
日本のエーゲ海とも称される小豆島は、穏やかな瀬戸内の気候が生んだ奇跡の島だ。青い海と緑の丘陵が織りなす風景の中に、日本のオリーブ栽培の歴史が深く刻まれている。ここでしか体験できない搾油体験は、食と農への理解を一段深めてくれる旅の宝物になるだろう。
日本のオリーブ発祥の地が持つ歴史
小豆島でオリーブの栽培が始まったのは、明治41年(1908年)のことだ。当時の農商務省が、温暖な気候を持つ三重・鹿児島・香川の三県でオリーブの試験栽培を開始したが、本格的な生育に成功したのは小豆島だけだった。温暖で少雨という地中海性気候に近い瀬戸内の風土が、オリーブの生育に理想的な環境を提供していたのである。
以来、100年を超える歴史の中で小豆島のオリーブ産業は着実に根を張り、今では島全体に広大なオリーブ農園が広がっている。島のあちこちに樹齢100年を超える老木が現存しており、中には明治時代から生き続けている原木もある。こうした歴史の積み重ねの上に、現在の搾油体験プログラムは成り立っている。
単なる農業体験にとどまらず、日本のオリーブ文化の源流に触れる体験として、多くの旅行者が年々訪れるようになっている。
収穫体験——手摘みの意味を知る
搾油体験の醍醐味は、オリーブの実を自分の手で収穫するところから始まる点にある。収穫シーズンは主に10月から11月にかけてで、緑から黒紫色へと変わりゆく実を、農園スタッフの指導のもとで丁寧に手摘みしていく。
「なぜ手摘みなのか」——現地でその理由を知ると、オリーブオイルへの見方が変わる。オリーブの実は傷つきやすく、機械で叩き落とすと実に傷がつき、酸化が進んで品質が下がる。手で一粒一粒摘むことで、フレッシュな状態を保ったまま搾油へと繋げることができるのだ。
農園の斜面に広がる銀緑色のオリーブの木立の中に立ち、瀬戸内の海を眺めながら実を摘む体験は、日常から完全に切り離された時間をもたらしてくれる。参加者によっては数時間かけてじっくり収穫を楽しむことができ、農作業の大変さと喜びを身体で理解する機会にもなっている。
搾油の工程——オイルが生まれる瞬間に立ち会う
収穫した実はその日のうちに洗浄され、いよいよ搾油の工程へと進む。搾油体験では、伝統的な石臼による圧搾とモダンなコールドプレス(低温圧搾)の両方を見学・体験できる施設もある。
まず実を石臼や粉砕機でペースト状にすり潰し、次にそのペーストをマット状に広げてプレスにかける。じわじわと染み出してくる黄緑色の液体が、オリーブオイルと水が混ざった状態の粗いオイルだ。これを遠心分離機にかけると、純粋なオリーブオイルだけが分離される。
搾りたてのエクストラバージンオリーブオイルは、市販のものとは全く別物の香りを持っている。青草のようなフレッシュな香り、喉の奥にくる微かなピリッとした刺激——これは抗酸化物質であるポリフェノールが豊富に含まれているサインだ。スタッフの説明を聞きながら試飲すると、普段スーパーで手にとるオイルがまるで別の食品のように感じられてくる。
テイスティング——品種と味の違いを学ぶ
搾油体験のクライマックスとも言えるのが、テイスティングの時間だ。小豆島で栽培されている主なオリーブの品種には、マンザニロ、ミッション、ルッカ、ピクアルなどがある。それぞれ風味や香りが異なり、テイスティングでは品種ごとの個性を丁寧に比較することができる。
マンザニロはマイルドでフルーティー、ミッションはしっかりとしたコクと辛味、ルッカは繊細で香り高い——これらの違いを専門家のガイドとともに学ぶことで、日頃の料理の選択眼が変わってくる。どの料理にどの品種のオイルが合うのか、といった実践的な知識も得られるため、料理好きの参加者から特に好評だ。
テイスティングの後には、その場で購入できる搾りたてのオイルや、オリーブを使ったスキンケア製品なども揃っており、小豆島ならではのみやげ探しも楽しめる。
季節ごとの楽しみ方
小豆島のオリーブ体験は、収穫シーズンの秋だけが見どころではない。春(3〜5月)には白く小さなオリーブの花が咲き誇り、農園全体が甘い香りに包まれる。初夏から夏にかけては青々とした実が育ち、銀緑色の葉が瀬戸内の光に輝く様子が美しい。
収穫シーズン以外の時期でも農園見学やオイルのテイスティングは楽しめるため、オフシーズンに訪れてもオリーブ文化を体感することはできる。ただ、実際に収穫から搾油まで一連の工程を体験したいなら、10月〜11月の予約を早めに入れておくことを強く勧める。この時期は観光客が集中するため、人気のプログラムは数週間前から満席になることも珍しくない。
アクセスと周辺情報
小豆島へは、高松港・姫路港・岡山の新岡山港などからフェリーでアクセスできる。高松港からは約60分、姫路港からは約100分が目安だ。島内はレンタカーや路線バス、レンタサイクルで移動できるが、農園が点在する丘陵地帯を効率よく回るにはレンタカーが便利だ。
オリーブ体験の拠点となる「道の駅 小豆島オリーブ公園」周辺には、ギリシャ風車や白亜の建物が並び、写真映えするスポットとしても人気が高い。映画『魔女の宅急便』の実写版ロケ地としても知られており、観光地としての魅力も十分だ。
また、小豆島は醤油・そうめん・佃煮など食の産業でも名高く、オリーブ体験と組み合わせて島の食文化を深く探るルートを組むのもおすすめだ。滞在は一泊二日以上確保すると、島の魅力をより深く味わうことができるだろう。
アクセス
土庄港から車で約15分
営業時間
体験10:00〜、14:00〜(要予約、10月〜12月限定)
料金目安
3,000〜5,000円