
山口県山口市、緑豊かな香山公園の一角に、室町時代の栄華をそのまま閉じ込めたような五重塔がそびえる。国宝・瑠璃光寺五重塔は、法隆寺・醍醐寺の五重塔とならぶ「日本三名塔」のひとつとして広く知られ、訪れる人々に時代を超えた感動を与え続けている。
大内氏の栄華が生んだ国宝の塔
山口市がかつて「西の京」と呼ばれたことをご存じだろうか。室町時代、中国地方を中心に勢力を誇った大内氏は、京都の文化を積極的に取り入れ、山口の地に独自の文化圏を形成した。その最盛期には公家や文人、海外との交易商人まで集まり、京都にも引けをとらない繁栄を誇ったという。
瑠璃光寺五重塔は、そんな大内文化の精華として生まれた建築物だ。大内氏26代当主・大内義弘が応永6年(1399年)に没した後、その菩提を弔うために建立が進められ、嘉吉2年(1442年)頃に現在の姿が完成したとされる。塔が建てられたのは当初、大内氏の氏寺である香積寺の境内であり、その後、薬師如来を本尊とする瑠璃光寺がこの地に移されたことで、現在の名称が定着した。室町時代という遠い時代の権力者が、後世への祈りを込めて建てた塔が、600年近い歳月を経て今もなお完全な姿をとどめているという事実は、それ自体が奇跡といえる。
五重塔の建築美と見どころ
高さ約31.2メートルの五重塔は、均整のとれた美しいシルエットが特徴だ。室町時代中期の和様建築の粋を集めたこの塔は、各層の屋根が緩やかに広がり、上層に向かってバランスよく逓減していく様が、見る者に安定感と優美さを同時に感じさせる。
特筆すべきは、その柔らかな曲線美だ。屋根の反りと軒の出具合が絶妙なハーモニーを生み出しており、日本の木造建築が到達した美の極致ともいわれる。法隆寺や醍醐寺の五重塔と比較しながら鑑賞すると、各時代・各地域の建築的個性がより鮮明に浮かび上がる。
塔の正面に広がる池は、その存在をさらに引き立てる舞台装置となっている。水面に映る逆さ五重塔は、晴れた日には空の青と新緑の緑とともに写し出され、訪れた人々のカメラを一斉に向けさせる絶好の構図を提供してくれる。早朝、水面が風でほとんど揺れない時間帯には、まるで静止画のように完璧な左右対称の映り込みを見ることができる。
香山公園と周辺の見どころ
五重塔が建つ香山公園は、塔だけを楽しむ場所ではない。境内には瑠璃光寺の本堂や書院庭園が配され、落ち着いた雰囲気の中を散策できる。書院からは日本庭園越しに五重塔を望むことができ、室内と庭と塔が重なり合う和の風景は格別だ。
公園内には大内弘世(ひろよ)の銅像も立てられており、大内氏と山口の歴史に思いをはせる場所ともなっている。また、公園周辺には山口市のもうひとつの顔ともいえる史跡が点在する。近くには大内氏の館跡や、雪舟が築いたとされる庭園(常栄寺雪舟庭)も残っており、半日から一日かけてめぐる「大内文化の旅」を組み立てることができる。
季節ごとの楽しみ方
香山公園は四季それぞれに異なる表情を見せる。
春(3月下旬〜4月上旬)は、公園内の桜が一斉に咲き誇り、五重塔と桜の競演が楽しめる。ピンク色の花びらを纏った塔の姿は、山口を代表する春の絶景として多くのカメラマンや観光客を引きつける。
初夏(6月)には、境内を彩る花菖蒲が見頃を迎える。紫や白の花が咲き乱れる中に立つ五重塔は、春とはまた異なる静謐な美しさを放つ。梅雨の雨の日には、しっとりと濡れた石畳と緑の苔が塔の荘厳さをより一層引き立てる。
秋(11月)は紅葉の季節だ。園内の木々が赤や黄に染まり、朱色に近い五重塔との色彩のコントラストが美しい。夕暮れ時には塔にライトアップが施されることもあり、幻想的な雰囲気に包まれる。
冬は観光客が減り、比較的ゆっくりと見学できる。雪が積もった日には、白一色の静寂の中に五重塔が浮かび上がる光景が見られることもあり、この季節ならではの特別な体験となる。
アクセスと周辺の観光情報
瑠璃光寺へのアクセスは、JR山口線「山口駅」からバスを利用するのが一般的だ。山口駅からは防長交通のバスで約10分、「瑠璃光寺前」バス停で下車する。車の場合は中国自動車道「山口IC」から約20分で、香山公園に専用駐車場が整備されている。
山口市内には他にも見どころが多い。国宝・瑠璃光寺五重塔をメインに据えつつ、近隣の常栄寺雪舟庭(国指定史跡・名勝)や、大内氏館跡の龍福寺なども合わせてめぐれば、大内文化の厚みをより深く体感できる。また、山口市の中心部には山口県立美術館もあり、地域の歴史や文化を多角的に学べる環境が整っている。
見学時間は、ゆっくり歩いて境内全体をめぐると1時間前後が目安となる。入場料は大人300円(2024年時点)とリーズナブルで、子ども連れの家族から歴史好きのシニア層まで幅広く楽しめるスポットだ。訪問の際は、五重塔の池越しの景観が最も美しく見える早朝か夕方を狙って訪れると、より印象深い旅の一ページになるだろう。「西の京」山口が生んだ国宝の塔は、一度訪れると必ずまた帰りたくなる、そんな不思議な引力を持った場所である。
交通
山口県山口市内、最寄り駅またはバス停からアクセス
營業時間
9:00〜17:00
預算
300〜600円