
丹鶴庵
GALLERY
りんご畑と水田が広がる青森県弘前市の里山の奥、ハナミズキとモミジのトンネルを抜けた先に、丹鶴庵はひっそりとたたずんでいます。明治41年(1908年)に出雲国産の材を用いて建てられた茅葺き屋根の主屋は、当時の面影を損なわないよう補修を重ねながら今日まで受け継がれてきた一棟貸しの民泊施設です。背後には岩木山がそびえ、津軽を象徴するような里山風景のなかに溶け込む佇まいが、訪れる人の心をいつの間にかほぐしていきます。
明治の大空間が生み出す解放感
主屋の内部は、柱・梁・貫だけで支えられた大きな吹き抜けの空間です。壁で間仕切られた現代の家とは異なり、人も空気も自由に行き交う設計で、外の里山の気配が建物の内側まで自然に流れ込んできます。床の間を背にしてお茶や地酒を傾けながら庭を眺めたり、隣接する18畳の広間では囲炉裏を囲んで食事をしたり、廊下に腰を落ち着けて前庭の移ろいを愛でたりと、空間の使い方は宿泊者に委ねられています。キッチンでは持ち込んだ食材で自炊も可能で、人数や目的に合わせた滞在スタイルを組み立てられる点が、一般の旅館にはない自由さです。青森ひば材と漆塗りを用いた風呂からは季節の景色を眺めることができ、桜の時期には入浴しながら花を楽しむこともできます。
国登録記念物・大石武学流庭園
丹鶴庵を語るうえで欠かせないのが、明治15年(1882年)に造営された庭園です。津軽地方に独特の作庭流派「大石武学流」による庭で、築庭年が明確に記録されているものとしては最も古く、国の記念物(名勝地)に登録されています。岩木山を借景に取り込みながら、農村風景をも視野に収める構成は、庭の内と外を一体化させてダイナミックな奥行きを生み出しています。庭先に咲く草花や、ひょっこりと姿を見せる小さな生き物たちも、季節の変化を五感で知らせてくれる存在として丹鶴庵の日常に溶け込んでいます。
季節ごとの体験と夜の楽しみ
庭や里山を舞台にした体験は昼間だけではありません。7月下旬には敷地内でホタルを観賞でき、予約制ではありますが屋外でのたき火を囲みながら星空を見上げる時間も設けられています。ハナミズキとモミジのトンネルは春と秋に異なる表情を見せ、りんご畑の花、稲の香り、山の雪景色と、四季を通じて滞在のたびに違う顔を持つ場所です。一人での静養にも、家族や仲間との語らいにも、同じ空間が異なる豊かさを提供してくれます。
「あじまし」という旅の目的地
丹鶴庵のコンセプトの根幹にある言葉が「あじまし」です。津軽弁で「しみじみと幸せを感じ、すべてがきちんとしていて不安がない、こころ安らかな心理状況」を指すこの言葉(小笠原功、2014年)は、単なるキャッチフレーズではなく、この宿が目指す体験そのものを表しています。庵主夫妻が掲げる三つのポリシー——人が集い語らう居場所であること、美しい里山と持続可能な暮らしを追求すること、そして「あじまし」の感覚を広める場所であること——は、建物の保存方法から空間の設えにいたるまで、丹鶴庵のあらゆる選択に一貫して反映されています。
弘前市街や岩木山観光の拠点としてはもちろん、「非日常を探す旅」ではなく「もうひとつの日常を取り戻す旅」として訪れてみてほしい場所です。
アクセス
青森県弘前市の郊外、岩木山を背にした集落のはずれ。最寄駅・徒歩分は不明
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