
中房温泉 (源泉湯宿を守る会)
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長野県・穂高の山懐に抱かれた中房温泉は、北アルプス登山の玄関口として知られるとともに、「本物の温泉」を求める湯愛好家たちが全国から訪れる秘湯である。源泉湯宿を守る会の会員宿として、加水・加温・循環を一切行わない純粋な源泉掛流しにこだわり続ける姿勢が、この宿の揺るぎない個性を形成している。
源泉数日本一が誇る、湯の宝庫
中房温泉が他の温泉地と一線を画す最大の特徴は、その圧倒的な源泉の数にある。日本一とも称される複数の源泉を擁し、野天風呂と内風呂合わせて14のお風呂が点在する。しかもそのすべてが、湧き出た源泉をそのまま湯船へと注ぐ「源泉掛流し」。加水も加温も一切行わず、大地が生み出したままの湯を体に受けることができる。各浴槽によって泉質や温度、色合いが微妙に異なり、湯めぐりをするだけで一日が豊かに過ぎていく。
泉質は硫黄を含む単純硫黄泉を中心に、複数の成分が混在する。白みがかった湯色や硫黄の香りが、いかにも「効く温泉」であることを五感に語りかけてくる。神経痛や筋肉痛、慢性皮膚疾患、疲労回復など、古くから湯治目的で利用されてきた歴史がある。現代においても、登山の疲れを癒やすためだけでなく、純粋に湯治・静養を目的として長逗留する客も少なくない。
野趣あふれる野天風呂の魅力
中房温泉の名物ともいえるのが、山の自然をそのまま取り込んだ野天風呂の数々だ。岩や木々に囲まれた露天の湯船に身を沈めると、季節ごとに移ろう北アルプスの山岳風景が目の前に広がる。春には残雪を抱いた峰々、夏には深緑の木立、秋には燃えるような紅葉、冬には白銀の静寂——どの季節を選んでも、絵のような景色の中で湯浴みを楽しめる。
野天風呂は混浴のものも含め複数設けられており、時間帯や曜日によって男女の利用区分が変わる場合もある。事前に浴場の案内を確認しながら、自分好みの湯船を探す「湯めぐり」が中房温泉の醍醐味だ。内風呂は木や石を使った落ち着いた造りで、外の喧騒を忘れ、じっくりと湯と向き合う時間を提供してくれる。
山の宿ならではの宿泊と食事
標高約1,460メートルという高所に立つ宿だけに、施設全体に山小屋的な素朴さと温もりが漂う。部屋は和室を基本とし、過度な装飾を排した簡素な作りが、むしろ山の湯宿らしい風情を醸し出している。Wi-Fiや最新設備よりも、純粋に温泉と山の空気を楽しみたいという旅人にとって、この環境は理想的だ。
食事は信州の食材を中心とした山の幸料理が提供される。長野の高原野菜や川魚、山菜などを活かした素朴な献立が、一日の活動で疲れた体に染み渡る。湯上がりに体が温まった状態で味わう夕食は、ひときわ格別である。量・質ともに山の宿として十分な内容で、翌日の登山や観光に向けてしっかりと英気を養うことができる。
燕岳登山の拠点として
中房温泉は、北アルプスの人気峰・燕岳(つばくろだけ、標高2,763m)への登山口として全国の登山者に知られている。中房温泉から燕山荘を経由して燕岳頂上を目指す「合戦尾根ルート」は、日本三大急登のひとつに数えられる健脚向けのルートだ。前泊して体を温泉で整え、翌朝早出しで山頂を目指すスタイルが定番で、夏山シーズンには多くの登山者が宿に集まる。
燕岳の花崗岩が織りなす白い山肌とハイマツの緑、コマクサの群落など、高山植物や絶景を楽しめる人気ルートだけに、宿では登山者向けの早朝弁当の手配なども対応している場合がある。下山後に温泉で筋肉の疲れを流すという使い方も、登山者には人気が高い。
アクセスと利用シーン
最寄り駅はJR大糸線の穂高駅で、そこから車で約45分。山道を登った先に宿が現れる道中自体も、北アルプスの大自然を感じる旅の一部となる。無料駐車場を40台分完備しており、マイカー利用者にも安心だ。シャトルバスや送迎の有無については、宿への事前確認を推奨する。
利用シーンは幅広い。夏から秋にかけての登山・ハイキングとのセット旅行、冬の静かな雪見温泉、疲れを癒やすための湯治滞在、温泉好きの仲間との「源泉めぐり」など、目的に応じてさまざまな楽しみ方がある。都市の喧騒から切り離された山中の温泉宿で、本物の湯に包まれる時間は、日常の疲れを根こそぎ洗い流してくれるだろう。加水も加温もない、大地からそのまま湧く源泉——それを守り続ける中房温泉の姿勢こそが、何度でも訪れたくなる理由である。
アクセス
穂高駅よりお車で45分
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