出羽三山の霊気が満ちる羽黒山の深い森の中に、樹齢数百年の杉並木に抱かれた五重塔がある。千年以上にわたる祈りと歴史を刻み込んだこの国宝建築は、神仏習合の文化が息づく東北の地に今もなお凛として立ち、訪れる者を静謐な時間へと誘う。
出羽三山信仰と羽黒山の歴史
羽黒山は、月山・湯殿山とともに「出羽三山」を構成する霊山です。飛鳥時代の崇峻天皇の皇子・蜂子皇子が開山したと伝えられ、1400年以上にわたって山岳修験の聖地として崇められてきました。修験道の行者たちはこの地で厳しい修行を積み、「現世」「前世」「来世」の三世を体験するとされる三山巡りを行ってきました。
羽黒山はその中でも「現世の山」として位置づけられており、現在でも多くの修験者や参拝者が訪れます。五重塔の建立は平安時代中期・天慶年間(938年頃)に遡るとされ、その後、幾たびかの再建を経て、現存する塔は南北朝時代末期の頃に建てられたと考えられています。以来、約600年の時を経た今も現役の国宝として、東北地方に現存する最古の塔建築として高い価値を持っています。
国宝の建築美——五重塔の構造と意匠
高さ約29メートルを誇る五重塔は、「三間五重塔婆」と呼ばれる形式の建築物で、屋根が上に向かうにつれて少しずつ小さくなる逓減率の美しさが際立っています。外壁に施された朱色の彩色は江戸時代以降に剥がれ、現在は木肌そのままの素木(しらき)の姿をしていますが、その質朴な風合いがかえって杉の深緑や苔むした石畳と調和し、幽玄な景観を生み出しています。
内部には大日如来が祀られていますが、残念ながら内部は非公開となっています。塔の一層目には縁(えん)がなく、基壇の上に直接建つ形式も古い時代の建築様式を今に伝えるものです。国宝指定は昭和26年のことで、その後も保存修理が続けられ、往時の姿を保ち続けています。建築史的にも極めて貴重なこの塔は、専門家のみならず多くの旅行者を魅了してやみません。
2446段の石段と杉並木——参道の圧倒的な世界観
五重塔への参道は、随神門をくぐるところから始まります。そこから続く石段は合計2446段にも及び、山頂の出羽神社(三神合祭殿)まで約1.7キロメートルにわたって続きます。石段は長い年月をかけて磨耗し、苔が覆い、その凹凸が歩くごとに時の厚みを感じさせます。
石段の両脇には、樹齢350年から500年ともいわれる杉の巨木が立ち並んでいます。幹回りが数メートルに達するものも珍しくなく、頭上を覆う枝葉が木漏れ日をつくり、昼間でも薄暗い幻想的な空間が広がります。この「羽黒山の杉並木」は国の特別天然記念物にも指定されており、参道全体がひとつの文化財ともいえる風格を持っています。
随神門から歩くこと約15分、石段を下りきった先の鬱蒼とした杉木立の中に、五重塔は突如として姿を現します。事前に写真で見ていたとしても、実際に足を運んで目の当たりにする存在感は圧倒的です。周囲には継子(ままこ)坂と呼ばれる急斜面も含まれており、参道歩きはやや体力を要しますが、それもまた修験の地を訪れる体験の一部といえるでしょう。
四季それぞれの表情——いつ訪れても美しい羽黒山
羽黒山は季節ごとに異なる顔を見せ、何度訪れても新鮮な感動を与えてくれる場所です。
春(4〜5月)は、残雪が消えはじめる頃に山がいっせいに芽吹きます。新緑と苔の緑が重なり合い、五重塔の木肌と相まって清々しい景観を作り出します。山形の遅い春は、都市部より一足遅れてやってくるため、ゴールデンウィーク明けでも春の風情を楽しめることがあります。
夏(7〜8月)は「羽黒山夏越しの祭」など伝統行事が行われ、白装束の修験者たちが山を行き交う光景に出会えることもあります。深い緑の中を歩く参道は涼しく、避暑を兼ねた旅にもおすすめです。
秋(10〜11月)は紅葉の季節で、山が色づくにつれて杉並木との対比が美しくなります。五重塔を囲む木々が赤や黄に染まる様子は、多くのカメラマンが撮影に訪れるほどの絶景です。
冬(12〜3月)は積雪によって参道が雪に覆われ、五重塔の周囲も一面の銀世界となります。雪をまとった塔と杉並木の光景はとくに幻想的で、「冬の羽黒山が一番美しい」という声もあるほどです。ただし積雪期は足元が滑りやすいため、防寒と防滑の準備は必須です。
アクセスと周辺観光——出羽三山・鶴岡をあわせて巡る
羽黒山へのアクセスは、JR鶴岡駅からバスで約50分が一般的です。庄内交通のバスが随神門入口付近まで運行しており、そこから徒歩で参道を歩くことができます。車の場合は山頂近くまで車道が整備されており、駐車場も利用可能です。ただし、五重塔を含む参道の雰囲気を楽しむためには、ぜひ随神門から歩いて登ることをおすすめします。
周辺には多くの見どころが点在しています。山頂の出羽神社(三神合祭殿)は、月山・羽黒山・湯殿山の三神を合わせて祀る壮大な社殿で、参拝者も多く訪れます。また、鶴岡市内には国の重要文化財である致道博物館(旧庄内藩主酒井家の邸宅)や、映画「おくりびと」のロケ地としても有名な施設など、歴史・文化にまつわるスポットが豊富です。
庄内地方はコメどころとしても名高く、だだちゃ豆(夏)や庄内柿(秋)など地域の特産品も見逃せません。鶴岡市内には地元食材を活かした飲食店も多く、食と文化を合わせた充実した旅が楽しめます。日本海に面した海岸や加茂水族館(クラゲの展示で有名)など、山から海まで多彩な魅力が詰まった鶴岡は、一泊以上かけてゆっくり巡る価値のある地域です。
交通
山形県鶴岡市内、最寄り駅またはバス停からアクセス
营业时间
9:00〜17:00
预算
300〜600円