畔・町家・近代建築をひと続きに巡れます。
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中津川の河畔——清流と石垣、三つの橋
最初の軸は、街の真ん中を流れる中津川沿いの散策です。盛岡駅から南へ歩くと、約15分で盛岡城跡公園(岩手公園)に着きます。天守は残っていませんが、地元産の花崗岩を緻密に積み上げた石垣が良好に残り、城下町の風格を今に伝えています。本丸・二の丸跡をめぐる園内の小道は起伏もゆるやかで、ベンチも多く、散歩の中継地点にちょうどよい場所です。
公園の東側を流れるのが中津川。北上川との合流点から上流へ向かって中津川散策路が整備され、水底が見えるほどの清流が街なかを貫きます。秋には鮭が遡上し、岸辺には初夏のワスレナグサや梅雨どきのカキツバタなど、季節の野花が彩りを添えます。
この川に架かるのが、下流から下の橋・中の橋・上の橋の三つ。なかでも上の橋は1609年(慶長14年)、盛岡城築城とともに架けられた古橋で、欄干に青銅製の擬宝珠(ぎぼし)が18個残ります。製作年代の古さと残存数の多さでは全国でも稀とされ、橋そのものが文化財です。城跡公園から上の橋までは川沿いにゆっくり歩いて10分ほど。水音を聞きながら橋から橋へとたどるだけで、城下町の骨格が体に入ってきます。
城下町の路地と湧き水——紺屋町から鉈屋町へ
中の橋の東詰から北へ延びるのが紺屋町(こんやちょう)です。江戸期から続く商家、明治の洋風建築、そして盛岡の伝統工芸南部鉄器を扱う老舗の工房が、川沿いの一角に静かに並びます。派手な観光地ではありませんが、看板や蔵の意匠を眺めながら歩く時間そのものが楽しいエリアです。
そこから南へ足を延ばすと、城跡公園から徒歩20分ほどで鉈屋町(なたやちょう)に入ります。鉈屋町は、間口が狭く奥に深い「盛岡町家」が数多く残る一帯で、生活の匂いの残るクラシカルな町並みが続きます。ここで必ず立ち寄りたいのが大慈清水(だいじしみず)と青龍水(せいりゅうすい)。藩政時代から使われてきた共同井戸で、平成の名水百選にも選ばれた湧き水です。水槽は雛壇状に四つに区切られ、一番目が飲み水、二番目が米とぎ、三番目が洗い物、四番目が足洗いと用途が決められ、今も地元の組合が清掃して生活用水に使っています。大慈清水から青龍水までは歩いて3分ほど。近くには宰相・原敬の墓所がある大慈寺も控えます。
近代建築と文学の散歩道
城下町と並ぶ盛岡散歩のもう一つの主役が、大正・明治の近代建築です。中の橋のたもとに建つ岩手銀行赤レンガ館(旧盛岡銀行本店本館)は、1911年(明治44年)竣工。東京駅を手がけた辰野金吾と盛岡出身の葛西萬司が設計した、東北地方に残る辰野金吾唯一の作品です。赤レンガに花崗岩の白い帯を巡らせ、銅板葺きのドームを戴いた姿は、まさに「レトロな街・盛岡」の象徴。2012年まで現役の銀行として使われ、2016年から内部を公開する多目的施設として生まれ変わりました。
近くには、旧第九十銀行本店本館を活用したもりおか啄木・賢治青春館もあり、石川啄木と宮沢賢治というこの街にゆかりの深い二人の青春を伝えています。盛岡駅寄りの中央通には、啄木が妻・節子との新婚生活を送った啄木新婚の家が残ります。駅から徒歩10分ほど、わずか1か月暮らした四畳半は、随筆『我が四畳半』にも描かれた文学散歩の小さな目的地です。
材木町よ市と賢治の「いーはとーぶ」
盛岡駅の北上川を渡った西側、材木町(ざいもくちょう)の商店街は、宮沢賢治の理想郷にちなんで「いーはとーぶアベニュー」と名づけられています。通り沿いには賢治のモニュメントや、空をあおぐ宮沢賢治像が点在し、賢治の足跡を拾いながら歩けます。
この全長430メートルの通りが、4月から11月までの毎週土曜、夕方になると歩行者天国の朝市ならぬ「材木町よ市(よいち)」に変わります。新鮮な野菜や果物、漬物に加え、地酒や地元クラフトビールの屋台も並び、買い物客と観光客でにぎわう週末の名物。タイミングが合えば、散歩の締めくくりにこの祭りのような空間をのぞいてみてください。
三つの川と岩手山——眺めと盛岡の味
盛岡の眺望を語るうえで外せないのが、北上川に架かる白い開運橋です。盛岡駅と街なかをつなぐこの橋は「二度泣き橋」とも呼ばれ、転勤で来た人が遠さに泣き、去るときは名残惜しさに泣く——という言い伝えで知られます。駅から大通り方面へ橋を渡るとき、北上川の流れの向こうに岩手山がそびえる構図は、盛岡らしさが一枚に凝縮された風景です。
歩き疲れたら、盛岡が誇る麺の文化で力をつけるのもよいでしょう。小さな椀を次々と重ねるわんこそば、コシの強い麺と冷たいスープの盛岡冷麺、肉味噌をからめて食べるじゃじゃ麺——いわゆる「盛岡三大麺」は、いずれも一食あたり手ごろな相場で味わえます。店ごとに作法も味も異なるので、好みの一杯を探すのも街歩きの楽しみです。
歩くときの実用メモ
散策の中心は中津川の左右と紺屋町・鉈屋町で、いずれも盛岡駅から南へ徒歩15〜25分圏。駅→城跡公園→中の橋(赤レンガ館)→紺屋町→鉈屋町と南下し、川沿いに戻る半日コースが組みやすい動線です。
- 季節:中津川の鮭の遡上は秋、岸辺の花は初夏が見ごろ。冬は岩手山が雪をかぶり、開運橋からの眺めが一段と映えます。
- 材木町よ市:開催は4月〜11月の土曜の夕方のみ。曜日と季節が限られるので、訪問日を合わせると満足度が上がります。
- 足もと:城跡の石垣周りや町家の路地は石畳・坂が混じります。歩きやすい靴が安心です。
- 湧き水:大慈清水・青龍水は地元の生活用水。見学やひと口の体験は歓迎されていますが、洗い物の区分など使い方のルールを守って静かに楽しみましょう。
城跡の石垣、橋の擬宝珠、町家の湧き水、赤レンガのドーム、そして川の向こうの岩手山。盛岡は、歩く速度でこそ味わいが深まる街です。地図を片手に、自分だけの散歩道を描いてみてください。
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