
北海道美瑛町のなだらかな丘陵地帯に、一本の堂々たるカシワの木がそびえ立っている。かつてタバコのパッケージに採用されたことで全国にその名を広めた「セブンスターの木」は、今も変わらず青い空と広大な畑を背景に、訪れる人々を静かに迎え続けている。
セブンスターの木が生まれた背景
1976年、日本専売公社(現JT)が販売するタバコ「セブンスター」のパッケージに、美瑛の丘に立つ一本のカシワの木の写真が採用された。それまで美瑛は農業の町として地元では知られていたものの、観光地としての知名度はほとんどなかった。しかし、パッケージを通じてその美しい景観が全国に知れわたると、「あの木はどこにあるのか」と実際に訪れる人が増え始めた。
カシワはブナ科コナラ属の落葉広葉樹で、北海道では古くから農地の防風林や境界木として植えられてきた。美瑛の農家にとってこの木もそのような存在のひとつだったが、ひとつの写真がきっかけでその存在は一気に観光のシンボルへと変わっていった。木そのものの樹齢は数十年以上とされ、美瑛の四季とともに着実に幹を太くしてきた。単なる「インスタ映えスポット」とは異なる、歴史と偶然が生み出したランドマークである。
パッチワークの路とはどんなエリアか
セブンスターの木が位置する「パッチワークの路」とは、美瑛町の北部に広がるドライブルートの愛称だ。農家が丘の斜面に麦・じゃがいも・てんさい・豆類などを作付けすることで、異なる色と質感の畑が隣り合い、まるでパッチワークキルトのような景観が生まれる。春の萌黄色、夏の鮮やかなグリーンとラベンダーの紫、秋の黄金色と茶色、冬の真白な雪原——季節ごとに全く異なる表情を見せてくれるのがこのエリアの最大の魅力だ。
一帯には「ケンとメリーの木」「親子の木」「北西の丘展望公園」など、それぞれにニックネームを持つ景観スポットが点在しており、セブンスターの木はそのひとつとして位置づけられている。車でのんびり走りながら各スポットを巡るドライブコースとして、国内外を問わず多くの旅行者に親しまれている。
木が立つ丘から見える絶景
セブンスターの木の魅力は、その木自体の存在感とともに、周囲の風景との組み合わせにある。なだらかに起伏する丘の上に立つカシワの木は、夏になると豊かな葉を広げ、背後に広がる農地のグリーンと澄んだ青空との対比が鮮やかな写真を演出する。朝の斜光が丘を照らす時間帯や、夕暮れどきに木のシルエットが浮かび上がる瞬間は特に美しく、カメラを手にした多くの人々がその瞬間を求めてやってくる。
木の周辺には小さな駐車スペースが整備されており、観光客がゆっくりと木に近づいて眺めることができる。柵などはなく、木の近くまで歩いて行けるため、実際のスケール感を体感できるのも嬉しいポイントだ。夏のハイシーズンには北海道らしい清涼な風が丘を吹き渡り、木の葉がさわさわと揺れる様子もまた絵になる光景だ。
季節ごとの楽しみ方
**春(5〜6月)** 雪解けとともに美瑛の農地が一斉に色づき始める季節。麦の若い緑が丘を覆い、セブンスターの木も新しい葉を芽吹かせる。観光客が比較的少なく、穏やかな雰囲気の中でゆっくりと景色を楽しめる時期でもある。
**夏(7〜8月)** 最も多くの観光客が訪れるピークシーズン。木の葉が最も豊かに茂り、周囲の農地は緑一色に輝く。近隣の富良野・美瑛エリアではラベンダーも見頃を迎えるため、セットで訪れる旅行者も多い。早朝は霧が立ち込めることがあり、幻想的な景色を楽しめることもある。
**秋(9〜10月)** 農地の収穫とともに丘の色が変化し、黄金色や茶色のパッチワーク模様が際立つ季節。カシワの葉も紅葉し始め、木そのものも鮮やかな色彩をまとう。観光客が落ち着いてくる時期でもあり、比較的ゆったりと撮影を楽しめる。
**冬(11〜3月)** 一面の銀世界に浮かぶセブンスターの木もまた格別の景観を見せる。雪をまとった裸木は夏とはまるで異なる表情を持ち、静寂の中に凛とした存在感を放つ。積雪期は路面状況に注意が必要だが、その分観光客も少なく、美瑛の冬らしい孤高の美しさを独り占めできる。
アクセスと周辺情報
美瑛町へのアクセスは、JR富良野線の美瑛駅が最寄り。旭川駅から約35分、富良野駅から約40分でアクセスできる。セブンスターの木はJR美瑛駅から北東へ約4〜5km程度の位置にあり、車やレンタサイクル、観光バスで訪れる人が多い。夏季には美瑛駅周辺でレンタサイクルを借りてパッチワークの路を巡るのが定番ルートの一つだ。なお、電動アシスト付き自転車を利用すれば丘の起伏も比較的楽に走ることができる。
周辺には「青い池」や「白金温泉」など美瑛・白金エリアを代表するスポットも多く、1泊2日の旅程であれば複数のスポットをまとめて訪れることができる。美瑛町内には農家レストランやカフェも点在しており、地元の農産物を使った料理を楽しんだ後に丘の景色を眺めるというのもこのエリアならではの旅の楽しみ方だ。
観光客の増加に伴い、農地への無断立ち入りや農作物の踏み荒らしが問題になっているエリアでもある。美しい景観を未来に残すためにも、指定された場所から鑑賞し、農家の方々の生活空間に配慮した行動を心がけたい。セブンスターの木が今もあの丘に立ち続けているのは、地域の農家と観光客が互いに敬意を持って関わり合ってきた結果でもある。
アクセス
北海道美瑛町内、最寄り駅またはバス停からアクセス
営業時間
散策自由
料金目安
無料