埼玉県所沢市の西部に広がる狭山丘陵。スタジオジブリの名作『となりのトトロ』の舞台モデルとも言われるこの丘陵地帯に、子供たちが思いきり自然と向き合える冒険遊び場が存在します。管理された遊具ではなく、森そのものが子供たちの遊び道具となるこの場所は、現代の子育て環境の中でますます輝きを増しています。
トトロの森とは――都市近郊に残された奇跡の緑地
狭山丘陵は、東京都と埼玉県にまたがる丘陵地帯で、面積は約3,500ヘクタールにおよびます。高度経済成長期の開発の波をくぐり抜け、コナラやクヌギの雑木林、谷津田(やつだ)と呼ばれる谷間の水田が今も残るこの地は、都市近郊では稀有な自然環境として高い評価を受けています。
「トトロの森」という愛称が定着したのは1990年代のことです。スタジオジブリの映画制作者たちがこの狭山丘陵を訪れ、里山の風景が『となりのトトロ』の世界観のヒントになったと伝えられたことから、地域住民や自然保護団体がこの名称を広めました。その後、「公益財団法人トトロのふるさと基金」が設立され、民間の寄付によって里山の土地を購入・保全する活動が続けられています。現在は100か所を超える「トトロの森」指定地が存在し、開発から守られた緑地として地域のシンボルになっています。
プレーパークとは何か――子供の「やってみたい」を育む場所
プレーパークとは、子供が自分の意思で自由に遊ぶことができる冒険遊び場のことです。管理された遊具が並ぶ一般的な公園とは根本的に発想が異なり、子供が「やってみたい」と思ったことをできる限り実現できる環境を整えることを理念としています。
この考え方はデンマークを発祥とし、1943年にコペンハーゲン郊外に世界初の冒険遊び場が誕生しました。日本には1979年に世田谷区の羽根木公園で初めて導入され、以来全国各地に広がっています。
所沢のトトロの森周辺のプレーパークでは、「プレーリーダー」と呼ばれるスタッフが常駐しています。プレーリーダーは子供たちに指示を出すのではなく、子供が自分で考え、試行錯誤しながら遊ぶ様子を安全に見守る存在です。怪我のリスクをゼロにすることが目的ではなく、子供が自ら危険を判断し、乗り越える力を育むことを重視しています。
森の中でできること――木登りから焚き火まで
ここでの遊びに決まった形はありません。子供たちは自分のペースで、やりたいことを選びます。
木登りは、多くの子供が最初に挑戦する遊びの一つです。地面から少し離れた高さで世界を見下ろす感覚は、遊具では決して得られない達成感をもたらします。慣れてくれば、より高い枝を目指してじっくりと木と向き合うようになります。
秘密基地づくりも大人気です。落ちている木の枝や葉を集め、仲間と協力して自分たちだけの空間を作り上げる作業は、創造力と協調性を自然と育みます。どんな設計にするか、どう組み立てるか、子供たちは真剣に話し合いながら手を動かします。
泥遊びも欠かせません。服が汚れることを気にせず、土や水と格闘する体験は、現代の子供にとってますます貴重なものになっています。感触を楽しみながら泥のケーキや川を作る子供たちの集中力は、目を見張るものがあります。
焚き火は、プレーリーダーの見守りのもとで体験できる特別な遊びです。火の扱い方を学び、自分で火を育てる体験は、安全管理が厳しい現代の子育て環境では容易に経験できないことです。焼き芋や簡単な調理を楽しめる場合もあり、食の原点に触れる機会にもなっています。
四季を通じて変わる森の表情
トトロの森の自然は、季節ごとに全く異なる顔を見せます。一年を通じて訪れることで、子供たちは自然のサイクルを体感できます。
春(3〜5月)は、コナラやクヌギの若葉が芽吹き、雑木林全体が明るい黄緑色に染まります。草花が一斉に開き、チョウやハチといった昆虫も活動を始めるため、虫探しに絶好の季節です。タンポポやカタバミを手で摘みながら、植物の名前を覚えるのも楽しい体験です。
夏(6〜8月)は、緑が深まり、森の中は木陰が多く涼しく感じられます。セミの声が響き渡り、カブトムシやクワガタが活動する時期でもあります。水辺でのザリガニ捕りや沢遊びは夏の定番で、子供たちは時間を忘れて夢中になります。
秋(9〜11月)は、どんぐり拾いのベストシーズンです。コナラやクヌギのどんぐりを拾い集め、コマを作ったり、ままごとの食材にしたりと、秋の里山の恵みを存分に楽しめます。紅葉が始まると森全体がオレンジや赤に染まり、散策するだけでも季節の豊かさを味わえます。
冬(12〜2月)は、落葉した木々の間から空が見え、普段は気づかない森の骨格が姿を現します。焚き火の温かさがより一層ありがたく感じられる季節で、焼き芋を囲んで体を温める体験は格別です。霜柱を踏む感覚や、土の冷たさといった冬ならではの感触遊びも楽しめます。
子供が育つ場所、親が学ぶ場所
プレーパークを訪れた保護者からよく聞かれるのが、「子供のこんな姿を見たことがなかった」という驚きの声です。普段は大人しかった子が夢中で木に登り、友達が少ない子が初対面の子と協力して秘密基地を作り始める――自然の力と、子供同士の関わりが生み出す変化は、親が想像する以上のものがあります。
プレーリーダーたちは、子供が求めてきたときにはしっかりサポートしますが、基本的には子供の自主性を尊重します。大人が「危ない」と感じる場面でも、すぐに介入するのではなく、子供自身が状況を判断するまで見守ることを大切にしています。この姿勢が、子供の「自分でできた」という自信を積み重ねていきます。
保護者にとっても、子供と一緒に自然の中で過ごす時間は、日常の忙しさから離れ、親子の関係をゆっくり見つめ直すきっかけになります。スマートフォンを手放し、子供の遊びをただ見守る時間の豊かさを、多くの保護者がここで発見しています。
アクセスと周辺情報
所沢市内のプレーパークへは、西武池袋線または西武新宿線の所沢駅が最寄りの主要ターミナルです。所沢駅からはバスや自転車でアクセスできます。狭山丘陵周辺には複数のプレーパーク活動エリアが点在しているため、訪問前に各団体の公式情報や開催スケジュールを確認することをおすすめします。
周辺には「狭山湖(山口貯水池)」や「多摩湖(村山貯水池)」といった美しい湖があり、散策コースとして人気があります。また、「所沢航空発祥記念館」は日本の航空史を学べる博物館で、子供から大人まで楽しめるスポットです。
プレーパークは天候や季節によって活動内容が変わることがあります。汚れてもいい服装と着替えを持参し、長靴や運動靴など動きやすい靴で訪れましょう。子供が自然の中で思いきり遊べるよう、大人も「汚れること」を楽しむ気持ちで出かけてみてください。トトロの森に抱かれたこの場所は、都心の日常では決して経験できない「本物の遊び」を、子供たちに届けてくれます。
アクセス
西武池袋線小手指駅からバスで15分
営業時間
10:00〜16:00(土日祝)
料金目安
無料