埼玉県飯能市の中心部からほど近い場所に、標高約197mの天覧山がそびえる。低山でありながら歴史と自然が豊かに息づくこの山は、関東近郊から多くのハイカーや観光客を引きつける人気スポットだ。都心から1時間ほどでアクセスできる手軽さも相まって、週末になると老若男女が思い思いのスタイルで訪れる。
「天覧」の名に刻まれた歴史
天覧山という名前には、由緒ある歴史が込められている。明治天皇が1878年(明治11年)にこの山に登り、陸軍の演習を御覧になったことから「天覧山」と命名されたとされる。「天覧」とは天皇が直接ご覧になることを意味し、その逸話が山の名前に永く刻まれた。
山麓には臨済宗の古刹・能仁寺が静かに佇んでいる。能仁寺は飯能の歴史と深く結びついた寺院で、戊辰戦争(1868年)における「飯能戦争」の激戦地ともなった場所だ。幕府方の振武軍と新政府軍が激突したこの戦いの舞台となった寺の境内は、今も落ち着いた空気をたたえている。境内を抜けて登山道に入ると、すぐに天覧山ならではの歴史的遺産に出会うことができる。登山道沿いには十六羅漢の石像が点在しており、岩場のあちこちに彫られた仏様の表情を確かめながら山道を歩くのは、ほかでは味わいにくい独特の体験だ。信仰と自然が溶け合った空間の中で、古い時代に思いをはせながら足を進めることができる。
手軽に楽しめる山頂からの絶景
天覧山の最大の魅力のひとつは、その「手軽さ」にある。能仁寺の境内から山頂まで、コースタイムはおよそ20〜30分。舗装された道と整備された登山道が続くため、スニーカーでも無理なく登ることができる。子ども連れのファミリーや、登山初心者にとっても気軽にチャレンジできる入門的なコースとして人気が高い。
山頂には展望台があり、晴れた日には関東平野を広く見渡すことができる。眼下には飯能市街が広がり、遠くには東京スカイツリーや秩父連山を望めることもある。標高197mとは思えないほどのパノラマビューは、登り切った達成感と相まって格別だ。特に空気が澄み渡る冬の晴れた日には、富士山のシルエットがくっきりと浮かび上がることもあり、その眺めを目当てに早朝から訪れるリピーターも少なくない。
四季折々の自然美
天覧山は一年を通して異なる表情を見せてくれる。春は能仁寺のソメイヨシノが咲き誇り、境内と登山道入口付近がピンク色に染まる。花見を兼ねたハイキング客でにぎわうこの時期は、山全体が華やかな雰囲気に包まれる。初夏には緑が深まり、登山道に涼しい木陰ができる。アジサイが咲く頃の能仁寺周辺は特に美しく、多くの写真愛好家が訪れる。
秋になると山全体が紅葉に彩られ、赤や黄に染まった木々が登山道を彩る。山頂からの眺めも、紅葉した山肌を背景に絶景が広がる。冬は落葉した木々の間から見晴らしがよくなり、遠くの景色がよりクリアに見えるようになる。積雪はほとんどなく、冬でも比較的安全にハイキングを楽しめるのも嬉しいポイントだ。
多峯主山への縦走コースも人気
体力に余裕がある場合は、天覧山から隣の多峯主山(とうのすやま・標高271m)へと縦走するコースがおすすめだ。天覧山山頂から多峯主山まではおよそ40〜50分のコースで、稜線歩きの気持ちよさを存分に楽しめる。多峯主山の山頂からはさらに広い眺望が開け、飯能の山並みと関東平野の両方を一望できる。このルートは「飯能アルプス」の入門コースとも位置づけられており、健脚のハイカーから縦走入門者まで幅広く親しまれている。下山ルートのバリエーションも豊富で、永田地区に下るルートや、久須美坂を経由するコースなど、好みや体力に合わせて選ぶことができる。
アクセスと周辺観光情報
天覧山へのアクセスは非常に便利だ。西武池袋線・JR八高線「飯能駅」から歩いて約20〜25分、もしくは飯能駅北口からバスを利用して「天覧山下」バス停まで数分でアクセスできる。電車とバスを乗り継いで都心から1時間強という立地は、日帰りハイキングの行き先として申し分ない。
飯能市内には天覧山以外にも楽しめるスポットが多い。天覧山・多峯主山を下りた後は、飯能市街のカフェや地元の食堂でランチを楽しむのもいい。飯能はここ数年、「北欧」をテーマにしたまちづくりを進めており、スウェーデン発祥の家具・生活雑貨ブランドと連携したスポットや、ムーミンの世界観を体験できる「メッツァビレッジ」「ムーミンバレーパーク」が宮沢湖畔に設けられている。天覧山でのハイキングと組み合わせることで、一日充実した飯能観光を楽しむことができる。
低山ながら奥深い自然と歴史が詰まった天覧山は、「ちょっとした山歩きを楽しみたい」という人にとって理想的な目的地だ。季節を変えて何度でも訪れたくなる、そんな魅力がこの小さな山には宿っている。
アクセス
埼玉県飯能市内、最寄り駅またはバス停からアクセス
営業時間
登山自由
料金目安
無料