
奄美大島の南に浮かぶ加計呂麻島は、時間がゆっくりと流れる秘境の離島だ。観光開発をほぼ受けないまま残されたこの島には、本来の南国の自然と、古き良き島の暮らしが今も息づいている。
「最後の楽園」と呼ばれる理由
加計呂麻島(かけろまじま)は、鹿児島県奄美大島の南西に位置する、面積約77平方キロメートルの島だ。人口は約1,200人。奄美大島・古仁屋港からフェリーで20分という近さにありながら、観光地化がほとんど進んでおらず、訪れる観光客も少ない。島内にはコンビニも信号機もなく、舗装されていない道が続く集落もある。それでいて、澄みきった海と亜熱帯の緑豊かな森が広がる自然は、名の知れたリゾートに勝るとも劣らない。
2021年には奄美大島・徳之島・沖縄島北部・西表島とともにユネスコ世界自然遺産に登録され、改めてその自然の価値が世界に認められた。しかし、それでもこの島が静かであり続けているのは、交通の不便さと「島のペース」が守られているからかもしれない。コンクリートのリゾートではなく、自然のままの砂浜と素朴な休憩所が「最高のビーチ施設」である——そんな島だ。
透明度抜群の天然ビーチ
加計呂麻島最大の魅力は、人の手がほとんど入っていない天然のビーチだ。島には大小合わせて約30のビーチが点在しており、そのほとんどがプライベートビーチ感覚で楽しめる。
代表的なのが「実久(さねく)ビーチ」だ。遠浅の白砂浜に透明度抜群のエメラルドグリーンの海が広がり、「実久ブルー」と呼ばれるその美しさは、国内屈指のビーチと比べても遜色ないと評される。夏の晴れた日には浅瀬の砂が光を反射し、ビーチ全体が輝くように見える。
「スリ浜」は集落のすぐ目の前に広がるアクセスしやすいビーチで、サンゴの欠片が積もった白い砂浜が特徴だ。干潮時にはリーフの内側に天然のプールが出現し、小さな子どもでも安心して海遊びができる。シュノーケリングではサンゴ礁に暮らすクマノミやルリスズメダイの群れに出会えることも多い。
島の各所に点在するビーチの多くはほぼ無人で、夏の週末でも人で埋め尽くされることはない。その静けさこそが、一度訪れた人をリピーターにする理由のひとつだ。
世界自然遺産の森と固有種たち
加計呂麻島の森には、奄美を代表する固有種・準固有種が多数生息している。夜、車でゆっくりと島内を走ると、道端にアマミノクロウサギを見かけることがある。体全体が黒く、耳が短く丸いこのウサギは、奄美大島と加計呂麻島にのみ生息する特別な存在で、国の特別天然記念物にも指定されている。絶滅危惧種に分類されるその姿を間近で見られる機会は、加計呂麻島ならではの体験だ。
亜熱帯の植生が広がる山道を歩けば、ガジュマルの根が地面を這う原生的な景観が続く。野鳥の声を聞きながら歩くトレッキングは、ビーチ遊びとはひと味違う加計呂麻の楽しみ方だ。また、夜の浜辺では産卵のために上陸するアオウミガメやアカウミガメに出会えることもある。自然を傷つけないよう十分な距離を保ちながら、静かに見守ることが大切だ。
文学と歴史が刻まれた島の記憶
加計呂麻島は、日本の文学史においても特別な場所だ。作家・島尾敏雄は、太平洋戦争末期、この島に海軍特攻艇(震洋)の隊長として着任した。出撃命令を待ち続けながら終戦を迎えたその経験は、のちの文学活動に深く影響を与えた。また、島の女性と恋に落ち、その関係を描いた小説『死の棘』は日本文学の名作として広く知られている。島内には当時の特攻艇が格納されていた壕が今も残されており、史跡として訪れることができる。
歴史の重みを感じさせる場所は他にもある。集落に点在する石垣や、台風に耐えるための工夫が施された家屋の造りは、島の人々がこの自然環境の中で積み重ねてきた暮らしの知恵を物語っている。長い時間をかけて形成されてきた島の文化は、ビーチや森と並ぶ、もうひとつの「見どころ」だ。
季節ごとの楽しみ方
加計呂麻島を訪れるベストシーズンは、5月から10月ごろだ。この時期は海水温が高く、シュノーケリングやダイビングを思い切り楽しめる。6〜7月の梅雨明け後は空気が透き通り、海の透明度が最も高くなる時期と重なることが多い。
ただし、夏は台風シーズンでもある。離島では台風による欠航が続くと島に足止めになることもあるため、旅程には余裕を持って計画したい。キャンセル保険の加入も検討しておくと安心だ。
春(3〜5月)は観光客が少なく、島の自然をゆっくりと楽しむのに向いている。山の新緑が美しく、固有の野鳥を観察するにも絶好の季節だ。冬(12〜2月)は気温が下がるものの、奄美の冬は比較的温暖で、澄んだ空気の中で島の山並みや入り組んだ海岸線の眺めを楽しめる。
アクセスと滞在のヒント
加計呂麻島へは、まず奄美大島を目指す。羽田空港から奄美空港まで飛行機で約2時間、鹿児島空港からは約1時間でアクセスできる。奄美大島南部の古仁屋港からは定期フェリーが運航しており、所要時間は約20〜30分だ。
島内の移動はレンタカーまたはレンタルバイクが基本となる。路線バスも運行しているが本数が限られており、ビーチや集落を自由に巡るには自動車が欠かせない。民宿や小規模な宿泊施設が点在しており、新鮮な海の幸を楽しめる食事付きプランも多い。島で水揚げされた魚介と奄美黒糖焼酎を組み合わせた夕食は、旅の締めくくりにふさわしいひとときだ。
コンビニや大型スーパーは島内にないため、古仁屋や奄美市内で必要なものを事前に揃えておくと安心だ。「不便さを楽しむ」くらいの気持ちで身軽に訪れることが、この島を最大限に楽しむ秘訣かもしれない。
交通
從奄美大島古仁屋港搭渡輪約20分鐘
營業時間
島内自由(フェリーは1日3〜4便)
預算
フェリー往復約800円+宿泊5,000〜12,000円/泊