瀬戸内海に面した稀有な海城の面影を今に伝える天守台跡は、高松駅から徒歩数分という好立地に位置する。香川県高松市の玉藻公園内にあるこの史跡は、日本三大水城のひとつに数えられる高松城の中心部であり、城の歴史と瀬戸内の海景が重なり合う特別な場所だ。
瀬戸内に浮かんだ城——高松城の歴史
天守台跡が残る高松城(玉藻城)は、天正16年(1588年)に生駒親正によって築かれた海城である。城の名「玉藻城」は、かつてこの地が「玉藻の浦」と呼ばれていた万葉集由来の雅名に由来しており、古くから歌に詠まれた美しい海辺の地であったことを物語っている。
城の最大の特徴は、堀に瀬戸内海の海水を直接引き込んだ構造にある。干満の差によって堀の水位が変化し、往時は城が海に浮かぶように見えたという。このような海水を利用した海城は全国でも数少なく、高松城は今治城(愛媛県)・中津城(大分県)とともに日本三大水城に列せられる。
生駒家のあと、寛永19年(1642年)には松平頼重が城主となり、高松藩の藩主として以降この地を治めた。松平家は徳川家康の孫にあたる家柄であり、城下町の整備とともに城自体も充実が図られた。三重の天守は壮麗な姿を誇っていたが、明治17年(1884年)、老朽化と当時の政策により惜しまれながら解体された。現在残る天守台は、その礎として積み上げられた石垣であり、往時の城の高さと規模を今日に伝える貴重な遺構となっている。
石垣と堀が語るもの——天守台跡の見どころ
玉藻公園に入り園内を歩いていくと、やがて整然と積み上げられた巨石の塊が視界に入ってくる。これが天守台跡だ。高さおよそ9メートルに達する石垣は、野面積み(のづらづみ)と打込みハギを組み合わせた技法で築かれており、時代ごとに補修・増築を繰り返した痕跡を細部に見ることができる。
天守台の頂上部は現在も登ることができ、そこから望む眺望は格別だ。眼下には海水をたたえた広大な内堀が広がり、石垣の内側をゆるやかに揺れる海面の光が美しい。遠方には瀬戸内海の島々や、天気の良い日には屋島の稜線も見渡せ、まさに海城ならではのパノラマを楽しめる。
堀には鯛や鱸(スズキ)などの海水魚が生息しており、城の石垣と群れ泳ぐ魚たちの組み合わせは、他の城では決して見られない高松城独自の光景だ。公園の一角では釣りが楽しめる釣り場も設けられており、訪れた人々がのんびりと竿を垂れる姿も日常的な風景となっている。公園内には天守台跡のほかにも、月見櫓・水手御門・渡櫓などの現存建物が残されており、江戸時代の城郭建築の様式を実際に見学できる。なかでも水手御門は海から直接城内へと通じる門で、海城の機能を如実に示す遺構として高く評価されている。
四季折々の表情——季節ごとの楽しみ方
玉藻公園は季節ごとに異なる顔を見せてくれる場所でもある。春(3月下旬〜4月上旬)には、公園内に植えられた約2,000本の桜が一斉に咲き誇り、天守台跡や石垣を背景にした花見の景色は絵画のような美しさを呈する。高松城桜まつりの期間中は夜間ライトアップも行われ、水面に映る桜と石垣が幻想的な雰囲気を醸し出す。
夏には、海水を引き込んだ堀の水面が陽光を反射してきらめき、瀬戸内特有の穏やかな夏の空気の中で城跡を散策できる。公園内の緑も深まり、石垣の荒々しさと緑の柔らかさが対比をなして独特の景観を生み出す。
秋は紅葉とともに訪れ、城跡の石垣や堀に映える赤や黄の葉が落ち着いた情緒をつくり出す。観光客の数も落ち着く季節であり、じっくりと歴史の空気を味わいたい人にとっては特におすすめの時期だ。
冬は空気が澄み、遠景の見通しが良くなる季節だ。瀬戸内の穏やかな冬の光に照らされた石垣と水堀は静謐な美しさを持ち、他の季節とは異なる凛とした趣がある。冬の朝、靄が堀に漂う時間帯には特に幻想的な光景に出会えることもある。
玉藻公園と周辺エリアの楽しみ方
天守台跡を擁する玉藻公園(高松城跡)は、国の史跡に指定された歴史公園だ。開園時間内であれば入園料(大人200円、中学生以下無料)を払って内部を見学できる。現存する月見櫓・水手御門・渡櫓は国の重要文化財に指定されており、江戸時代の建築技術を間近に体感できる貴重な機会だ。公園内には無料の休憩所や売店も備わっており、歴史散策の途中でひと息つくことも容易だ。
公園のすぐ隣には高松駅があり、JR四国やことでん(高松琴平電気鉄道)を利用してアクセスできる。県外からの訪問者には高松空港からのリムジンバスや、岡山駅から瀬戸大橋を渡るマリンライナーが便利だ。高速バスや瀬戸内海のフェリー・高速船を使う方法もあり、交通の便は良好だ。
周辺には高松中央商店街(丸亀町商店街など)や高松港、そしてアート・建築で知られる玉藻公園の北側の臨海エリアが広がる。徒歩圏内に高松市立中央公園や高松シンボルタワーもあり、城跡観光のあとにショッピングや食事を楽しむことも容易だ。讃岐うどんの名店は市内各地に点在しており、旅の締めくくりに地元の味を堪能するのがおすすめだ。
高松城跡が伝えるもの
天守台跡は単なる「城の残骸」ではない。それは、瀬戸内の海と人々の暮らしが重なり合ってきた数百年の歴史の結節点だ。海水をたたえた堀に映る石垣の姿は、かつてこの地に実際に城が存在し、武士たちが日常を送り、城下の人々が営みを重ねてきた事実を静かに物語る。
高松を訪れた際には、駅の目と鼻の先にあるこの史跡に足を運んでほしい。整備された公園の中に佇む天守台跡は、観光名所としての華やかさと、歴史遺産としての重厚さを兼ね備えた、高松ならではの特別な場所である。
交通
高松駅から徒歩圏内
營業時間
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