京都駅から南西へ徒歩約15分。新幹線の車窓からも一際目を引く五重塔は、千二百年の歴史を持つ東寺の象徴であり、京都のランドマークとして多くの旅人の心をとらえてきた。世界遺産にも登録されたこの古刹は、日本密教の精華が今なお息づく、唯一無二の聖地である。
平安京とともに歩んだ、真言密教の聖地
東寺の歴史は、794年(延暦13年)の平安京遷都にまでさかのぼる。平安京の正門・羅城門の東側に「東寺」、西側に「西寺」が建立され、都の鎮護を担う国家寺院として創建された。その後、823年(弘仁14年)、嵯峨天皇から真言宗の開祖・空海(弘法大師)に東寺が下賜される。これが東寺の歴史における最大の転換点だった。
空海はここを真言密教の根本道場と定め、密教の教えを具現化する壮大な伽藍の整備に着手した。以来、東寺は「教王護国寺」という正式名称が示すとおり、仏教の教えによって王(国)を護るという使命を帯びた寺院として、日本密教の総本山として機能し続けている。応仁の乱をはじめとする幾多の戦禍や火災により建物の多くが焼失したが、そのたびに再建され、現存する主要建造物の多くは桃山から江戸時代にかけて建てられたものだ。1994年には「古都京都の文化財」の一つとしてユネスコ世界文化遺産に登録された。
密教芸術の粋――講堂の立体曼荼羅
東寺を訪れた際、最も時間をかけて鑑賞してほしい場所が「講堂」だ。堂内には21体の仏像群が整然と配置されており、これが「立体曼荼羅」と呼ばれる空海の思想を三次元で表現した空間である。大日如来を中心に、五智如来・五大菩薩・五大明王・梵天・帝釈天・四天王が並ぶその光景は、密教の宇宙観を可視化したものであり、圧倒的な存在感を放つ。
なかでも不動明王を中心とする五大明王像は、怒りの形相のなかに衆生を救わんとする慈悲が宿り、見る者を強く引きつける。これらの仏像のうち15体は国宝または重要文化財に指定されており、日本彫刻史においても最高峰に位置づけられる作品群だ。薄暗い堂内にしずもる仏像たちと静かに向き合う時間は、観光という枠を超えた精神的な体験をもたらしてくれる。
日本一の高さを誇る五重塔
東寺を象徴する五重塔は、高さ54.8メートルと日本の木造建築のなかで最も高い塔だ。創建は826年(天長3年)とされるが、落雷などで何度も焼失し、現在の塔は1644年(正保元年)に徳川家光の寄進によって再建された5代目にあたる。
初重(一番下の層)のみ内部に入ることができ、特別公開時には中心柱に刻まれた四仏や壁面を彩る密教画を間近で見ることができる。塔の外観は四季折々の風景と調和し、どの角度からも絵になる。とりわけ塔の南側に広がる瓢箪池に逆さに映る「逆さ五重塔」は、写真愛好家に絶大な人気を誇る構図だ。夜間ライトアップ時には、漆黒の夜空に浮かぶ幻想的な姿を楽しめる。
四季の彩り――春の夜桜から冬の雪景色まで
東寺の境内は、季節ごとにまったく異なる表情を見せる。春の最大の見どころは、五重塔を背景に咲き誇る「不二桜」だ。樹齢130年を超えるといわれるこの八重紅枝垂れ桜は、高さ13メートルにも及ぶ巨木で、満開時にはまるで滝のように枝を垂らして咲き乱れる。例年3月下旬から4月上旬にかけて「夜桜ライトアップ」が行われ、闇夜に浮かぶ桜と五重塔の競演は息をのむほど美しく、多くの観光客が訪れる。
夏には青々とした緑が境内を包み、清涼感をもたらす。秋には銀杏や紅葉が色づき、黄金色に染まる境内が幻想的な雰囲気を醸し出す。冬に雪が積もった日は、白銀の世界に五重塔が浮かぶ絶景となり、京都らしい静寂のなかに凛とした美しさが漂う。
毎月21日の「弘法市」――庶民文化が息づく縁日
毎月21日は、空海の命日にちなんだ「弘法市(こうぼういち)」が境内で開かれる。骨董品・古道具・古着・陶器・植木・食料品など、実に1,000軒を超える露店が立ち並び、朝から大勢の人々で賑わう。地元の京都市民はもちろん、観光客や外国人旅行者にも人気が高く、掘り出し物を探す楽しみは格別だ。
なかでも1月21日の「初弘法」と12月21日の「終い弘法」は一年のなかでも特ににぎわいを見せ、例年数万人もの人々が訪れる。縁日の喧騒と境内の荘厳な雰囲気が同居する光景は、長い時代をかけて培われた庶民と寺院の深いつながりを感じさせてくれる。参拝とあわせて市をぶらりと巡るのが、地元流の東寺の楽しみ方だ。
アクセスと周辺情報
東寺へのアクセスは非常に便利だ。JR京都駅八条口から徒歩約15分、または近鉄京都線「東寺駅」から徒歩約5分でたどり着ける。近鉄利用であれば奈良方面からのアクセスも容易で、奈良・大阪方面からの日帰り観光にも最適だ。
境内は広く、伽藍内の主要堂宇(金堂・講堂・五重塔初重・宝物館)の観覧には500円の拝観料が必要。宝物館では春と秋の特別公開時期に密教美術の名品が一堂に展示され、普段は収蔵庫に保管されている貴重な仏像や曼荼羅を間近で鑑賞できる。観覧には1〜2時間を目安に見込んでおくとよいだろう。
周辺には東寺近くの商店街や飲食店が点在しており、観光後の食事にも困らない。また、京都駅に隣接しているため、伏見稲荷大社・西本願寺・二条城といった他の名所とも組み合わせやすく、京都観光の出発点または締めくくりとして訪れるのに最適な立地だ。日本仏教の真髄に触れ、千年の都・京都の奥深さを体感する旅を、東寺から始めてみてはいかがだろうか。
アクセス
京都府京都市内、最寄り駅またはバス停からアクセス
営業時間
9:00〜17:00
料金目安
300〜600円