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横浜で心を整える──大本山總持寺と名園三溪園、里山でめぐる静寂のリトリート
港町のにぎわいの裏にある、横浜の静けさ
横浜と聞けば、みなとみらいの夜景や中華街のにぎわい、関内・野毛の盛り場を思い浮かべる人が多いはずです。けれど同じ市内には、曹洞宗の大本山がどっしりと根を下ろし、ひとりの茶人がつくり上げた名園が、時を止めたように残っています。歩いて見て回る観光から少し離れ、ひとつの場所に留まり、坐り、呼吸を整える──そんな「動かない一日」を過ごせるのが、横浜のもうひとつの顔です。ここでは港町のにぎやかなイメージとは別の、静寂と内省のための横浜をご案内します。
曹洞宗大本山・總持寺で、ただ坐る
横浜の禅を語るうえで欠かせないのが、鶴見区にある曹洞宗大本山・總持寺(そうじじ)です。福井の永平寺と並ぶ曹洞宗の二大本山のひとつで、明治期の火災を機に、能登(石川県)からこの地へ移されました。曹洞の禅は、悟りを求めて何かを足していくのではなく、ただひたすらに坐る「只管打坐(しかんたざ)」を旨とします。JR鶴見駅から歩いてほどなく、街道沿いの三松関をくぐると、およそ十五万坪ともいわれる広大な境内が一気に視界を開きます。緑が深く、都心の隣とは思えない静けさに包まれた一帯です。
巨大な三門や、雲水が日々の勤めを営む伽藍を眺めながら参道をゆっくり歩くだけでも、気持ちが整っていきます。境内は基本的に自由に拝観でき、より深く知りたい人のために、僧侶が諸堂を案内する拝観も用意されています。ここは見るための観光寺ではなく、今も修行僧が暮らす現役の道場です。境内には精進料理をいただける場もあり、一椀の食事に静かに向き合うこともまた、禅の実践のひとつ。私語を慎み、足を止めて伽藍と向き合うほどに、横浜の喧騒がすっと遠のいていきます。
名園・三溪園で、時間を手放す
本牧の高台に広がる三溪園(さんけいえん)は、生糸貿易で財をなした実業家にして茶人・原三溪が、明治三十九年(一九〇六年)に開いた日本庭園です。十八万平方メートルに及ぶ園内には、紀州徳川家ゆかりの別荘建築臨春閣や、京都から移された聴秋閣、池ごしに端正な姿を映す旧燈明寺三重塔など、重要文化財の建物が静かに点在します。内苑には原三溪の旧宅・鶴翔閣も残ります。ここは歩き尽くす庭ではなく、池のほとりにそっと腰を下ろし、水面と木立、移ろう光をただ眺めるための庭です。
三溪が茶の湯を愛したように、園内には茶を喫する場が設けられ、季節の和菓子とともに一服の抹茶を味わえます。湯気の立つ碗を両手で包み、鳥の声と風の音だけを聞いていると、頭のなかのざわめきが少しずつ静まっていくはずです。雨に煙る池、霧の朝、雪の重なる三重塔──季節ごとに表情を変える静けさは、何度訪れても飽きることがありません。最寄りはJR根岸駅で、駅前からバスで十分ほど。みなとみらいの華やぎとは正反対の、止まった時間がここにあります。
横浜の里山で、何もしない時間を過ごす
寺や庭だけでなく、横浜には腰を据えて自然に還れる場所がいくつもあります。中区の根岸森林公園は、日本で初めての洋式競馬場の跡地につくられた、起伏のある広い芝生の公園です。平日はほとんど人影がなく、大きな空の下でただ寝転ぶだけの贅沢が許されます。緑区と旭区にまたがる県立四季の森公園は、雑木林や水田、ホタルの舞う湿地が残る里山そのもの。木陰のベンチに座って葉ずれの音に耳を澄ませば、こわばった心がゆっくりほどけていきます。旭区のこども自然公園も、江戸期の灌漑池だった大池を囲む丘陵に深い森が残り、奥へ入るほど人の声が遠ざかります。
これらの場所では、距離やタイムを競って歩く必要はありません。むしろ歩みを止め、目を閉じ、自分の呼吸だけに意識を向ける。鳥の声、水のにおい、足裏に伝わる土の感触に身をひらき、ただ「在る」時間に委ねる──それが、静けさを求めて横浜の里山を訪ねる人の過ごし方です。
静かに過ごす心づもりと、鎌倉への一足
總持寺をはじめ、横浜やその周辺の禅寺では、一般の人も参加できる坐禅会(参禅会)や写経会が開かれることで知られています。ただし開催の有無や日時、参加方法、納める志納の額は時期によって変わるため、出かける前に必ず各寺の公式サイトで確かめてください。当日は私語を控え、携帯電話の電源を切り、案内役の指示に従って静かに振る舞うのが基本の作法です。背筋を伸ばして坐り、ただ呼吸を数えるだけのひとときが、思いのほか深く心を鎮めてくれます。
さらに本格的な禅に触れたいなら、横浜から電車でおよそ二十五〜三十分の鎌倉まで足を延ばすのも一案です。北鎌倉駅のすぐそばには臨済宗大本山の円覚寺が、少し歩いた先には建長寺が静かな伽藍を構え、いずれも一般向けの坐禅会で知られています(こちらも日程・参加方法は各寺で要確認)。横浜の街なかで静寂に浸り、心が向けば古都の禅へ。にぎわいの港町には、坐って自分と向き合うための一日も、たしかに用意されています。
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