大分県豊後高田市に足を踏み入れると、街全体がまるでセピア色の写真の中に迷い込んだかのような不思議な感覚に包まれる。「昭和の町」と呼ばれるこの場所は、かつて栄えた商店街を昭和30年代の姿によみがえらせたユニークな観光地だ。懐かしさと新鮮さが交差するこの通りには、日本全国からリピーターが絶えない。
昭和の町が生まれたわけ
豊後高田市の商店街は、かつて国東半島の物資の集散地として大いに栄えた。しかし高度経済成長以降、モータリゼーションの進展や郊外型大型店の台頭により、商店街は急速に空洞化していった。シャッターが並ぶ通りに活気を取り戻そうと、地元の商店主たちが立ち上がったのが2001年のことだ。
彼らが選んだ方法は、消えた過去を嘆くのではなく、その過去を丸ごと観光資源へと変えることだった。「昭和30年代の商店街をそのまま残す」というコンセプトのもと、古い看板や陳列ケースを磨き直し、昭和の雰囲気を色濃く残す店舗を全国から募集。その取り組みは評判を呼び、「日本観光まちづくり大賞」の最優秀賞を受賞するなど、地方再生の成功モデルとして全国的に注目を集めるようになった。廃れかけた商店街が、年間50万人以上を集める観光名所へと変貌を遂げたのである。
商店街を歩く醍醐味
メインストリートは約400メートルにわたって続き、30を超える個性豊かな店舗が軒を連ねる。一歩踏み出せば、ホーロー看板や木製の陳列棚、年季の入ったショーウィンドウが視界に飛び込んでくる。
特に人気を集めるのが、ブリキのおもちゃや昭和の雑貨を扱う専門店だ。ゼンマイ仕掛けのロボット、セルロイド製の人形、フリクションカーなど、かつて子どもたちが夢中になったおもちゃが所狭しと並ぶ。懐かしのポスターや映画のプログラム、昭和の家庭にあったような食器類も充実しており、昭和世代には記憶の扉を開く品々に出会えるだろう。若い世代にとっては、教科書やドラマでしか見たことのなかった時代を立体的に体験できる場所となっている。
駄菓子屋も欠かせない立ち寄りスポットだ。めんこ、ビー玉、紙風船といった昭和の定番おもちゃのほか、10円・20円単位で買える懐かしの駄菓子が店頭に並ぶ。子どもから大人まで、気づけば何十分も店の前で品定めをしてしまうほどの引力がある。
昭和ロマン蔵:時代の記憶が眠る場所
商店街の一角にそびえる「昭和ロマン蔵」は、かつての蔵を改装した複合展示施設で、昭和の町観光の核となるスポットだ。建物自体が歴史的な風格を持ち、外観だけでもカメラを向けたくなる。
館内には昭和30年代の一般家庭を再現したジオラマや展示が充実している。当時のちゃぶ台を囲む家族の様子、黒電話が置かれた茶の間、石炭ストーブが据えられた台所など、細部まで丁寧に再現されたセットは圧巻だ。当時の映画ポスターや雑誌の表紙、テレビCMの写真なども展示されており、大衆文化の変遷をたどることができる。
展示品は実際に生活の中で使われていた生活用品が中心で、博物館のような距離感ではなく、手の届く場所に昭和が感じられるのが特徴だ。「これ、おばあちゃんの家にあった」「父が子どもの頃に持っていたおもちゃだ」といった声が至るところから聞こえてくる。入場料は比較的リーズナブルで、じっくり観覧しても1〜2時間で回ることができる。
昭和グルメで舌も昭和へ
「昭和の町」の楽しみは買い物だけにとどまらない。昭和時代の味を再現したグルメも、この場所ならではの体験だ。
コッペパンの専門店は、豊後高田昭和グルメの代名詞的存在だ。昭和の給食を彷彿とさせるコッペパンに、定番のピーナッツバターやジャムはもちろん、揚げパン風のシュガーコーティングや、地元食材を使ったオリジナルの具材を挟んだものまで、バリエーション豊かなメニューが揃う。行列ができることも多いため、早めの来店がおすすめだ。
クリームソーダも見逃せない。昭和の喫茶店を模した店内で供される、鮮やかなグリーンのソーダにバニラアイスを乗せたクリームソーダは、ビジュアルも昭和そのもの。懐かしの雰囲気の中でゆっくりと味わえば、タイムスリップ感がさらに高まる。
そのほかにも、昔ながらの製法で作る豆腐や、地元大分の郷土料理を出す食堂など、食の選択肢は幅広い。食べ歩きしながら街を探索するのが、昭和の町の正しい楽しみ方といえるだろう。
季節ごとの楽しみ方
昭和の町は一年を通じて訪れることができるが、季節によって異なる表情を見せる。
春は周辺の桜が見頃を迎え、昭和レトロの街並みと桜のコントラストが美しい。GWは「昭和の町まつり」など特別イベントが開催されることもあり、レトロな衣装を着たスタッフや紙芝居師が登場して、昭和の雰囲気がいっそう盛り上がる。
夏は「真玉海岸」の夕日と組み合わせた観光コースが人気だ。豊後高田市内にある真玉海岸は、干潮時の夕日の美しさが全国的に知られており、昭和の町でのショッピングと合わせて一日で楽しむことができる。
秋は穏やかな気候の中でゆっくりと散策を楽しめる季節だ。観光客も春夏ほど混み合わないため、店主とじっくり話しながら買い物できるのも魅力。冬は昭和の正月飾りや懐かしの羽子板・凧が店頭に並び、年末年始ならではの雰囲気が漂う。
アクセスと周辺情報
豊後高田市へは、大分市内から車で約1時間10分が目安だ。大分自動車道から宇佐ICで降り、国道10号・213号を経由してアクセスする。JRを利用する場合は宇佐駅が最寄り駅となり、そこからバスまたはタクシーで約15〜20分ほどかかる。
周辺には国東半島の文化遺産も点在しており、富貴寺や真木大堂など、奈良時代から続く仏教文化の息吹を感じられるスポットが多い。宇佐神宮も車で30分圏内にあり、全国に4万社以上ある八幡宮の総本社として訪れる価値は十分だ。歴史と昭和レトロを組み合わせた欲張りな旅程を組めるのが、この地域の大きな魅力だ。
昭和の町内には無料または低価格の駐車場が整備されており、車でのアクセスが便利。店舗の営業時間は概ね10時から17時が多いが、店によって異なるため公式サイトでの事前確認を推奨する。半日から1日かけてゆっくりと楽しめる、九州旅行の隠れた名所だ。
アクセス
JR宇佐駅からバスで10分
営業時間
10:00〜17:00
料金目安
500〜3,000円