北海道・美瑛町の丘陵地帯に、一本のポプラの木が静かにそびえ立っている。その名は「ケンとメリーの木」。半世紀以上前のテレビCMがきっかけで全国にその名が知られるようになり、今も多くの旅人が足を運ぶ美瑛を代表する景観のひとつだ。
CMが生んだ伝説の木
1972年、日産自動車のスカイラインのテレビCMに「ケンとメリー」というカップルが登場した。若い二人が北海道の雄大な自然の中をドライブするそのシリーズCMは、当時の日本で爆発的な人気を博し、「ケンとメリーのスカイライン」という愛称とともに広く親しまれた。CMの中でこのポプラの木は印象的なシーンに登場し、そのロケ地を訪れようと全国からファンが美瑛を訪れるようになった。
CMが放映されたのは50年以上前のことだが、「ケンとメリーの木」という名前はいまも色あせることなく受け継がれている。名前の由来となったカップルのイメージそのままに、広大な農地の中にすっくと立つポプラの姿は、訪れる人の心に何とも言えない郷愁と感動をもたらす。北海道の観光地として語られるとき、この木の名が挙がるのはそのためだろう。
丘の上に立つ一本のポプラ
「ケンとメリーの木」は、美瑛町のパッチワークの路と呼ばれるエリアに位置している。なだらかな丘が波のように連なり、小麦・じゃがいも・ビートなどの畑が季節ごとに色を変えるこの地帯は、北海道の農村景観の美しさを余すところなく体現している。そのなかでひと際目を引くのが、高さ約28メートルに達するというポプラの大木だ。
周囲に遮るものが少ないため、どの方向から眺めても空との対比が際立ち、凛とした存在感を放っている。晴れた日には青空をバックに緑の葉が揺れ、曇りの日には灰色の雲を背景に黒いシルエットが浮かび上がる。天気や光の具合によって表情を変えるその姿は、何度訪れても飽きることがない。なお、木が立つ土地は私有地の農地であるため、木のすぐ近くまで立ち入ることはできないが、道路沿いからでも十分に全体像を鑑賞できる。
四季それぞれの表情
美瑛の丘は季節ごとに劇的に姿を変え、「ケンとメリーの木」も例外ではない。
**春(4〜5月)**は、雪解けとともに大地が少しずつ緑を取り戻す季節だ。畑に作物が芽吹き始め、ポプラの枝にも新緑が萌える。冬の静寂から解き放たれたような清々しい空気の中で眺める木の姿は、再生と希望を感じさせる。
**夏(6〜8月)**は美瑛観光のベストシーズン。ラベンダーやひまわりが咲き乱れ、青空と緑の丘のコントラストが最も鮮やかになる。葉を茂らせたポプラは夏の日差しを浴びて生き生きとし、周囲の農地の彩りとともに北海道らしい雄大な景色を作り上げる。観光客も最も多いシーズンであり、早朝に訪れると人が少なく、朝霧の中の幻想的な風景に出会えることもある。
**秋(9〜10月)**になると、葉は黄金色に染まり、収穫期を迎えた畑との組み合わせが温かみのある秋の色合いを生み出す。空気が澄んで遠くの十勝岳連峰まで見渡せる日には、錦秋の丘と雪をいただく山々のコントラストが格別だ。
**冬(11〜3月)**は、雪が積もった大地に枯れ枝のシルエットがくっきりと浮かぶ。葉を落としたポプラは夏とは全く異なる孤高の美しさを見せ、静寂に包まれた冬の美瑛を象徴する風景となる。路面の凍結に注意は必要だが、この季節ならではの景色を求めて訪れる価値は十分にある。
パッチワークの路を巡る
「ケンとメリーの木」を訪れる際には、同じくパッチワークの路エリアにある他の名所も合わせて巡るのがおすすめだ。近くには「親子の木」や「セブンスターの木」といった、それぞれに由来を持つ木々が点在しており、丘陵地帯のドライブとともに一日かけてめぐることができる。農地の畝が幾何学模様のように見える丘の風景は、どこを切り取っても絵になる。
また、美瑛の中心市街地には道の駅「丘のくら」があり、地元産の野菜や加工品などを購入できる。旭川方面や富良野方面とのアクセスも良く、北海道中央部の観光拠点として多くの旅行者に利用されている。
アクセスと訪問のポイント
「ケンとメリーの木」へのアクセスは、マイカーやレンタカーが最も便利だ。JR富良野線「美瑛駅」から車で約10分、美瑛市街地からは道道824号線を北上するルートでアクセスできる。夏季はサイクリングを楽しむ旅行者も多く、美瑛駅周辺でレンタサイクルを借りて丘を巡るのも一つの楽しみ方だ。ただし、パッチワークの路エリアはアップダウンが激しいため、電動アシスト付き自転車の利用を推奨する。
訪問時は、農地や私有地への無断立ち入りを避けることが大切だ。木のすぐそばまで近づこうとして農道に入り込む行為は、地域の農業活動に支障をきたす場合がある。道路沿いの駐車スペースから鑑賞し、地元の人々への敬意を忘れずに訪れてほしい。美瑛の美しい景観は、農家の方々が日々丹精込めて大地を耕すことで保たれている。その営みへの感謝を胸に、「ケンとメリーの木」が見守り続けてきた丘の風景をじっくりと味わってもらいたい。
交通
北海道美瑛町内、最寄り駅またはバス停からアクセス
營業時間
散策自由
預算
無料