岐阜県飛騨高山に残る「古い町並」は、江戸時代の面影をそのままに伝える日本屈指の歴史的街並みです。三之町筋を中心とした黒光りする格子窓の町家が連なる風景は、訪れる人々を数百年前の世界へと誘います。
江戸の商人町が今に息づく街
飛騨高山が現在のような歴史的街並みを保つ背景には、江戸時代の特殊な行政事情があります。1692年(元禄5年)、飛騨国は幕府直轄領(天領)となり、以後明治維新まで約180年間にわたって江戸幕府の支配下に置かれました。幕府は豊富な木材資源を管理するために代官所を設置し、高山は飛騨の政治・経済の中心地として栄えました。
この天領時代に商人たちが建てた屋敷が、現在の古い町並の骨格を形成しています。近代化の波が押し寄せた明治以降も、高山の商家建築は大きく改変されることなく受け継がれ、1979年(昭和54年)には国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されました。現在保存区域内には80棟以上の伝統的建造物が残り、単なる観光地ではなく、実際に人々が生活し商いを営む「生きた歴史遺産」として高く評価されています。
三之町筋を歩く——見どころと名物
古い町並の中心は、上一之町から上三之町にかけて南北に延びる約400メートルの通りです。両側に軒を連ねる町家の特徴は、黒漆喰や焼板で仕上げられた外壁と、整然と並ぶ縦格子の出格子窓。軒先には細い木の棒状の格子「連子格子(れんじごうし)」が取り付けられており、防犯や採光の役割を果たしながら、独特の陰影を生み出しています。
通りを歩けば、杉の葉を丸く束ねた「酒林(さかばやし)」と呼ばれる緑の球が軒先に下がった酒蔵をいくつも見つけることができます。飛騨高山には現在も複数の老舗酒蔵が古い町並に集中しており、蔵見学や利き酒を楽しめる店も多数あります。仕込みの始まりを告げる青々とした酒林が褐色に変わるにつれて、その年の酒が熟成してゆく様子を季節ごとに感じられるのも、この街ならではの趣です。
食の面でも見逃せないのが、飛騨牛と地元産みたらし団子です。江戸期から続く老舗の醤油蔵や味噌蔵も点在しており、醸造文化の深さを肌で感じながら食べ歩きを楽しめます。
春と秋——天下の三大美祭が街を染める
高山の古い町並は、日本三大美祭の一つに数えられる「高山祭」の舞台でもあります。春の「山王祭」(4月14・15日)と秋の「八幡祭」(10月9・10日)の年2回開催されるこの祭りは、ユネスコ無形文化遺産にも登録されています。
祭りの主役は、江戸中期から受け継がれてきた豪壮な屋台(山車)です。絢爛豪華な彫刻と金工、西陣織の幕で飾られた屋台が古い町並をゆっくりと曳き廻される光景は、見る者を圧倒します。夜には屋台に提灯が灯され、昼とはまた異なる幻想的な雰囲気に包まれます。祭り期間中は全国から多くの観光客が訪れるため、宿の確保は早めに行うことをおすすめします。
四季それぞれの楽しみ方
古い町並は一年を通じて訪れる価値がありますが、季節ごとに表情が大きく変わります。
**春(3月〜5月)**は、高山城跡の桜が咲き誇り、古い町並との対比が美しい季節です。雪解けとともに店先に花鉢が並び始め、清々しい空気の中で散策を楽しめます。
**夏(6月〜8月)**は、緑に覆われた山々を背景に、格子戸から差し込む木漏れ日が美しい季節。観光客が比較的少ない早朝の散策がおすすめで、静寂の中に水路を流れる清水の音だけが響く趣ある時間を過ごせます。
**秋(9月〜11月)**は、紅葉と古い町並の組み合わせが絶景です。10月の八幡祭に合わせて訪れると、黄金色に染まる街と伝統行事を同時に楽しめます。
**冬(12月〜2月)**は、古い町並が最も凛とした表情を見せる季節です。雪が積もった屋根と黒い格子窓のコントラストは、高山を代表する冬の風景として多くの写真家や旅行者を惹きつけます。年末年始には静かな雪景色の中を散策できます。
周辺の見どころとアクセス
古い町並の北側には、陣屋朝市が立つ「高山陣屋」があります。全国に唯一現存する江戸時代の郡代・代官所として国史跡に指定されており、当時の役所機能を伝える資料が豊富に展示されています。また、宮川沿いに毎朝開かれる「宮川朝市」も高山の名物で、地元の農産物や漬物、手工芸品などが並びます。
古い町並から徒歩圏内には、日下部民藝館や吉島家住宅など、重要文化財に指定された町家の内部を公開する施設も複数あり、外観だけでなく建築の内側まで体験できます。
アクセスは、JR高山本線「高山駅」から徒歩約10分です。駅を出て東方向に進み、宮川を渡ると古い町並の入口に到着します。名古屋からは特急「ひだ」で約2時間15分、松本からは約2時間が目安です。高速バスは名古屋・新宿・大阪など主要都市から運行されています。駐車場は周辺に複数ありますが、祭り期間中や紅葉シーズンの週末は混雑するため、公共交通機関の利用が賢明です。
交通
高山駅から徒歩圏内
營業時間
預算