由布院温泉といえば、静かな山あいに湧く名湯と、どこか懐かしい里山の風景が思い浮かぶ。しかしこの温泉地には、旅人を何度でも引き寄せる「もうひとつの顔」がある。JR由布院駅から金鱗湖へと続く約800メートルの散策路、湯の坪街道だ。温泉に浸かるだけでは終わらない、ここでしか出会えないひと品を探す旅が始まる。
由布院が育んだ、こだわりの商業文化
大分県由布市に位置する由布院温泉は、別府と並ぶ九州屈指の温泉地でありながら、その発展の方向性は大きく異なる。高度経済成長期、大型ホテルや歓楽施設に頼らない「滞在型」のリゾートを目指した地元の宿主たちの決断が、今日の由布院の景観と文化を作り上げた。その精神はショッピングストリートにも息づいており、湯の坪街道には画一的なチェーン店ではなく、オーナー自らが素材や製法にこだわりを持つ個人店が軒を連ねる。温泉地ならではの「上質なくつろぎ」と「本物を求める旅人の目」が、このストリートの商業文化を育ててきたのだ。
由布岳を背景に広がる散策路の風景
湯の坪街道の魅力は、店そのものだけにとどまらない。街道を歩きながら振り返ると、標高1,583メートルの由布岳が堂々とした姿で空にそびえている。「豊後富士」とも呼ばれるその均整のとれた山容は、季節や時間帯によって表情を変え、旅人の目を楽しませ続ける。街道沿いには木製の看板や花壇が設けられ、石畳の小道が続く区画もある。景観を統一するためにネオンサインや派手な装飾を控えた店構えが多く、歩くだけで絵になる風景が続く。観光地でありながらどこか落ち着いた雰囲気が漂うのは、こうした景観への配慮が積み重なった結果だ。人力車が行き交う姿も見られ、ゆったりとした時間の流れを感じさせてくれる。
一軒一軒に個性が宿るショップ探し
湯の坪街道には約70軒ものショップとカフェが集まり、それぞれが異なる専門性を持っている。ステンドグラスの工房では、職人が丁寧に切り出したガラスピースを組み合わせた繊細な作品が並び、旅の記念品として人気が高い。オルゴール専門店では、曲目や箱のデザインをある程度選べる品も扱っており、贈り物を選ぶ楽しみがある。大分県の伝統工芸である竹細工の専門店では、日常使いできる丸みを帯びた籠や器が手に取れる価格で並んでいる。地元作家の手吹きガラスや陶芸作品を扱うギャラリー兼ショップも点在しており、九州の手仕事の豊かさを改めて実感させてくれる。手作りジャムの店では、大分県産の柑橘類や山の果実を使ったジャムが小瓶に詰められて販売されており、地元の素材感がそのまま味になっている。どの店も規模は小さいが、品揃えと接客に店主の人柄が滲み出ており、立ち話から思わぬ地元情報を得ることも少なくない。
食べ歩きで味わう由布院の旬
湯の坪街道のもうひとつの楽しみが、歩きながらつまめるグルメの数々だ。由布院の代名詞ともなったプリンは、地元産の卵と牛乳を使った濃厚な味わいで、とろりとしたカラメルとのバランスが絶妙だ。有名店の前には行列ができることも多く、ひとつ手に入れれば街道散策のよき相棒になる。ロールケーキは由布院の乳製品の豊かさを活かした菓子のひとつで、シンプルな素材の組み合わせながら飽きのこない味わいが支持されている。季節限定のソフトクリームや揚げたてのコロッケ、大分名物のとり天を手軽に味わえる店も点在しており、食べ歩きのルートを自分なりに組み立てる楽しさがある。甘いものから惣菜系まで幅広い選択肢があるため、複数人で訪れてもそれぞれが好みの一品を見つけられる。
季節ごとに変わる街道の表情
湯の坪街道は訪れる季節によって、まったく異なる顔を見せてくれる。春は由布岳の残雪と山麓に咲く花々のコントラストが美しく、街道沿いにも花鉢が並び始める。夏は由布院の盆地特有の澄んだ緑が街道を彩り、木陰での食べ歩きが心地よい。秋は紅葉と由布岳の青い空が組み合わさり、写真映えする風景が随所に広がる。冬は霧が発生しやすい由布院の気候によって、幻想的な朝の景色が楽しめる。年間を通じて比較的観光客が多い地域ではあるが、平日の午前中や秋の紅葉シーズン後などは比較的ゆっくりと散策できる。季節限定のスイーツや工芸品も多く、「前回と同じ店でも違う発見がある」と繰り返し訪れるリピーターが多いのも、この街道の特徴だ。
アクセスと周辺情報
湯の坪街道へはJR久大本線「由布院駅」が最寄り駅となる。博多駅からは特急「ゆふいんの森」で約2時間、大分駅からは特急で約50分でアクセスできる。由布院駅の観光案内所では無料の散策マップを入手でき、街道の主要なショップ情報も掲載されている。街道の終点には金鱗湖があり、早朝に湯けむりが立ち上る幻想的な湖面の風景で知られている。街道沿いには有名旅館や日帰り入浴施設も点在しており、ショッピングの後に温泉で疲れを癒すプランも組みやすい。駐車場は由布院駅周辺にいくつかあるが、週末や連休は混雑するため公共交通機関の利用が便利だ。ショップの多くは10時から17時頃の営業で、夕方以降は閉店する店が増えるため、散策は午前中から昼過ぎにかけて計画するのがおすすめだ。
アクセス
JR由布院駅から徒歩すぐ〜約15分
営業時間
9:30〜17:30(店舗により異なる)
料金目安
300〜5,000円