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黄檗禅と異国の祈りの街・長崎で心を整える——唐寺・寺町・自然をめぐるリトリート案内
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黄檗禅と異国の祈りの街・長崎で心を整える——唐寺・寺町・自然をめぐるリトリート案内

異国の祈りが交わる街で、静けさを取り戻す

長崎は、中国から渡ってきた黄檗(おうばく)禅、南蛮の教会、港町の喧騒が幾層にも重なる街です。だからこそ、その奥にひっそりと息づく「静けさ」は格別に深く感じられます。観光の高揚から少し離れ、唐寺(とうでら)の境内に座り、石畳の坂道を黙って歩き、山と海に抱かれて深呼吸する——長崎には、心を内側へ向け直す時間が驚くほど豊かに眠っています。にぎやかな名所を巡ったあとの一日を、あえて「整える」ことに充ててみてください。

黄檗禅のふるさと——長崎四福寺をめぐる

長崎の瞑想・リトリートの核は、唐寺と呼ばれる中国様式の禅寺群です。なかでも興福寺(こうふくじ)は、1620年創建の日本最古の唐寺で、日本黄檗宗発祥の地。朱塗りの山門から「あか寺」とも呼ばれ、のちに来日した隠元(いんげん)禅師が住職を務めました。隠元はここから煎茶や精進料理、インゲン豆までを日本へ伝えた人物です。

崇福寺(そうふくじ)は、竜宮城を思わせる朱色の三門(龍宮門)と、国宝・大雄宝殿(だいゆうほうでん)で知られる聖寿山の禅刹。大雄宝殿は1646年の建立で長崎市最古の建造物とされ、アーチ状の「黄檗天井」など、和の寺院にはない異国の意匠に満ちています。大雄宝殿とともに第一峰門も国宝で、中国で刻んだ部材を船で運んで組み立てたと伝わり、海を越えてきた祈りの厚みが境内の空気に染み込んでいます。

このほか、廃材の瓦を積み上げた「瓦壁」と長崎最大の梵鐘で知られる聖福寺(しょうふくじ)、亀の台座に立つ長崎観音と日本最大級のフーコーの振り子を擁する福済寺(ふくさいじ)を加えて、四福寺と総称されます。いずれも観光地の賑わいとは別の、張りつめた静けさをたたえています。

寺町通り——石畳と禅寺が連なる内省の小道

四福寺の多くが集まる寺町(てらまち)通りは、1600年代創建の寺が石畳沿いに軒を連ねる一帯です。とりわけ晧台寺(こうたいじ)から禅林寺にかけては、石塀と石段、まっすぐに続く参道が静粛な空気をたたえ、歩くだけで呼吸が深くなるよう。観光名所を「見て回る」散策とは違い、ここは自分の足音に耳を澄ませながら「歩く瞑想」を試すのにうってつけです。坂の街・長崎らしい上り下りも、頭を空にする助けになります。

座禅・写経を望むなら(開催は各寺で要確認)

黄檗禅の本場だけに、座禅や写経を体験したいと考える方も多いはずです。ただし、一般向けの座禅会・写経会の開催の有無や日時、参加費は寺や時期によって異なり、常時受け付けているとは限りません。参加を希望する場合は、必ず各寺の公式情報で事前に確認・予約してください。形式ばった会に加わらずとも、拝観料(目安として数百円程度の寺が多い)を納めて境内の一角に静かに腰を下ろし、線香の香りのなかで数分間ただ呼吸を数えるだけでも、立派な瞑想の時間になります。

隠元がもたらした味で整える——煎茶と精進の食

長崎の「整える」体験は、食にも及びます。隠元禅師が日本へ伝えたとされる煎茶は、急須でゆっくり淹れて静かに喫する所作そのものが瞑想に近いもの。中国風の精進料理である普茶(ふちゃ)料理も隠元ゆかりの食文化で、一つの卓を囲んで野菜中心の品をいただきます。提供する店や寺は限られ予約制のことが多いので、こちらも事前確認を。特定の店に頼らずとも、長崎の喫茶や甘味処で一服し、卓袱(しっぽく)に通じる異国情緒の食を軽くつまむだけでも、心身はほどけていきます。価格はいずれも一般的な相場の範囲で見ておけば十分です。

山と海に抱かれる自然リトリート

寺を離れたら、長崎を取り囲む山と海へ。標高333メートルの稲佐山(いなさやま)は、ロープウェイで山頂へ上がれば、すり鉢状に広がる長崎市街と港、晴れた日には雲仙・天草・五島列島までが一望できます。夜景で名高い山ですが、人の少ない日中に風を受けながら街を見下ろす時間こそ、思考をリセットするのに向いています。

街の東側、標高約152メートルの風頭(かざがしら)公園もおすすめです。春は桜、初夏には数千本のあじさいが斜面を彩り、長崎港を見晴らす芝生でただ座っているだけで満ち足ります。観光の主役ではないぶん、静かに自分と向き合う時間が流れます。市街の南側、長崎港を正面に望む高台の鍋冠山(なべかんむりやま)公園も、稲佐山より人が少なく、ベンチに腰掛けて港を眺めるだけの時間が似合う穴場です。

静かな長崎時間を過ごすために(実用メモ)

唐寺めぐりは、人出の少ない午前中が断然おすすめです。崇福寺へは路面電車の「正覚寺下」電停からすぐ、寺町一帯も電停から徒歩圏で、坂道を含めて歩きやすい靴が安心です。拝観時間や拝観料、座禅・写経・普茶料理の受け付けは寺ごとに異なるため、訪問前に必ず公式情報を確認しましょう。境内では私語を控え、撮影可否の表示に従うのが最低限のマナーです。にぎやかな観光の一日に、唐寺の静けさと山の風をひとさじ加えるだけで、長崎の旅はぐっと深い記憶に変わります。

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Written by

松本 海斗

スポーツインストラクター

日本刀×日本文化体験

観光スポットと刀剣文化をつなぐ多言語展開。