群馬県渋川市に位置する伊香保温泉は、関東を代表する温泉地として長い歴史を誇ります。温泉街のシンボルである365段の石段を中心に、老舗旅館や土産物店、飲食店が軒を連ね、山あいの情緒ある風景の中で湯と旅の文化が今も息づいています。
万葉の時代から続く歴史と文化
伊香保温泉の歴史は非常に古く、奈良時代に編纂された『万葉集』にもその名が登場します。歌人・山部赤人が詠んだ歌に「伊香保嶺に降り置く雪の」という一節があり、当時からこの地が広く知られていたことがわかります。戦国時代には、上杉謙信が傷ついた兵を湯治させたという記録も残っており、名湯としての評判は時代を超えて受け継がれてきました。
明治・大正期には文人墨客に愛された地としても知られています。徳冨蘆花の名作『不如帰(ほととぎす)』の舞台としても描かれ、竹田出雲ら文人が滞在した宿の面影が今も温泉街のそこかしこに残ります。また、画家・竹久夢二もたびたび伊香保を訪れており、この地に「少年山荘」を構えていたことでも有名です。渋川市伊香保町には竹久夢二伊香保記念館があり、夢二の作品と伊香保への深い縁を伝えています。こうした文化的蓄積が、伊香保温泉に独特の風格と奥行きを与えています。
365段の石段街——温泉地のシンボル
伊香保温泉の象徴といえば、温泉街の中央を貫く石段街です。その段数は365段で、一年365日を表しているといわれています。石段の両脇には射的場、みやげもの店、足湯、飲食店、旅館などが立ち並び、歩くだけで温泉地の雰囲気を存分に味わえます。石畳の路地を歩きながら、湯けむりが漂う風景を眺める体験は、ほかの温泉地にはない伊香保ならではの魅力です。
石段の最上部には、伊香保神社が鎮座しています。縁結びの神様として知られており、カップルや家族連れが多く参拝します。石段を一段一段上りながら神社を目指すその道のりは、温泉旅の締めくくりにふさわしい清々しさがあります。石段沿いでは、温泉まんじゅうや地酒など地元グルメも手軽に楽しめ、食べ歩きしながらの散策も観光客に人気です。石段を全部上りきった達成感とともに、温泉街の眺望を楽しむひとときは格別です。
二種類の泉質が誇る「名湯」の実力
伊香保温泉が全国的に知られる大きな理由のひとつが、その泉質の豊かさです。伊香保には「黄金の湯」と「白銀の湯」という二種類の源泉があります。
黄金の湯は、鉄分を豊富に含む茶褐色のお湯で、空気に触れると酸化して独特の色が生まれます。泉質は含鉄・ナトリウム・カルシウム硫酸塩・炭酸水素塩温泉で、神経痛や筋肉痛、慢性消化器病などへの効能が知られています。長年「美肌の湯」として評判を集めており、湯治目的で訪れる人も少なくありません。一方の白銀の湯は、無色透明でさらりとした肌触りが特徴のメタケイ酸を多く含む温泉です。肌への刺激が少なく、敏感肌の方にも入りやすい泉質として親しまれています。
両源泉を楽しめる日帰り入浴施設も充実しており、泊まりの旅行だけでなく、気軽な日帰り湯めぐりにも対応しています。石段沿いには無料の足湯スポットもあり、散策の合間に足を浸しながら一息つくことができます。
四季折々の表情——いつ訪れても楽しめる温泉地
伊香保温泉は、季節ごとに異なる表情を見せてくれる場所です。
春(3月〜5月)は、温泉街周辺に桜が咲き、春の陽光の中で石段散策が楽しめます。近くの榛名湖畔でも桜の名所があり、春の群馬ドライブと組み合わせた旅が人気です。
夏(6月〜8月)は、涼しい山の気候が訪問者に歓迎されます。標高700m前後の高地にあるため、関東平野の猛暑を避けながら避暑と温泉の両方を楽しめます。緑が深まる季節に湯に浸かる時間は格別の心地よさがあります。
秋(9月〜11月)は、温泉地に隣接する山々が紅葉に染まる絶景の季節です。石段からの眺めに赤や黄色のグラデーションが加わり、温泉情緒が一層高まります。秋の伊香保は写真愛好家にも大変人気があり、週末には多くの観光客でにぎわいます。
冬(12月〜2月)は、雪景色の中で湯けむりが立ち込める伊香保の風景が特に風情豊かです。石段に雪が積もった光景は、温泉地ならではの冬の情緒を満喫させてくれます。旅館の露天風呂から眺める雪景色は、温泉旅の醍醐味のひとつです。
周辺観光——榛名山・榛名湖と歴史スポット
伊香保温泉を拠点に、周辺の観光スポットを巡るのもおすすめです。車で30分ほどの距離にある榛名山・榛名湖は、群馬を代表する景勝地です。榛名湖は標高1,084mのカルデラ湖で、湖畔からの榛名富士の眺めが美しく、四季を通じて多くの観光客が訪れます。ボートや乗馬体験など、アウトドアアクティビティも楽しめます。
また、伊香保温泉周辺には竹久夢二伊香保記念館のほか、石段の途中に位置する伊香保露天風呂(源泉かけ流しの外湯)なども観光スポットとして人気があります。温泉街からほど近いところにある「伊香保グリーン牧場」では、広大な草原でシープドッグショーや乗馬体験、ジンギスカン料理などが楽しめ、ファミリー旅行にも最適です。
アクセスと旅のヒント
伊香保温泉へのアクセスは、公共交通機関と車のいずれも便利です。電車を利用する場合は、JR上越新幹線・上越線で高崎駅へ向かい、そこからJR吾妻線に乗り換えて渋川駅へ。渋川駅からは関越交通バスが伊香保温泉まで運行しており、バスで約25分で到着します。東京からの所要時間は乗り換えを含めておよそ2時間程度です。
車の場合は、関越自動車道の渋川伊香保ICから約15分とアクセスしやすく、週末を中心に多くのドライブ観光客が訪れます。温泉街には複数の駐車場が整備されています。
旅行のタイミングとしては、紅葉シーズン(10月中旬〜11月上旬)や春の連休は混雑が予想されるため、平日や早めの時間帯の到着がおすすめです。温泉宿は旅館から民宿まで幅広い価格帯があり、日帰り入浴も充実しているため、宿泊・日帰りどちらのスタイルでも満足のいく旅が実現できます。
交通
群馬県渋川市内、最寄り駅またはバス停からアクセス
營業時間
10:00〜21:00
預算
500〜1,500円