広島県・宮島(厳島)に足を踏み入れると、世界遺産の厳島神社や野生の鹿など、四季を通じて見どころにあふれている。なかでも秋の紅葉谷公園は、島全体が燃えるような錦秋に包まれる特別な季節であり、日本の秋景色の中でも指折りの美しさとして多くの旅人を魅了し続けている。
紅葉谷公園とはどんな場所か
宮島のフェリー乗り場から歩いて約20分、弥山原始林へ向かう谷あいに紅葉谷公園は広がっている。公園内を流れる紅葉谷川に沿って遊歩道が整備されており、約700本ものイロハモミジやオオモミジが植えられた、まさに紅葉のための公園だ。春から夏にかけては緑豊かな木陰が涼しさをもたらし、ハイキングの休憩スポットとして親しまれているが、秋が深まると様相は一変する。赤・橙・黄の三色が渾然一体となって谷全体を染め上げ、川面に映る木々の色彩が幻想的な世界をつくり出す。
公園の名称の由来そのものが示すとおり、この谷は古くから紅葉の名所として知られてきた。江戸時代には俳人や歌人が訪れ、その美しさを句や歌に詠んだとの記録も残る。現在では国の名勝・天然記念物にも指定されている弥山原始林とともに、宮島の自然美を代表する場所として県内外から多くの観光客を集めている。
もみじと歴史が交差する厳島の背景
宮島は古来「神の島」として崇められ、島全体が御神体とされてきた。593年(推古天皇元年)に佐伯鞍職が厳島神社を創建したとの伝承があり、その後、平清盛による大規模な社殿整備(12世紀)によって現在の海上社殿の基礎が整えられた。1996年にはユネスコ世界文化遺産に登録され、海上に浮かぶ大鳥居と朱塗りの社殿は日本を象徴する景観として世界に知られている。
紅葉谷公園はそうした歴史の積み重ねの中で、参拝者や旅人の憩いの場として育まれてきた。公園内にある紅葉谷旅館(現在は宮島グランドホテル有もと)は明治期に創業した老舗であり、当時から紅葉狩りの賓客をもてなしてきた歴史を持つ。信仰と自然、そして旅文化が一体となって醸成されたこの場所の奥深さは、単なる紅葉スポットを超えた格別の趣がある。
11月の紅葉ピーク——見どころと歩き方
紅葉の見頃は例年11月中旬から下旬にかけてで、気温や天候によって前後することもある。公園入口から弥山ロープウェイ紅葉谷駅まで続く遊歩道はほぼ平坦で、舗装されているため歩きやすい。朝の早い時間帯は人が少なく、川のせせらぎと木漏れ日の中で静かに紅葉を楽しめる。一方、ライトアップが実施される時期(例年11月上旬から下旬の期間限定)の夜は、照らし出された真紅のもみじが幻想的な空気をまとい、昼間とはまた異なる表情を見せる。
ロープウェイを利用すると、さらに奥深い紅葉鑑賞が楽しめる。紅葉谷駅から榧谷(かやたに)駅、そして獅子岩駅まで約15分、眼下に広がる錦の山並みを空中から俯瞰するダイナミックな体験ができる。獅子岩展望台からは弥山山頂方面だけでなく、瀬戸内海の島々や本州の山並みまで見渡せ、色づいた森と青い海のコントラストはここでしか見られない絶景だ。
厳島神社と紅葉を組み合わせた撮影スポットとしては、大願寺裏手の紅葉と大鳥居を同時に収められるポイントや、多宝塔(弥山への参道沿いにある)周辺が知られている。神社境内や参道沿いにも紅葉が点在しており、信仰の場と秋色の調和を感じながら巡ることができる。
宮島ならではのグルメと体験
宮島を訪れたなら外せないのが「もみじ饅頭」だ。もみじの葉をかたどった皮に餡を包んだこの菓子は、明治40年(1907年)ごろに生まれたとされる宮島の名物で、現在は粒あん・こしあん・クリームチーズ・チョコレートなど多彩なバリエーションが揃う。表参道商店街の各店舗では焼きたてを提供しており、紅葉谷を歩いた帰りに熱々を頬張る旅人が絶えない。
秋の宮島ではほかにも、旬の牡蠣(広島産)を使った料理が各所で楽しめる。牡蠣フライ、焼き牡蠣、牡蠣鍋と調理法も多様で、瀬戸内の恵みを味わいながら錦秋の島旅を締めくくることができる。
アクセスと周辺情報
宮島へは、JR山陽本線「宮島口駅」からJR西日本宮島フェリーまたは宮島松大汽船で約10分。フェリー乗り場から紅葉谷公園入口まで徒歩約20分(厳島神社の表参道商店街を経由)。紅葉谷駅からロープウェイに乗車する場合は事前に混雑状況を確認しておきたい。紅葉シーズンはフェリーや島内も非常に混雑するため、平日や早朝・夕方の訪問が快適に過ごすコツだ。
宮島島内には宿泊施設も複数あり、一泊して朝夕の静かな島の表情を楽しむのもおすすめ。夕刻の大鳥居と夕焼け、翌朝の清廉な空気の中での参拝など、日帰りでは味わえない宮島の魅力に気づくことができる。紅葉谷公園は弥山へのトレッキングルートの入口でもあるため、体力に自信がある旅人は登山道を歩いて山頂を目指し、標高535メートルから眺める紅葉の島と瀬戸内の大パノラマを堪能するのもよいだろう。
アクセス
宮島桟橋から徒歩約20分
営業時間
散策自由
料金目安
無料(ロープウェイは別途)