甲府駅の北口を一歩出ると、眼前に石垣がそびえる光景が目に飛び込んでくる。都市の中心部にこれほど雄大な城跡が残るのは、全国でも珍しい。甲府城跡——舞鶴城公園として整備されたこの史跡は、戦国の乱世から江戸時代まで、歴史の荒波を越えてきた山梨の記憶そのものだ。
武田氏滅亡後に生まれた城——甲府城の歴史
甲府城の歴史は、天下人・豊臣秀吉の時代にさかのぼる。天正10年(1582年)、本能寺の変で織田信長が倒れた後、甲斐国は一時徳川家康の支配下に置かれたが、やがて天下統一を果たした秀吉が家康を関東へ移封。代わりに秀吉の甥・羽柴秀勝が甲斐の国主となり、甲府城の築城が始まった。その後、加藤光泰が城主となり築城が進められ、浅野長政・幸長父子の時代に城はほぼ完成した。
甲府城は石垣普請を得意とした近世城郭の様式で造られており、野面積みや打ち込みはぎの石垣が特徴的だ。城域はかつて約20ヘクタールに及ぶ広大なもので、天守台・本丸・二の丸・三の丸などの曲輪(くるわ)が重なり、幾重にも堀が巡らされた本格的な城郭だった。内陸の要衝に位置する甲府は、関東を治める徳川家康に対する戦略的な抑えの拠点としても重視されていた。
江戸時代の甲府城——将軍家と柳沢吉保
関ヶ原の戦いを経て徳川体制が確立すると、甲府城は江戸幕府の直轄地(天領)として管理されることが多かった。甲府城主として特に知られるのが、五代将軍・徳川綱吉の側用人として権勢を誇った柳沢吉保(やなぎさわよしやす)だ。元禄15年(1702年)から城主を務めた吉保は、城下町の整備や文化振興にも力を注ぎ、甲府の発展に貢献した。
吉保の死後、甲府城は再び幕府直轄となり、甲府勤番(こうふきんばん)という制度のもとで管理されることになった。これは江戸の武士が交代で甲府に派遣され、城と城下を守る仕組みである。明治維新後は廃城となり、城の大部分は取り壊されたり、旧日本陸軍の施設や中央本線の敷地として使われたりしたが、石垣の多くは今日まで残り続けた。
見どころ——復元された建造物と雄大な石垣
現在の甲府城跡は「舞鶴城公園」として整備され、市民の憩いの場であると同時に、歴史学習の場としても親しまれている。城跡内で特に注目したいのが、復元された建造物だ。
稲荷櫓(いなりやぐら)は、平成11年(1999年)に復元された二層の隅櫓で、内部は歴史展示室として一般公開されている。甲府城の歴史や石垣の技法、出土した瓦や陶磁器などの遺物を展示しており、無料で見学できる。
鉄門(くろがねもん)は、平成16年(2004年)に復元された本丸への重要な門で、その名の通り鉄板で補強された堅牢な造りが特徴だ。かつての城の威容を現代によみがえらせたこの門をくぐると、天守台へと続く道が広がる。
天守台そのものは建造物が残っていないが、整備された石段を登ると頂上には展望スペースがあり、甲府盆地を一望することができる。晴れた日には富士山や南アルプスの峰々を眺めることができ、絶好の撮影スポットとして人気が高い。
季節ごとの楽しみ方——桜から冬の絶景まで
甲府城跡は、四季折々の表情を楽しめる場所としても名高い。
春(3月下旬〜4月上旬)は、何といっても桜の季節だ。舞鶴城公園には約200本のソメイヨシノが植えられており、満開の時期には石垣と桜が織りなす絶景が広がる。毎年「甲府城桜まつり」が開催され、夜間にはライトアップも行われる。桜越しに見る天守台は特に美しく、多くのカメラマンや花見客が訪れる。
夏(6〜8月)は緑が濃くなり、石垣の迫力が一層際立つ。公園内の木陰はひんやりとして過ごしやすく、朝や夕方の散策には格好の場所となる。
秋(10〜11月)は紅葉が石垣の灰色と美しいコントラストを生む。落ち着いた雰囲気の中でゆっくりと散策を楽しむのに最適な季節だ。
冬(12〜2月)は雪が積もると、石垣と白雪のコントラストが幻想的な風景を生み出す。空気が澄んだ冬の晴れ日には、富士山をはじめとする山々が最も鮮明に見える。防寒をしっかりして訪れれば、人出が少ない静かな城跡を独占する贅沢な体験ができる。
アクセスと周辺情報
甲府城跡へのアクセスは非常に便利だ。JR甲府駅の北口を出るとすぐに石垣が目に入り、徒歩1〜2分で公園の入口に到着できる。中央本線の特急「あずさ」や「かいじ」を利用すれば、新宿から約90分で甲府駅に到着する。
城跡の周辺には山梨の観光・グルメスポットが充実している。北側にはかつての二の丸跡に建てられた山梨県庁が広がり、南側には商店街や飲食店が並ぶ甲府市の中心市街地が続く。歩いて行ける範囲には、武田信玄を祀る武田神社(躑躅ヶ崎館跡)もあり、甲府城とセットで訪れることで、戦国時代から江戸時代にかけての甲斐の歴史をより深く理解できる。
また、山梨グルメとして名高いほうとうや鳥もつ煮を提供する店舗が甲府駅周辺に多く集まっており、観光の締めくくりに地元の味を楽しむのもおすすめだ。ワイン好きであれば、甲州ワインを扱う酒店やレストランも数多くある。入場料は基本的に無料(稲荷櫓などの一部施設を除く)で、甲府駅から徒歩圏内という利便性もあり、地元の人々の日常の散歩コースとしても、旅行者の観光スポットとしても、幅広く愛されている史跡だ。
アクセス
甲府駅から徒歩圏内
営業時間
09:00~17:00(山手御門展示室)
料金目安