北海道の最果て、日本海に浮かぶ小さな島・礼文島。稚内港からフェリーで約2時間、その先に待ち受けるのは、日本のどこにも似ていない野性的な花と海の風景だ。「花の浮島」の名のとおり、標高わずか490メートルの島でありながら、高山にしか咲かないはずの花々が海抜0メートル付近から咲き誇るという、世界でも稀な自然環境をもつ場所である。
「花の浮島」と呼ばれる理由
礼文島は北緯45度付近に位置し、夏でも冷涼な気候が続く。この気候条件が、通常は標高2,000メートル以上の高山帯にしか見られないような植物を、海岸近くの低地にまで分布させている。その結果、島内のあちこちで高山植物が咲き乱れるという、他の地域では見られない特異な植生環境が生まれた。
礼文島固有の植物として特に名高いのが「レブンアツモリソウ」だ。絶滅危惧種に指定されているこの野生のランは、5月下旬から6月中旬にかけて淡いピンク色の花を咲かせ、国内外の植物愛好家が一目見ようと訪れる。また「レブンウスユキソウ」はアルプス地方のエーデルワイスに近縁の植物で、礼文島の固有変種として知られている。島内には約300種もの高山植物が自生しており、歩くたびに新しい発見がある。
トレッキングコースと絶景スポット
礼文島の魅力を最大限に体感するには、島内のトレッキングコースを歩くのが最善だ。島の西岸に沿って延びる「礼文島8時間コース」は、北端のスコトン岬から南の香深港まで島を縦断する全長約25キロの本格的なルートで、変化に富んだ海岸線と花咲く草原を一日かけて楽しめる。体力と時間に自信がある人にとっては、この島ならではの充実したトレッキング体験となる。
体力や時間に応じた短縮コースも複数整備されており、たとえば「桃岩展望台コース」は約4時間で歩ける人気のルートだ。桃の実を思わせる奇岩「桃岩」の周辺は初夏になると一面のお花畑に変わり、眼下には紺碧の日本海が広がる。晴れた日には利尻富士の雄姿も望め、圧倒的な絶景として多くのハイカーの心に刻まれている。
また、北端に位置する「スコトン岬」は道路でアクセスできる日本最北の岬の一つとして知られ、荒々しい断崖と果てしなく続く海の眺めが訪れる人を圧倒する。岬の沖合にはトド島が浮かび、天気が良ければ野生のトドの姿を望遠鏡で確認できることもある。
季節ごとの楽しみ方
礼文島への観光シーズンは概ね5月から9月にかけてで、それぞれの時期に異なる表情を見せてくれる。
**5月〜6月上旬**は高山植物の開花が始まる季節で、レブンアツモリソウをはじめとする希少な花が咲き揃う。人出はまだ少なく、静かな島の雰囲気の中でゆっくりと花を観察できる。
**6月中旬〜7月**が最も花の種類が多く、島が最もにぎやかになるピークシーズンだ。レブンウスユキソウやチシマフウロ、エゾカンゾウなどが一斉に咲き、島全体が色とりどりの花に彩られる。トレッキングツアーも多数催行され、ガイド付きで花の名前や生態を学びながら歩ける機会も豊富だ。
**8月〜9月**は観光客が落ち着き始め、涼しい気候のなかで静かに島を巡りたい旅行者に向いている。秋の気配が漂い始める9月には、草原が黄金色に染まり始め、また違った風情を楽しめる。
なお、島は積雪期を含む10月から4月にかけてはフェリーが減便・運休になる場合があり、宿泊施設や飲食店の多くも閉まる。訪問は5月から9月に絞るのが現実的だ。
ウニと昆布——豊かな海の幸
礼文島は花の名所であると同時に、北海道有数の海の幸の宝庫でもある。特に「礼文島のウニ」は全国的に名高く、毎年6月から8月の解禁シーズンには島内の食堂や民宿でウニ丼が提供される。透き通るような甘みと濃厚なコクは、産地でこそ味わえる格別の一品だ。バフンウニとムラサキウニの両方が採れ、それぞれ風味の違いを食べ比べるのも楽しみのひとつだ。
また昆布の産地としても有名で、島内では昆布干しの光景が夏の風物詩となっている。土産物として喜ばれる乾燥昆布や昆布関連加工品は港周辺の店で購入でき、旅の記念にもなる。
アクセスと島内移動
礼文島へは、JR稚内駅から徒歩圏にある稚内フェリーターミナルから、ハートランドフェリーが運航している。所要時間は稚内〜香深港間で約2時間。利尻島経由のルートも利用できるため、両島を組み合わせて訪れる旅行者も多い。
島内の移動は路線バスが香深港を中心に主要スポットを結んでいるが、本数は少ないため事前に時刻表を確認しておきたい。レンタカーやレンタサイクルも利用でき、自分のペースで島を巡るなら借り物の交通手段が便利だ。宿泊施設は香深地区に集中しており、民宿から旅館まで選択肢がある。人気の時期は早々に満室になるため、特に6月から7月は早めの予約を心がけたい。礼文島は決してアクセスが容易な島ではないが、だからこそ辿り着いたときの感動はひとしお大きく、訪れた旅人の心に長く残り続ける場所だ。
アクセス
北海道礼文町内、最寄り駅またはバス停からアクセス
営業時間
散策自由
料金目安
船賃別途