東京・南青山の閑静な住宅街に佇む根津美術館は、都会の喧騒を忘れさせてくれる美の空間です。国宝や重要文化財を含む約7,400件に及ぶコレクションと、四季の移ろいを感じられる広大な庭園が訪れる人を魅了し続けています。
実業家・根津嘉一郎が遺した美の遺産
根津美術館の歴史は、明治から大正・昭和にかけて活躍した実業家、初代根津嘉一郎の情熱から始まります。東武鉄道をはじめ数多くの企業経営に携わりながら、嘉一郎は生涯をかけて日本と東洋の古美術品を蒐集し続けました。その膨大なコレクションを広く一般に公開したいという遺志を受け継ぎ、1941年に根津美術館は東京・南青山の地に開館しました。
開館から80年以上が経過した現在も、嘉一郎が愛した美術品の数々はこの場所で大切に保存・公開されています。2009年には隈研吾氏の設計による新館が完成し、日本の伝統美と現代建築が融合した美しい建物として生まれ変わりました。竹林に囲まれたアプローチは、館内に一歩踏み込む前から訪問者を特別な時間へと誘います。
6件の国宝が語る、日本・東洋美術の精華
根津美術館が世界的に知られる最大の理由は、その充実した国宝コレクションにあります。現在、館が所蔵する国宝は6件。なかでもとくに名高いのが、尾形光琳が描いた「燕子花図屏風」です。金地に鮮やかな青と緑で描かれた燕子花(かきつばた)の群れは、装飾的でありながら自然の生命力にあふれており、日本美術史を代表する傑作として国内外の美術愛好家を惹きつけてやみません。毎年ゴールデンウィークの時期に合わせて公開されるため、本物を一目見ようと多くの人が訪れます。
そのほかの国宝も、日本・東洋美術の各ジャンルを代表する名品ばかりです。「鶉図」「漁村夕照図」といった絵画作品、禅の問答を描いた「布袋蒋摩訶問答図」、神聖な那智の滝を荘厳に表現した「那智瀧図」、そして仏教戒律の根本経典である「根本百一羯磨」。いずれも、日本と東洋の精神文化が凝縮された至宝といえます。国宝以外にも重要文化財に指定された「五百羅漢図」や「地蔵菩薩立像」など数多くの優品を所蔵しており、コレクション全体の質の高さには圧倒されます。
年7回の企画展で楽しむ多彩なテーマ
根津美術館では年間7回の展覧会が開催されており、そのたびにテーマや展示作品が入れ替わります。絵画・書跡・彫刻・工芸・茶道具と、日本および東洋古美術の幅広いジャンルを取り上げ、シーズンごとに異なる視点からコレクションの魅力を伝えています。春の燕子花図公開に始まり、秋の茶道具特集、冬の仏教美術展など、季節と連動した展示スケジュールが組まれているため、何度訪れても新鮮な発見があります。
観覧料は展覧会によって異なりますが、会員制度「根津倶楽部」に入会すると、展覧会会期中は何度でも無料で入館できる特典が得られます。さらにミュージアムショップでの買い物割引など、美術館をより深く楽しむための特典も充実しています。常設展示ではなく企画展形式をとっているため、訪問前に公式サイトで開催中の展覧会を確認しておくことをおすすめします。
都心に残る緑の庭園と茶室の静寂
美術品の鑑賞と並んで根津美術館の大きな魅力が、館内に広がる日本庭園です。南青山という都心のただ中にあるとは思えないほど緑豊かなこの庭園には、大小の池や石灯籠、石仏が点在し、四季折々の植物が彩りを添えます。春には新緑、夏には木陰の涼しさ、秋には紅葉、冬には冷えた空気の澄んだ景色と、季節ごとに異なる表情を楽しめます。
庭園内にはいくつかの茶室も設けられており、日本の茶の湯文化が今もこの場所で息づいています。茶室は利用申請を通じて使用することができ、本格的な茶道体験の場としても親しまれています。根津嘉一郎自身が茶道に深く傾倒していたこともあり、館のコレクションには茶道具の名品が多く含まれています。庭園と茶室、そして美術品が一体となった空間は、単なる観光施設を超えた文化体験の場として訪問者に深い印象を与えます。
ショップとカフェで過ごす、鑑賞後のひととき
美術鑑賞の余韻を楽しみたい方には、館内のミュージアムショップと「NEZUCAFÉ」がおすすめです。ミュージアムショップでは、所蔵作品をモチーフにしたオリジナルグッズや図録、美術関連書籍などが揃い、訪問の記念品や大切な人へのギフトを探すのに最適です。根津倶楽部会員は購入時に優待が受けられます。
NEZUCAFÉは庭園を望む開放的な空間で、コーヒーや軽食をゆっくりと楽しめます。鑑賞後に作品の余韻に浸りながら一息つく時間は、根津美術館での体験をより豊かなものにしてくれます。なお、庭園・ミュージアムショップ・カフェの利用はいずれも美術館の入館者に限られていますので、ご注意ください。表参道駅から徒歩約10分という好立地で、原宿・青山エリアの散策と組み合わせて訪れるのもよいでしょう。
交通
原宿駅から徒歩圏内
營業時間
預算