北海道の広大な大地に、夜明けとともに蹄の音が響く。安平町早来地区——ここは日本が世界に誇るサラブレッドの里であり、競馬ファンのみならず、馬と自然を愛するすべての旅人を惹きつける特別な場所だ。早朝の澄んだ空気の中で見る調教風景は、北海道の旅でしか体験できない忘れがたい光景である。
サラブレッドの聖地・安平町とは
北海道勇払郡安平町は、苫小牧市の東に隣接する人口約7,000人ほどの小さな町だ。しかしその名は、競馬界においては世界的に知られている。この地域は年間降水量が比較的少なく、丘陵地の地形が馬の育成に適した牧草地を形成しており、日高地方と並んで日本有数のサラブレッド産地として発展してきた。
「サラブレッド銀座」とは、早来地区の国道234号線沿いに牧場が連なるエリアの愛称だ。道路の両側には広大な牧草地が広がり、白木の柵越しに馬たちの姿が見える。数十件もの牧場がこの通り沿いや周辺に密集しており、どこを向いても馬の姿が目に入るという、まさに馬の里らしい風景が続く。
ディープインパクトを生んだノーザンファーム
このエリアを語る上で欠かせないのが、日本最大手の牧場「ノーザンファーム」の存在だ。2004年のクラシック三冠馬・ディープインパクトをはじめ、コントレイル、アーモンドアイ、グランアレグリアなど、近年の日本競馬を席巻してきた名馬たちがここで生まれ育った。
ノーザンファームの施設は一般公開されていないが、道路沿いから広大な牧草地や施設の一部を眺めることができる。早朝に通りかかると、管理されたコースを颯爽と走る若駒の姿が見られることもある。日本競馬の頂点を支える現場が、こうして目の前に広がっているという事実だけで、競馬ファンならば感慨深いものを感じるだろう。
早朝調教見学——夜明けの牧場へ
早来サラブレッド銀座の最大の魅力は、早朝の調教見学だ。多くの牧場では夜明けから午前8時頃にかけて、若馬たちの調教が行われる。ジョッキーや調教助手が馬に跨り、広い調教コースや牧草地を走らせる光景は、競馬場では決して見ることのできない生の迫力がある。
調教見学は基本的に道路や公共の場所から行うのがマナーだ。牧場の私有地への無断立ち入りは厳禁であり、また大声を出したり急に動いたりして馬を驚かせることも避けなければならない。それでも、道路に沿って設けられた柵の外から眺めるだけで、数メートルの距離まで馬が近づいてくることもある。朝露に濡れた草地に蹄の音が響き、白い息を吐きながら疾走する馬の姿は、言葉を失うほどの美しさだ。
特に見学に適した時期は5月から10月。夏場は早朝でもほどよい気温で過ごしやすく、緑の牧草地とのコントラストが鮮やかだ。朝6時頃に現地入りし、サラブレッド銀座をゆっくりドライブしながら複数の牧場前で足を止めると、さまざまな馬たちの調教風景に出会える可能性が高い。
秋の当歳馬セリ——競馬産業の現場を目撃する
安平町では秋になると、当歳馬(その年に生まれた1歳未満の馬)のセリ市が開催される。競走馬の売買が実際に行われるこの場では、国内外のオーナーや調教師、エージェントが集まり、将来の名馬候補を見極める真剣な目が飛び交う。
セリの様子は一般客も観覧できる場合があり、競馬ファンにとっては夢のような体験だ。まだ小さな子馬が堂々と歩く姿を見ながら、その中に将来のGI馬がいるかもしれないと思うと、胸が躍る。競馬産業の川上を支える北海道の牧場文化を肌で感じられる貴重な機会であり、秋の北海道旅行の目玉にしたい体験の一つだ。
周辺の見どころとアクセス
安平町へのアクセスは、JR苫小牧駅からバスを利用するか、新千歳空港からレンタカーを使うのが一般的だ。レンタカーであれば新千歳空港から約40分ほどで到達でき、自分のペースでサラブレッド銀座をドライブできるため、特にこのエリアの観光にはレンタカーの利用を強くおすすめしたい。
周辺には「ノーザンホースパーク」(苫小牧市)があり、こちらは乗馬体験や馬との触れ合いが楽しめる一般向けの施設だ。サラブレッド銀座の見学と合わせて訪れると、馬の世界をより深く体験できる。また、苫小牧港周辺の海鮮グルメや、近隣の支笏湖(日本有数の透明度を誇るカルデラ湖)も合わせて楽しむことで、充実した北海道旅行のプランを組むことができる。
早来地区には道の駅「あびら D51ステーション」もあり、地元の農産物や特産品が揃う。蒸気機関車D51が展示されているユニークな道の駅で、休憩がてら立ち寄ってみるといいだろう。
馬と旅するための心得
牧場が密集するこのエリアを旅する際には、いくつかのマナーを守ることが大切だ。まず、私有地への無断立ち入りは絶対に避けること。柵の外から眺めるだけでも十分に素晴らしい体験ができる。次に、車を停める際は路肩や駐車スペースを確認し、牧場の作業車両や地元の農業関係者の妨げにならないよう注意する。
馬は音や動きに敏感な生き物だ。大きな声を出したり、急に動いたりすることは避け、静かに観察する姿勢が求められる。写真撮影は公道からであれば問題ないが、フラッシュ撮影は馬を驚かせる可能性があるため控えたい。
競馬場で歓声を上げて観る競走馬の雄姿も素晴らしいが、その馬たちが生まれ育ち、日々鍛錬を積む場所を訪れることで、競馬というスポーツへの理解と愛着はより一層深まる。早来サラブレッド銀座の朝は、静かで力強く、そして競馬という文化の根っこに触れる特別な時間を旅人に与えてくれる。
アクセス
新千歳空港から車で約30分
営業時間
見学自由(早朝5:00〜8:00頃が調教時間)
料金目安
無料