大分県南西部に広がる九重連山は、九州を代表する山岳地帯のひとつです。標高1,000メートルを超える峰々が連なり、豊かな自然と四季折々の絶景が登山者や観光客を惹きつけてやみません。初めて訪れる人も、何度も足を運ぶリピーターも、その都度新たな発見がある──そんな懐の深さがこの山域の魅力です。
九重連山とは──九州の屋根に広がる山岳ワールド
九重連山は大分県玖珠郡九重町を中心に広がる火山群で、阿蘇くじゅう国立公園に含まれます。「くじゅう」と呼ばれるこのエリアには、久住山(1,786m)・中岳(1,791m)・稲星山(1,774m)・白口岳(1,720m)など、標高1,700メートルを超える峰が10座以上連なっています。なかでも中岳は九州本土の最高峰として知られ、山頂からは広大な山並みが一望できます。
もとは激しい火山活動によって形成されたこの山々は、現在も一部の箇所で噴気が見られ、大地のダイナミズムを間近に感じることができます。登山道は整備が行き届いており、初心者向けから本格的な縦走コースまで多様なルートが用意されているため、幅広い層の登山者に愛されています。
ミヤマキリシマ──高山を染めるピンクの絨毯
九重連山を語るうえで欠かせないのが、ミヤマキリシマの大群落です。ミヤマキリシマはツツジ科の高山植物で、九州の火山性高山帯に自生する種。毎年5月下旬から6月中旬にかけて開花の最盛期を迎え、平治岳(ひじだけ)や大船山(たいせんさん)の斜面をピンク色に染め上げます。
とくに平治岳(1,643m)の山頂付近に広がる群落は、日本有数の規模を誇ると評されます。晴れた日には眼下に広がるピンクの海と青空のコントラストが息をのむほど美しく、毎年多くの登山者がこの光景を目当てに九重を訪れます。開花時期の週末は登山口が混雑するため、早朝出発が賢明です。開花状況は年によって異なるため、事前に観光協会や山小屋の最新情報を確認することをおすすめします。
坊ガツル湿原──ラムサール条約が認めた貴重な自然
九重連山のトレッキングで忘れてはならないのが、坊ガツル湿原です。標高約1,240メートルに位置するこの盆地状の湿原は、九州最大の中間湿原として、2005年にラムサール条約登録湿地に認定されました。
湿原には多様な植生が広がり、希少な植物が自生しています。初夏にはワタスゲの白い穂が風に揺れ、秋にはススキの銀色の穂波が湿原を彩ります。坊ガツルには法華院温泉山荘という山小屋があり、登山後に温泉に浸かることができるのも登山者には嬉しいポイントです。長者原(ちょうじゃばる)から坊ガツルを経由し、中岳や久住山を目指す縦走コースは、九重を代表する人気ルートのひとつとして多くの登山者に親しまれています。
四季の楽しみ方──春夏秋冬それぞれの表情
九重連山は季節ごとに表情を変え、何度訪れても飽きることがありません。
春(4〜5月)は残雪が残る山頂付近と新緑のコントラストが美しい時期。ミヤマキリシマの開花前の静かな山歩きを楽しめます。夏(6〜8月)はミヤマキリシマが見頃を迎える6月が最大のハイシーズンで、7〜8月には高山植物が次々と咲き、湿原も生き生きとした緑に包まれます。
秋(10〜11月)は夏と並ぶ人気の季節です。大船山の御池(おいけ)周辺の紅葉は特に名高く、赤・橙・黄が折り重なる山肌を目当てに多くの登山者が訪れます。山頂では初雪が降ることもあり、雪化粧した山々の姿も格別です。冬(12〜2月)は雪と氷に覆われた銀世界を楽しめる季節。本格的な雪山装備が必要になりますが、澄んだ冬空のもとで見る白銀の九重は、他の季節とはまた異なる荘厳な美しさを持っています。
主要な登山ルートとアクセス
九重連山への主な登山口は、牧ノ戸峠(まきのとたお)と長者原の2か所です。
牧ノ戸峠(標高1,330m)は中岳・久住山方面への最短ルートの起点として人気が高く、駐車場やレストハウスも整備されています。ここから中岳山頂までは往復で約4〜5時間のコースで、登山経験が少ない方でも挑戦しやすいルートです。長者原は坊ガツル湿原への入口で、九重連山の自然を紹介するビジターセンターもあります。坊ガツルを経由して久住山や中岳に向かう場合は、往復で7〜8時間程度を見込んでおきましょう。
アクセスはJR久大本線の豊後中村駅からバスを利用するか、自家用車で大分自動車道・九重インターチェンジを利用するのが一般的です。登山後は周辺に温泉施設が豊富にあり、筋湯温泉・壁湯温泉・宝泉寺温泉など個性豊かな湯で疲れた足を癒やすことができます。
九重夢大吊橋と周辺の見どころ
登山のみならず、観光スポットとしても見逃せないのが「九重夢大吊橋」です。2006年に開通したこの吊橋は、長さ390メートル・高さ173メートルを誇り、歩道専用の吊橋として日本有数の規模を誇ります。橋の上からは鳴子川渓谷や震動の滝(雌滝・雄滝)を一望でき、新緑・紅葉・雪景色と季節によって異なる絶景を楽しめます。
九重エリアには温泉宿が多数点在しており、登山と温泉をセットで楽しむ旅が根強い人気です。日帰りでも十分楽しめますが、山小屋や温泉宿に宿泊して1泊2日のゆったりとした山旅を組めば、九重連山の自然をより深く堪能することができます。雄大な山並みと湿原、そして花々が奏でる自然の調和──九重連山は、訪れるたびに新たな感動をもたらしてくれる、九州きっての山岳エリアです。
アクセス
JR豊後中村駅からバスで50分
営業時間
散策自由
料金目安
無料(吊橋500円)