日本の名庭園の中でも、特別な輝きを放つ場所がある。島根県安来市に佇む足立美術館は、米国の日本庭園専門誌「ジャーナル・オブ・ジャパニーズ・ガーデニング」が実施する庭園ランキングで、2003年から20年以上にわたって日本一の座を守り続けている。秋の紅葉シーズンには、その名園がさらなる高みへと昇華する。
日本一の庭園を誇る足立美術館の歴史
足立美術館は、地元・安来市出身の実業家・足立全康が1970年に開館した美術館である。戦後の混乱期を経て事業で成功した足立全康は、幼少のころから愛した郷里の山河への思いを胸に、「庭園もまた一幅の絵画である」という信念のもと、この美術館を創設した。
開館当初から庭園の美しさには定評があったが、その名声を国際的なものにしたのは、米国の権威ある専門誌による評価だった。日本庭園の美を世界に伝えるこのランキングで、足立美術館は他の名だたる名園を押しのけ、圧倒的な支持を集め続けている。その理由は、庭園の完成度の高さだけでなく、美術館の所蔵品——とりわけ近代日本画の巨匠・横山大観の作品——と庭園が一体となって生み出す美の世界にある。
庭園の総面積は約5万坪。敷地内には「枯山水庭」「苔庭」「池庭」「白砂青松庭」「亀鶴の滝」「生の額絵」「生の掛軸」など、趣の異なる複数の庭園空間が広がっており、それぞれが独立した美を持ちながらも、全体として調和のとれた世界観を形成している。
紅葉が彩る錦秋の庭園美
秋の足立美術館は、一年の中でも最も劇的な変貌を遂げる季節だ。例年10月下旬から11月中旬にかけて見ごろを迎える紅葉は、庭園を取り囲む山々の木々とともに、敷地全体を燃えるような赤や橙、黄金色に染め上げる。
特に見逃せないのが「枯山水庭」の紅葉だ。白砂の上に置かれた岩と苔が、紅葉した木々と対比を成し、禅の美学が凝縮されたような光景を生み出す。静寂の中に緊張感が宿るこの庭は、秋になると白砂の白、苔の深緑、そして紅葉の赤が三位一体となって、他に類を見ない絵画的な美しさをあらわにする。
また、館内の大窓を通して庭園を眺める仕掛けも、秋ならではの感動を与えてくれる。「生の額絵」と呼ばれる窓は、窓枠が文字通り絵画の額縁となり、その中に庭園の風景が一枚の日本画のように収まる。横山大観が描いた山水画を彷彿とさせるこの光景は、美術館という場所ならではの演出として、多くの来館者を魅了してきた。
横山大観コレクションと庭園の対話
足立美術館の魅力を語る上で、所蔵する美術品を欠かすことはできない。特に横山大観の作品は、世界最大規模のコレクションとして知られており、季節に応じて展示内容が入れ替わる。
大観の代表作「紅葉」や「山水十二題」など、秋をテーマにした作品が多く所蔵されており、秋の訪問では庭園の紅葉と画中の紅葉が呼応するような、不思議な体験ができる。縁側に腰を下ろして庭園を眺めていると、まるで自分が大観の絵画の中に入り込んだかのような感覚を覚えるという来館者も多い。
館内には大観作品のほか、竹内栖鳳、橋本関雪、川合玉堂など近代日本画壇を代表する画家の作品が多数収蔵されている。茶道具や陶芸品のコレクションも充実しており、日本の美術・工芸を幅広く鑑賞することができる。庭園だけでなく、館内の展示を合わせてゆっくりと回ることで、日本美の本質に触れるような半日の旅を過ごすことができる。
四季折々の楽しみ方
足立美術館の庭園は、一年を通じて異なる表情を見せる。春には庭園の各所に芝桜や躑躅(つつじ)が咲き誇り、緑の苔庭と鮮やかなコントラストを生む。初夏は深緑の木々が庭全体に瑞々しい生命感をもたらし、池庭の水面に映る緑の反射が清涼感を漂わせる。
夏の朝一番の訪問もおすすめだ。早朝から開館する美術館では、夏の陽光が庭園に降り注ぐ前の静かな時間帯に、冷涼な空気の中で庭園を独り占めにするような贅沢な体験ができる。
そして冬。雪が積もった枯山水庭は、白砂と雪の白が溶け合い、水墨画の世界そのものとなる。この雪化粧の庭園を見るために、わざわざ冬に訪れるリピーターも少なくない。年間を通じて美しい庭園ではあるが、やはり紅葉の秋と雪の冬は格別の美しさがあり、足立美術館の季節の魅力を象徴している。
アクセスと周辺の見どころ
足立美術館は島根県安来市に位置し、JR安来駅から美術館の無料シャトルバスが運行している(所要時間約20分)。島根県の中心都市・松江からは車で約30分、鳥取砂丘や出雲大社といった山陰の主要観光地からのアクセスも良好で、山陰旅行の際のハイライトとして組み込みやすい立地にある。
安来市自体も魅力的な観光地で、隣接する荒島地区には安来節の発祥地として知られる文化的背景がある。「安来節」は島根を代表する民謡であり、どじょうすくいの踊りで全国的に知られている。安来節演芸館では伝統芸能の公演を観覧することもでき、美術館の訪問と合わせて地域の文化を深く知る旅ができる。
また、安来市内には古代の鉄生産で栄えた歴史を伝える「和鋼博物館」もある。日本刀の材料となる玉鋼(たまはがね)の生産地として知られたこの地域の歴史に触れることで、足立美術館が体現する日本の伝統美の背景をより深く理解することができる。
宿泊を検討するなら、松江や米子には多彩な宿泊施設が揃っており、山陰随一の温泉地・皆生温泉(米子市)もアクセス圏内にある。紅葉シーズンの週末は大変混み合うため、開館直後の早い時間帯に訪れるか、平日の訪問をおすすめする。
足立美術館の紅葉庭園は、単なる観光名所を超えた、日本の美の精髄が凝縮された場所だ。横山大観の作品と対話しながら、額縁の中に広がる錦秋の世界に身を置くとき、「庭園もまた一幅の絵画である」という足立全康の言葉が、深く心に沁みわたる。
アクセス
JR安来駅から無料シャトルバスで20分
営業時間
9:00〜17:00
料金目安
2,300円