
紀州備長炭記念公園
GALLERY
田辺市の中心部から北へ、右会津川に沿って上流へ進むと、豊かな山林の澄んだ空気のなかにかすかな燻した香りが漂ってくる。それが紀州備長炭発祥の地、秋津川の入り口だ。紀州備長炭記念公園は、その地に立つ複合体験施設で、炭の歴史・製造工程の見学から、BBQ・風鈴づくり・レストランまで、備長炭を多角的に体験できる。
備長炭という名の由来と江戸への広がり
炭の歴史は古く、日本最古の木炭は旧石器時代の遺跡にまで遡る。製法を各地に伝えたのは、遣唐使として唐に渡った弘法大師・空海とされており、仏典とともに炭焼きの先端技術を持ち帰ったと言われている。「備長炭」という名が生まれたのは江戸時代のこと。品質の高い田辺炭に目をつけた紀州田辺の炭問屋「備中屋長左衛門」が、その名を冠して江戸へ卸したことが始まりだ。火力の強さと持続性が評判を呼び、備長炭の評価は江戸じゅうに知れ渡り、やがて技術は日本各地へ広まっていった。
炭焼き職人の仕事と窯見学
紀州備長炭はウバメガシを炭化した白炭で、固定炭素90%以上・精錬度0〜2度というのが品質基準だ。精錬度は数字が低いほど堅く焼かれていることを示し、電気抵抗で計測される。
その製造は、職人が険しい紀南の山中で自らウバメガシの原木を伐り出すところから始まる。一本一本を丁寧に整え、1〜2週間をかけて炭を焼き上げる。白炭特有の窯も職人の手でつくられており、熱せられた窯の前で真っ黒になりながら作業を続ける姿には素朴な感動がある。施設内では炭焼き窯の見学ツアーや窯出し体験が用意されており、備長炭発見館では製造工程や職人の技を展示で学ぶことができる。
備長炭の驚きの性質
焼き上がった備長炭は鋼鉄ほどの硬度を持ち、断面はまるで磨かれたかのような光沢を帯びる。硬すぎて鋸では切れず、鉈で叩き割って切断するほどだ。叩くと「キーン」というクリアな音色が響き、その特性を活かして風鈴や炭琴(たんきん)と呼ばれる楽器まで作られている。
また、備長炭の内部には無数の微細な孔があり、1gを広げるとテニスコート1面分に相当する面積になる。この孔が周囲の物質を吸着するため、水に入れると匂いや不純物を取り除く浄化作用が生まれる。さらに炭内部のミネラルが溶けだし、まろやかな水に変わるという特性も持つ。
体験プログラム——風鈴づくり・BBQ・梅ジュース
備長炭特有のクリアな音色を活かした風鈴づくりワークショップは、公園の体験プログラムの柱のひとつだ。自分だけの備長炭風鈴を仕上げる工程で、炭の硬さと音の関係を手で確かめることができる。BBQ場では遠赤外線効果の高い備長炭で食材を焼く体験が可能で、表面を均一に素早く焼き上げ、内部の旨味を閉じ込める炭の力を実感できる。梅ジュース作りは地元の特産を使った季節のプログラムとして用意されている。
「食べる備長炭」——レストランの個性的なメニュー
レストランの一番人気は備長炭ラーメン。真っ黒な麺のビジュアルは訪れた人を驚かせる。夏季限定の「冷炭(れいたん)めん」や、和風だしのあっさりとした「梅炭そば」、紀州の郷土食「めはり」も揃う。備長炭コーヒーは、備長炭で丁寧に濾過した水で抽出され、備長炭マドラーでかき混ぜながら味わうスタイルが特徴的だ。炭を「見る・作る・食べる」という体験の流れが、この公園を単なる展示施設とは一線画す存在にしている。
アクセス
JR紀勢本線紀伊田辺駅から車で20分。阪和自動車道南紀田辺ICから県道田辺龍神線経由で龍神村方面へ20分。大阪からは約2時間10分。
営業時間
備長炭発見館:9:00〜17:00(4月〜11月)、9:00〜16:00(12月〜3月)。定休日:水曜日(祝日の場合は翌日に振替)。バーベキュー施設:10:00〜16:00(4月〜10月)、10:00〜20:30(5月〜9月の金土日祝日・祝前日)、予約制。
料金目安
備長炭発見館入館料:大人220円、小人110円、団体(20名以上)大人170円・小人70円。バーベキュー施設は予約制で別途料金。
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